第3話
ーー翌朝。
朝ごはんを食べ、少しのんびりしていると、民宿のオーナーが「電話だよ」と声をかけてくれた。
受話器の向こうにいたのは、上村のおばあちゃんだった。
昨日先生が話していた通り、一時的に退院して家に戻れることになったらしい。
それに加えて先生からも、「もし上村さんの家に寄るなら、送り届けるついでに馬渡くんも迎えに行くよ」と言ってもらい、僕はありがたくお願いすることにした。
荷物をまとめていると、ほどなくして先生が迎えに来てくれた。
玄関先ではオーナーと女将さんが、いつものように満面の笑みで出迎えてくれる。
オ「おー! 先生、お疲れさま。わざわざ悪いねぇ」
女「外、すごい暑いでしょ。はい、これ」
女将さんは冷えたペットボトルのお茶を三本、先生に手渡した。
医「ありがとうございます。いつもすみません」
女「何言ってるのよ。私たちが元気でいられるのは先生のおかげなんだから!」
オ「馬渡くんも、上村さんのこと頼んだよ」
り「はい」
僕たちは民宿を後にし、まず最初に、かずくんが眠る場所へ向かった。
車を走らせて四十分。
山を少し登った先に、小さな神社が姿を現す。
その敷地の端っこに、かずくんとお父さんのお墓が並んでいた。
もう、気づいている人も多いと思うけれど――
かずくんは、もうこの世にはいない。
ここに来るたび、その現実を改めて突きつけられ、僕は少しだけ胸が締めつけられる。
上「お父さん、かず君。 今年も、りく君が来てくれたよ」
り「……かず君、久しぶり」
ふたりのお墓には、すでにきれいな花が供えられていた。
上「あら。 今年も、私たちより先に誰か来てくれてたみたいね」
医「どなたか、心当たりは?」
上「ううん。 もうお父さんも亡くなって、跡取りもいないからね。 昔はお父さんの代わりに私が掃除してたけど……。」
上「今はもう、神社そのものが廃れてしまって。」
上「それでも、時々こうして誰かがお賽銭をあげに来てくれたり、お花を供えてくれたりするのよ」
医「そういえば、馬渡くんも掃除を手伝ってくれてたんだよね」
り「はい。 本当は、おばあちゃんの代わりに僕がやれたらと思ったんですが……」
上「家から遠いもの、大変よ。それに、かず君が家にいるんだから、一緒にいてあげないと、かず君拗ねちゃうと思うわ」
り「……そう言ってもらえると、嬉しいです」
おばあちゃんは、墓前の花に、自分たちが持ってきた菊をそっと添えた。
優しい風が、山の上を通り抜けていく。
ここに来ることは、僕にとって「お墓参り」以上の意味がある。
ここへ来ないと、本当に、かずくんに会えなくなってしまう――
そんな気がしているからだ。
だから僕は、毎年この田舎へ帰ってきては、上村のおばあちゃんと一緒にこのお墓を訪れ、
「ただいま」と「また会いに来たよ」を、何度も何度も伝え続けている。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回更新は 8月12日 20:00頃 を予定しています。
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