3-1「気が付けば森の外」
「う、んん……」
朝になって眠りから目覚めるように、何の変哲もなく俺は意識を取り戻す。
「はっ?!」
そして、直ぐにそれがおかしい事に気付くと、慌てて視線と共に手を自分自身の腹部にあてがった。
そこにあったのは、僅かに土で汚れているだけの愛用の寝間着。そこには無理矢理引き裂かれた穴はなく、当然のようにその下の我が身も無傷。血と思われる黒ずみの一つ、見出す事は出来ない。
「どうゆうことだ?」
俺は確かに、あの化け物が飛ばした牙に腹を貫かれた。そのはずだ。
ナイフどころか杭で撃ち抜かれたに等しい損傷は十分致命傷足り得ていたし、あの時感じた生きたまま身を焼かれるような激痛が夢だったとは考えにくい。
しかし、実際問題、あったはずの損傷は痕跡すらなく消滅し、身体も痛みなど微塵も感じない健康そのもの。
疑問は深まるばかりだ。
いや、それも勿論だが。
奴はどこに?
そこに思い至り、慌てて周囲を確認する。
もしかしたら後で喰らおうとクレイジータイガーの巣のような場所まで運ばれたのかと、恐怖心を抱きつつ警戒したのだが、その考えは思わぬ肩すかしに終わる。
どうやら、ここは草原のようだった。
せいぜいが足首程度の高さにまでクローバー的な雑草が生い茂った、辺り一面草の絨毯。それが、吹きぬける風に揺られ、同じような色合いの草でもその揺れによって濃淡が変化し美しい天然のグラデーションとなって映える。
まだ日も高く、まるで初春を思わせる陽気な陽の光が気持ちが良い。樹海の木漏れ日とは、雲泥の差があった。
そして何より、クレイジータイガーの姿は影も形もなかった。
「居なく、なった?」
どうゆう訳か、ここにクレイジータイガーは居ないようだ。多分、ここが奴の巣という様子も見た感じではないので、ただの気まぐれか何なのか、俺達は奴に見逃されたらしい。
「そうだ! あの子は!?」
無力な俺を助けに入った為にAランクの魔物と戦うはめになった、そして、その果てに痛烈な一撃を貰ったはずの名も知らぬ少女。
果たして、彼女はすぐに見つかった。と言うか、すぐ隣に眠っていた。
丁度、ハの字を描くように人1人分くらい微妙に距離を置かれて俺達は寝かされていたようだ。
そして俺と同じように、彼女もまた違和感を体現してそこに在った。
あの時確かにクレイジータイガーの凶刃に掛かって引き裂かれたはずの革の胸当ては何事も無かったかのように修復され、彼女自身の傷も傍目に治っているように見える。
まるで、時間を巻き戻したかのような不可思議な所業である。
いわゆる回復魔法か、復元魔法でも使われたよな――――
でも、一体、誰が?
俺が意識を失う直前、聞き覚えのある誰かの声を聞いたような気がするのだが――?
もう一度、辺りを見渡しても、この場に居るのは俺と彼女の二人だけで、他には誰も居ない。
状況から言っても、おそらく第三者があの場に居たのはほとんど確定的だが、その人物もまた姿を消した。
なんとも謎が謎を呼ぶ感じだが、それを考えた所で首を傾げる以外、出来る事はなさそうだ。
とりあえず今は、生きている。そのことに、安堵するとしよう。




