2-14「vs.クレイジータイガー②」
まるで樹海全域に渡って響き渡るような大音量でもって発せられた咆哮が、俺の耳を劈き、物理的に身体を振るわせる。
身体を包み込んでいた炎の竜巻は跡形もなく霧散し、その場に残ったのは毛皮に焦げ目の一つも付けずに佇む一体のクレイジータイガー。
傍目には一撃必殺のようにも見えた炎の竜巻を、ただの咆哮だけでかき消した……?
「チッ! 《ファイヤーボール》!」
先の魔法を割とあっさり無効化されてしまった彼女は舌打ちと共に、次なる魔法を放つ。
その標的であるクレイジータイガーは、飛来する火の玉を無視するように一切避ける動作をせず、地を駆ける。
途中、放たれた火の玉が命中するも、まったくの無傷。
それどころか、僅かの怯みすらもなく、彼女へ向けて疾駆する。
「嘘ッ!? ……《ハイスピード》」
またもその巨大な鋭い爪を振り上げるクレイジータイガーの一撃を、別な魔法を発動させた彼女が紙一重で避ける。
素早さを上昇させる魔法を使ったのか、動きを急に加速させた彼女だったが、それですら避けるのが僅差というクレイジータイガーの膂力の恐ろしさに戦慄する。
いや、戦慄するのはまだ、速かった。
彼女が避けるや否や、なんとクレイジータイガーはそこから彼女を追尾するように鋭角に身体の向きを切り替えると、数秒の時間差で第二撃目を見舞ってきたのである。
その動きは、まるで一昔前の漫画で描かれる稲妻の描写の如きで、もはや物理現象を無視しているとしか思えないような急激な軌道であった。
その挙動に彼女は、目を見開き。
「エアシ「グァァァァァ!!!!」………きゃあ!!!」
唱えかけた呪文も途中で遮られ、遂にクレイジータイガーの一撃が彼女の胸元を捉える。
糸が切られた人形のように投げ出される彼女。胸元を覆っていた革鎧は無残に引き千切られ、その下にある皮膚を裂いて血が舞った。
「ゲホッ!」
ゴロゴロと地面を転がり、もうやく止まるとたまらず咳き込む。
懸命に立ち上がろうと力を込めるのが見て取れるが、それでも受けたダメージは深刻なのか、うまく立ち上がる事が出来ない。
「グルルルルルル……」
低く唸り声を漏らすクレイジータイガーは、動けない彼女に止めを刺すつもりなのか悠然と歩み寄っていく。
クソ! このままじゃあの子が殺される!
俺は基本的に臆病だし、自分から進んで人助けに乗り出すような善人ではない。今この瞬間にも、この場から全力で逃げ出したいし、あんな化け物と関わり合いになりたくもない。命が惜しいし、結局いつだって一番大事なのは我が身。保身に走るなら、あのトラが彼女に気を取られている隙に、少しでも距離を稼いで逃げ去るのが一番の正解……のはずだ。
――――でも。いや、ある意味で、だからこそ。
そんな絶望的な状況下にあった自分を助けようと手を差し伸べてくれた人を見殺しにして逃げる、そんな恥さらしにだけは、なりたくないとも思った。
いや、そんな回りくどい言い方は止めよう!
俺が思ったのは単純に、あの子を助けたい、と言う事だった。
この危機的状況、どうせなら、二人揃って無事生還する。
そんな理想像を夢想するくらいは、誰にだって許されるだろう。
例え無様であっても、無駄な抵抗でしかなくても、それでも!
判明している俺のスキルで、詳しい検証を後回しにしていたあのスキルが、頭に過る。
――もしかしたら、あの中に何か使える物が眠ってたりするかも!
「スタータス・オープン! 頼むぞ、《アイテムボックス》!」
そして俺は、ステータスボード上にあるスキル《アイテムボックス》のアイコンをダブルタップした。




