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Summer Friend  作者: Time Bomb
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6/9

第5話

後半スタートです。

よろしくお願いします。

――中学3年生、夏休み後半。


 かずくんと別れてから、残りの夏休みは本当に大変だった。


 お父さんとお母さんにお願いして、僕は塾に通い始めた。

 学校に通えなかった分を取り戻すように、必死に勉強した。


 お父さんたちも、僕がまた家に引きこもってしまわないように、不登校に理解のある塾を探してくれた。


 いきなり外に出て、知らない人たちと一緒に勉強するのはハードルが高いだろうと、塾側も考えてくれて、夏休み中はまず自宅でオンライン授業を受けるところから始めることになった。


 二学期になっても、僕は結局学校へは行けなかった。


 それでも、お母さんが学校側と話し合ってくれて、「塾で学校と同じ内容の授業を受けていれば、出席扱いにできる」という話を取りつけてくれた。


 お母さんはさっそく塾長にも相談して、二学期からは僕と同じように学校へ行けなくなってしまった子たちと少人数クラスを組んでもらえることになった。


 塾は家から少し距離があって、同じ中学の知り合いはいない。


 不安もあったけれど、勇気を振り絞ってその輪の中に入っていった。


 「同じ年齢の誰かと同じ空間で勉強する」という、当たり前のはずのことが、今の僕にはとてつもなく大きな一歩に思えた。


 ——今なら、頑張れる。


 僕には、かずくんがついていてくれる。


 そばにはいなくても、もしまた何かを始めるときに怖くて足がすくみそうになったら、その背中をそっと押してくれる。


 そんな気がしていた。


 少しずつだけれど、僕は勇気を出して、同じクラスの子たちに話しかけるようになり、気づけば友達もできていた。


 授業も、はじめは数人から、だんだん人数が増えていったけれど、前みたいに教室の空気を怖がることなく、自然と勉強に集中できるようになっていた。


 かずくんのおかげで、僕はもう一度「頑張ってみよう」と思えた。


 そのおかげで高校受験も無事に合格して、僕は中学の友達が誰もいない、少し離れた高校へ進学することになった。


 本当は、高校に受かったことをすぐにでもかずくんに伝えたかった。


 だけど、連絡先を知らない僕には、それができない。


 結局その報告を伝えられたのは、高校一年の夏休み——おばあちゃんの田舎に帰ったときになってしまった。


ーー上村家


 かずくんと、そのお父さんのお墓参りを終えると、上村のおばあちゃんは「二人とも、ちゃんと家に帰って来られたね」と嬉しそうに微笑んだ。


 家族には一応「田舎のおじいちゃんとおばあちゃんのお墓参り」と説明してあるので、そちらは翌日の午前中に行かせてもらうことにしている。


 それにしても、この田舎の人たちは本当に温かい。


 田舎のおじいちゃんたちのお墓は、かずくんの家からかなり離れていて、バスを使っても最寄りのバス停からさらに徒歩三十分はかかる場所にある。


 はじめは民宿のオーナーに自転車を借りようかと思っていたが、その話を聞いていた新太さんが「それなら俺が車を出すよ」と声をかけてくれた。


 お墓参りをしている間、上村のおばあちゃんがひとりになってしまうからと、民宿の奥さんが「その間は私が一緒にいるから、気にせず行っておいで」と言ってくれて、全部が自然にうまく回っていく。


(本当にありがたいな。

 きっと、かずくんはこんな心の温かい人たちに囲まれて育ったから、あんなに優しい人になったんだ。)


 お墓参りも無事に終わり、お盆が終わるまでの間は、僕はかずくんの家で上村のおばあちゃんとのんびり過ごした。


 もともとは、お盆の期間中は民宿に泊まる予定だった。


 でも、上村のおばあちゃんが一時的に退院できることになったと聞いて、オーナーは「だったら、今年くらいはおばあちゃんと一緒にいてやりな」と言ってくれた。


 宿泊費も「返すよ」と申し出てくれたが、それはさすがに悪いと僕が断ると、今度は逆に「何もしていないのにお金だけもらう方が申し訳ない」と言われてしまい、結局、元の金額の半分だけ返してもらうことで落ち着いた。


 オーナーに対してはどこか申し訳なさが残ったけれど、そのぶん上村のおばあちゃんと過ごす時間は本当に穏やかで、楽しそうに笑う顔を見ていると、やっぱりこれでよかったんだと思えた。


 お盆のあいだは、かずくんもおばあちゃんの家に「帰ってきている」はずだ。


 もしかしたら、今年こそ会えるかもしれない——そんな淡い期待を抱きながら過ごしていたけれど、今年も何も起こらないまま、とうとうお盆最終日の前日を迎えてしまった。


 明日の夕方、かずくんはまたあちらの世界へ戻っていく。


 僕も、かずくんを「送り出した」あと、そのまま埼玉に帰ることになっている。


(……今年も、やっぱり無理なのかもしれない。)


 胸の奥がすっかり重くなっていたとき、玄関の方から元気な声が響いてきた。


 民宿のオーナーの声だ。


オ「おう! 馬渡くん。明日の夕方には帰っちゃうんだよね。」


り「はい、そうです。」


オ「だったらさ、せっかくだから一緒に飯でもどうだい? 上村さんも一緒に。」


り「いいですね。 おばあちゃんがよければ、行きたいです。」


上「せっかくだから、私も一緒に行きたいわ。」


 僕らのやり取りが聞こえたのか、上村のおばあちゃんも玄関に顔を出した。


オ「それじゃあ、ご馳走させてもらうよ。 馬渡くんも、上村さんの世話に付き合ってくれたからね。」


上「そうね。 今年も、お家でお父さんとかずくんと一緒にいられたもの。

  りくくんには、たくさん美味しいものをご馳走させて欲しいわ。」


オ「お! よかった。 ちょっとこのあと用があるから、一時間後くらいに迎えに来るよ。」


上「分かりました。 料金は私が出させてもらえますか? 奥さんにもお世話になったことだし。」


オ「いやいや、上村さんは今大変なんだから。 それに、馬渡くんからもらった民宿代のぶんを、料理で返させて欲しいんだよ。」


上「なんだか申し訳ないわ。 私だけよくしてもらっちゃって。」


り「いえ、おばあちゃんは逆に、僕を泊めさせてくれてるじゃないですか。」


上「それは、私も望んでいたことだし。」


オ「上村さんだって、今までは学校の合宿があるときによく手伝ってくれてたじゃないですか。」


オ「それに——馬渡くんは、もしかしたらうちにとって“最後のお客さん”かもしれないしね。」


り「え?」


上「もしかして、民宿閉めちゃうの?」


オ「まあ、そういうことだ。 昔は部活の合宿でよく泊まりに来てくれたんだけどな。」


オ「ほら、一昨年、運動施設を管理してた人が亡くなっただろ? あれから、うちもお客さんがほとんど来なくなっちゃってさ。」


上「そうだったわね……」


オ「まあ、今年中には店を畳んで、娘のところに引っ越そうかと思ってるよ。ありがたいことに、向こうが色々用意してくれててね。」


オ「って、ああダメだ、暗い話になっちゃったな。 ほら、今回は気にせず“最後の夜”を思い切り楽しもう。」


 オーナーさんは「ご馳走、期待しといてな!」と明るく手を振って帰っていった。


 元気なオーナーさんがいなくなると、さっきまであった賑やかさが嘘みたいに、少しだけ気まずい静けさが残った。


 僕はその空気を紛らわせるように、もう一本線香をあげてかずくんに手を合わせる。


上「ねえ、りくくん。」


り「! はい。」


 手を合わせたまま顔を上げると、おばあちゃんが少し迷ったような顔でこちらを見ていた。


上「前から、ずっと気になっていたんだけどね……りくくんって、かずくんと“知り合い”だったの?」


り「え?」


上「ごめんなさい、変なこと聞いて。 でもね、かずくんのことを話すとき、りくくん、時々すごく寂しそうな顔をしていたから。」


り「いえ……。」


 ——ああ、この空気の正体はこれだったのか、とようやく気づいた。


 よく考えれば、変な話だ。


 血のつながりがあるわけでもない、ただの「第一発見者」の僕が、わざわざ毎年お盆のたびにここへ来て、お墓参りをしている。


 上村のおばあちゃんだけでなく他の誰かであっても疑問に思わないはずがない。


 それでも今まで何も聞いてこなかったのは、おばあちゃんなりの気遣いだったのだろう。


 それでも——たぶん、「聞くなら今しかない」と思ったのかもしれない。

 だから今日、こうして口に出したのだ。


り「……かずくんとは、会ってないはずです。」


り「僕がかずくんを見つけたときには、もう三十年以上前に亡くなっていたんですもんね。

  そもそも、僕が生まれたときには、もうかずくんはこの世にはいなかったわけですし。」


 本当は、これ以上踏み込んでほしくない、という気持ちが先に立って、言葉は少し冷たくなってしまった。


 おばあちゃんを傷つけたかもしれない、と胸がちくりと痛む。


 でも、今の僕には、これ以上何かを話す余裕はなかった。


 また「そんなことあるわけない」と否定されたらどうしよう——その怖さが、喉の奥に重く詰まっている。


 それに、頭では「かずくんはもういない」と分かっているはずなのに、どこかでまだその現実を受け入れ切れていない自分もいる。


上「……はい。ここでおしまいにしましょう。ごめんなさいね、変なこと聞いて。」


上「ちょっとね、りくくんが明日帰っちゃうと思ったら、寂しくなっちゃって。」


り「いえ……。」


上「かずくんとりくくんが同い年だったら、きっと仲良くなってたのかしらね。」


上「……よし、オーナーさんが来るまで少し休みましょう。」


 「おばあちゃん、ごめんなさい」と心の中でそっとつぶやきながら、せめておばあちゃんの気遣いを無駄にしないように、僕も明るい声を出した。


り「おばあちゃん、スイカまだ少し残ってましたよね?」


上「そうだったわね。 今日いただかないと捨てることになっちゃうし、食べちゃいましょうか。」


 僕たちはスイカをつつきながら、オーナーが迎えに来るまで、僕の大学生活のことや、おばあちゃんの若い頃の話をした。


 ——こうやって一緒に他愛もない話をする時間も、もしかしたらこれで最後なのかもしれない。


 そう思うと、視界がにじみそうになるので、その考えは慌てて頭の奥へ押し込んだ。


 今だけは、泣き顔で終わりたくなかった。

読んでいただき、ありがとうございました。


Summer Friendは残り3話です。

次回更新は明日、8月14日 20:00頃を予定しています。


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