2-11「逃走してたら、愕然となる事実を(今更)知る」
少女に手を引かれるままに、樹海をひた走る。
この少女こそ、クレイジータイガーに噛み殺される寸前の俺を救ってくれた人物、その人だ。
肩に届くか否かの長さに切りそろえられた黒髪のショートヘアー、軽く日焼けして黄褐色の肌、いずれも日本人を彷彿とさせるアスリートタイプの美少女である。
年はおそらく十代後半から二十代前半といった所か。
制服に着替えさせれば女子高生で通用しそうな可憐な見た目だが、残念ながら(?)今の彼女の服装は茶系の色合いをした簡素なインナーと動物の革を幾つか重ね縫いしたような素材で作られた胸当て、それと同様の素材を使っていると思しき肘当てと脛当てという所謂、革鎧とでも呼ばれるような出で立ちであった。
更に言うなら俺の手を引く左手とは逆の右手には刃渡り30㎝くらいありそうな短剣が逆手に握られているという臨戦態勢。
兵士が単独行動を取るのも妙な話なので、おそらく彼女は女神様との話にあった『冒険者』と呼ばれる職業に就くモンスター専門の狩人なのだろうと、俺は内心納得する。
「大丈夫? 怪我、してない!?」
先ほどの爆発からしばらく開いた事で、俺の聴覚も大分正常に戻っている。
だからこそ、彼女のこちらを心配しつつも、多少の憤りが含まれた声もきちんと聞こえていた。
「あちこち痛いけど、とりあえず生きてるよ。ありがとう」
今まで何度か身体をぶつけた為に万全とは言わないまでも、それは張り切って肉体労働した後の筋肉痛――程度の痛みなので、無視できる範囲の痛みだ。
実際、今こうして走れてるしね。
「貴方、気は確か!? なんの装備も無しに、そんな恰好でナシワーツ樹海に入るなんて、死にたいわけ!?」
お礼は基本と謝意を述べたら、かなり真剣に怒られた上に、正気を疑われました――――
いや、……うん。
彼女の言い分は、良く分かる。
あんな化け物が居る場所に、こんな恰好――って!?
「よく見りゃ、これ寝間着じゃねぇかよ!?」
今更――ホント今更なんだが、俺の今の恰好を改めて見て愕然となる。
保温性と吸水性に優れたスウェット生地のトレーナー、下も同様のスウェットパンツ。
そして、カラーはどちらも灰色。
近所の服屋で投げ売りされていた在庫処分品にして、寒い冬場の冷え込む夜のお供にして長年愛用し続けた至高の名品(俺主観)である。
「はぁ!? 寝間着って、ますますもって何考えてんの!?」
「こっちが知りたいよ!?」
女神様、女神様!?
貴方は確かにこう言いました。
『寝てる最中にいきなり心臓が止まって、朝にはポックリ逝ったようじゃな』
でも、だからと言って、死んだときの恰好そのままで異世界転生させなくても良くないですか?
増してや、こんな樹海の真っただ中に!?
他の異世界転生モノでも、現代の恰好が転生先ではオーバーテクノロジーってパターン結構あるんだし、何より化け物がうろつく場所に送り込むなら、せめて彼女のような革鎧くらい提供して下さっても罰は当たらないでしょう!?
いろんな意味で、もう泣きそうです!




