2-15「vs.クレイジータイガー③」
武器すら持っていない丸腰で、体育の授業で義務的に柔道を習わされた以外で戦闘とは無縁の素人以下でしかない自分が、無謀にも彼女を助けようと思った時、すがれるものがコレくらいしかなかったというのが大きな理由だろう。
俺が思い出したのは、スキル《アイテムボックス》の中身をまだ確認していなかったという事だった。
僅かな希望を抱いて、俺はステータスボード上にある《アイテムボックス》のアイコンを二度、タップして《収容物一覧》を表示させる。
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《アイテムボックス/収容物一覧》[残り容量:98%]
・お金[総計255,613リョウ(内訳 金貨2枚,銀貨5枚,銅貨56枚,鉄貨13枚)]
・狩猟刀"成牙"(☆☆☆☆)
・鋼殻樹の小盾(☆☆☆)
・ポーション(☆)×1
・マナポーション(☆☆)×1
・フェニックスの煎薬(☆☆☆)×1
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「なんか微妙だけど、とりあえず武器があるだけマシか…」
俺は一覧の中から、《狩猟刀"成牙"》と《鋼殻樹の小盾》を選択して、タップする。
タップと同時に、いつの間にか俺の右手には剣が握られ、左腕には分厚い樹で作られた盾が装着されていた。
両者が装備品だったからなのか、おそらくスキルの恩恵だろうが取り出すと同時に自動で装備される仕様だったようだ。
実に都合が良い!
出現した《狩猟刀"成牙"》は、長さ30㎝程度の緩く湾曲した刃が伸びたナイフ、より正確に分類するなら鍔がない点から匕首に分類される片刃の短剣であった。
その刀身は一般的な刀剣に視られる銀や鈍色をしておらず、白磁器を彷彿とさせる乳白色に染まっており、何より軽い。
一方の《鋼殻樹の小盾》。
こちらも大きさは直径で30㎝程度、その名の通りに素材が木製とはっきり分かる小型の盾だ。
形状は円形をしており、盾本体の裏に設けられたベルトで腕に直接固定して用いる形式が採用されている。
正直、どちらの武具も小型で、あの化け物を相手にするには非常に心許ない。
けれども、ここで例えば身の丈程の大剣と、異世界で定番のオリハルコン製の頑強な大盾を貰っていた所で、結局、それを使いこなす技術がない以上、宝の持ち腐れにしかならない。
その点、この《狩猟刀"成牙"》は技術が拙くても扱いそのものは難しくなく、《鋼殻樹の小盾》にしても小型であるが故に取り回しはし易い――ように思う。
そうしている内に、クレイジータイガーはもう彼女のすぐ傍まで歩み寄り、今にもとどめの一撃を繰り出しそうな位置にまで近づいている。
もう、猶予はない。
俺は覚悟を決めると、ドスを構えて突貫する任侠映画のヤクザ宜しく成牙を真っ直ぐに構えてクレイジータイガー目掛けて突撃を敢行。
「ウオオオオオオオオオオ!」
敵うとか敵わないとか、そんな迷いを振り払う雄叫びを挙げて飛び出した俺は、いっそ体当たりするつもりで全力で駆け抜けるや、クレイジータイガーの巨躯に飛び込んで成牙の刃を押し当てる。
こちらを無力な唯の餌程度にしか思っていなかったクレイジータイガーは俺の方を全く見ておらず、注意すら向けていなかった事もあってその刃は脇腹へとぶち当たった。
「ッ!? ウソだろ!?」
本当に、こいつは生物か!?
実は、ロボットなんじゃねぇのか!?
成牙の刃は、確かにクレイジータイガーに命中している。
しかし、奴の皮膚に突き刺さったのはほんの数ミリ。
鉄――とまでは言わないにせよ、まるで丸太にナイフを突き立てたようなやたらと固い手応えと、その信じられない結果に唖然となる。
「あぁん!?」
いかにもそんなセリフが聞こえてきそうな奴の胡乱な視線が、俺を捉える。
そして次の瞬間には、「邪魔だ」とばかりにぞんざいに振られた前足が襲う。
咄嗟に左腕に装着された小盾を全面に差し出すが、俺が取れた対応はそれだけだ。
クレイジータイガーの攻撃力の前に、その程度の防御姿勢は然程の意味を成さず、俺は大人が幼児を突き飛ばす様に容易く弾かれ、ぶっ飛ばされる。
そして、その一撃で持って小盾も半壊し、俺自身も樹木へと強かに身体を打ち付け、地に伏す事になる。
くそッ!
勝てる――とまでは思ってなかったけど、全力で突き刺しに掛かって刃が数ミリしか食い込まないって何だよ!? 硬すぎるだろうが!
これがAランク!
単独で戦うのはバカの所業、精鋭達による集団戦でようやく互角。
正真正銘の化け物!!
ここまで反則的な強さが許されるのは、せいぜいドラゴンと相場は決まってるもんじゃねぇのかよ……。
魔法が使えず(使い方が分からない)、こちらの攻撃は全力で押し込んで掠り傷にも満たないダメージしか与えられない。
これがゲームなら、こいつはとんだ無理ゲーだ。
レベル1の勇者に、ゲーム終盤のダンジョンを初っ端から攻略させ、ボスクラスのモンスターと対峙させる。
ユーザーにクリアさせる気ゼロの理不尽かつ狂った難易度で、まさにネットで叩かれる事必至のクソゲー・オブ・クソゲー。
かつて異常に難しいゲームバランスのソフトが多かったファミコン世代のゲームですら、ここまで狂った難度のタイトルは存在すまい。
最後の頼みの綱であった《アイテムボックス》も、収納されていた武器では勝負にならず、盾も破損。
人間相手ならいざ知らず、魔物相手に金で見逃してもらう事など出来るばすもなく。
いくら回復薬があっても、反撃の目途が立たなければ回復する事自体が無駄でしかない。
「勝てるわけがねぇ…、くそったれ!」
緩慢に身を起こして樹木に背を預けながら、小声で罵る。
転生して即刻、ゲームオーバーって理不尽過ぎるだろ……。
よくある俺TUEEEEがしたかったわけじゃないが、今ばかりは俺TUEEEE系の世界観に生まれた主人公が心底、羨ましいく思う。
それに比べて俺のスキルなんて――――――スキル?
俺の脳裏に、最期の手段が閃く。
それは、作戦と言う程の物でもない。
所詮は、スキルを使っての無謀な特攻である。
「……どうせ失敗して元々、か。イチかバチか、上手く行かなくても嫌がらせくらいにはなるだろ」




