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2-EXTRA「ナシワーツ樹海定期調査②」

 突如響き渡った魔物の咆哮に、私は樹の陰に身を潜めつつ、注意深く周囲を窺う。

 魔物の声がした方角は意外と近い。

 それと、微かに聞こえたのは――――


 まさか、人の声!?

 なんでこんな森の中に、人が!?


 災厄のダンジョンの一つ“ナシワーツ樹海”には、通常、ギルド発行の許可証がなければ入る事は許されていない。

 その理由は、過去にレベルが低い者が無暗に森に入った結果、森から《はぐれ》を引きずり出すという最悪の事故が起こった為。

 そんなわけで、それ以降はその都度許可証が発行される事となり、現時点でその許可証が発行された事実がないのはギルドが確認済み。

 本来なら、この森には私以外の人間が居るはずがない。

 と言う事は――――


「どっかの馬鹿が、ルール破ったわね!」


 気が付いてしまった以上、そのバカの安否を確認しないわけにはいかない。

 馬鹿がここで魔物に襲われて死んだとしてもそれは単なる自業自得なのだが、仮に魔物に狙われたまま森からそのバカが飛び出してしまうと《はぐれ》が発生してしまう。

 それは防ぎたい所だし、なによりいくら自業自得とは言え、見捨てて見殺しにするのはいくらなんでも寝覚めが悪い。

 私は、魔物の声を頼りに、駆け出した。


 程なくして、私は独りの男性を発見する事となる。

 その人を見た瞬間、私はその人の正気を疑った。

 上下が灰色で統一された衣服に身を包んだその男性は、武器も防具も一切身に着けていなかった。しかも、戦闘によって防具類が破損した結果というようにも見えず、どうみても着の身着のまま森に入ったとしか思えない。

 だとしたら、バカを通り越した狂気の沙汰である。仮にナシワーツ樹海でなくとも、ダンジョンに普段着で入るなど正気ではない。

 ――とはいえ、今は。


「伏せて!」


 駄目だ!

 咄嗟に間に合わないと判断した私は《ウインドブロー》の魔法を使って男性を突き飛ばす。

 次いで、牽制の為の《フレイムランス》を見舞う。魔物との距離が近く、もしかしたら多少の巻き添えは受けたたもしれないが、無許可で侵犯したのはあちらで、つまりは自業自得だ。

「こっちよ。急いで!」

 呆然と佇む男の手を取って、私はその場を逃走した。


 走りながら男の話を聞いて、私はますますこの男の正気を疑わざるを得なくなった。

 なんと、この男が今着ているのは寝間着だという。もはや、理解不能だ。

 その見た目に違わず、戦闘経験などあるはずもなく。

 ここまで来ると、私自身の不運を嘆きたくなる。


 案の定、私達はすぐさま、先ほどの魔物の再襲撃を受けた。

 敵は、よりによってAランク指定の《クレイジータイガー》。最悪である。

 とっさに男を突き飛ばして逃がし、私は両手に短剣を持って構える。

 メズゥー流護剣術『鉄鼠の構え』。これは攻撃を捨て防御に重点を置いたメズゥー流の基本にして奥義たる構えである。その神髄は、とにかく敵の攻撃を受け流し、衝撃を拡散させる事にある。

 その流派の技と、魔法を組み合わせて戦うのが私の戦闘スタイルなのだ。

 問題は、私のスタイルが、とれだけあの化け物(クレイジータイガー)に通用するか。

 Aランク指定という未知との戦闘の火蓋が切られる。

 爪自体は剣で防ぎ、自ら後方へと飛びずさって相手の衝撃を逃がす。流派の基本的な技を持ってしても、相手の膂力とこちらの防御力に絶望的なまでの開きがあるのは埋め難い。

 私は敢え無く弾き飛ばされる。だが、やられっぱなしでは終わらない!


「逆巻け炎、風纏いて爆ぜよ《フレイムバースト》!」


 私が使える魔法の中でもとっておきの一つ《フレイムバースト》をお見舞いする。


 ――――が。

 奴は、それを咆哮で掻き消すと、追撃で放った《ファイヤーボール》に至っては直撃しても平然とした様子で突っ込んでくる。

 なんとか《ハイスピード》の魔法で移動速度を瞬間的にあげることで凌ぐが、クレイジータイガーの挙動は予測を遥かに超えていた。

 私に攻撃を回避されるや、その一瞬後には追撃となる爪が振りかぶられていた。

 咄嗟に《風の防壁(エアシールド)》を張ろうとしたが間に合わず、その爪は私に振り降ろされた。


 正直、それ以降の記憶は曖昧だ。

 革鎧が引き千切られ、その下の肉も引き裂かれたのはおぼろげに覚えている。

 燃えるような痛みも覚えがある。

 だが、その後のあの男の行動は現実だったのか夢幻だったのか――――。


 貴方、戦えないって言ってたじゃない。なら、早く逃げなさいよ、と思う一方。

 朦朧とする意識の中、それでも必死にあがない戦う男の姿を見た、気がした――――。

そんわけで(どんなわけだ!)、ヒロイン視点の後編でした

人によっては、このエピソードは蛇足だと感じるかも知れません(^_^;)

そう思うなら、①の時点でそう言っとけよって感じかも知れないですが、主人公視点では分からない状況説明も含めたかった部分もあるので勘弁下さいませ

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