第2話
こんにちは!Time Bombです。
一昨日、「Summer Friend」が文芸ランキングに掲載されました。
読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
それでは、第2話をお楽しみください。
ーー小学1年生の夏、僕はその時は7歳だった。
かずくんとの出会いは、小学一年生の夏だった。
おばあちゃんの家に帰るのは嫌いじゃなかったけれど、正直に言えば、何もない田舎村では二日もすればやることがなくなってしまうのが、いつものことだった。
テレビのチャンネルも少なく、同い年の子どももほとんどいない。
退屈な時間が、ただゆっくり流れていくだけ。
そんな、色のない時間を一変させてくれたのが――
上村和也、かずくんだった。
かずくんは、僕が小学一年生の時、ある日突然、おばあちゃんの家を訪ねてきた。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
それだけで、少し驚いてしまう。
この田舎村では、インターホンを鳴らす人なんてほとんどいない。
近所の人は勝手知ったる仲で、玄関まで直接上がってくるのが普通だった。
それだけ、この村が平和だということでもある。
おば「……あら、かずくん」
玄関先から聞こえたおばあちゃんの声に、僕は居間で首を傾げた。
か「こんにちは」
おば「りく、ちょっとおいで」
り「なに?」
呼ばれて玄関へ向かうと、そこに立っていたのは――
僕と同じくらいの背丈の男の子だった。
小学一年生とは思えないほど、目を引く笑顔の男の子だった。
ぱっと目を引く、爽やかな笑顔。
僕の通う小学校は、一学年に百五十人以上いる大きな学校だったけれど、その中にいても、きっと一番目立つだろうと思えるくらい、かずくんは印象的だった。
か「こんにちは。上村和也です」
り「こ、こんにちは。馬渡陸です」
緊張で、声が少し裏返ったのを覚えている。
おば「陸くんと同じ小学一年生なのよ。
かずくん、よかったら陸くんと遊んであげてくれる?
こんな何もない田舎じゃ、退屈でしょうし」
か「もちろんです。じゃあ、行こう!」
り「え?」
返事をする間もなく、かずくんは僕の腕を取って、ぐいっと外へ引っ張り出した。
遊ぶと言っても、特別なものは何もない。
村の中をぶらぶら散歩したり、かろうじて残っている、ブランコと滑り台だけの小さな公園に行ったり。
でも、不思議と楽しかった。
一人で過ごすより、ずっと。
人見知りな僕は、初対面の相手と打ち解けるのが苦手だった。
けれど、かずくんは終始にこにこしながら、自然に話しかけてくれた。
かずくんの小学校の話。
僕の学校の話。
話題は、なぜか途切れることがなかった。
その日以来、かずくんとは――田舎に帰るたび、毎日のように会うようになった。
ーー〈現在〉
かずくんとの最初の夏を思い出しながら、僕は上村のおばあちゃんとの、いつもの他愛もない会話を楽しんでいた。
毎年ほとんど同じ話をしているはずなのに、なぜかその度に新鮮で、初めて聞くみたいに会話が弾む。
僕とおばあちゃんが笑い合っていると、病室のドアが「コンコン」とノックされた。
医「ごめんね。 楽しそうなところ悪いけど、上村さん、少し検診いいかな」
上「あらあら、もう18時過ぎてしまったのね」
医「何度か様子を見に来たんだけど、笑い声が聞こえてさ。」
医「邪魔しちゃ悪いな〜と思って、入るタイミング逃しちゃったよ」
り「すみません…」
医「いやいや。 楽しそうな顔が見られてよかったよ」
上「ごめんなさいね、こんな時間まで付き合わせちゃって。」
上「陸くんも、早く帰らないと暗くなっちゃうわね」
り「まだ夏ですから大丈夫ですよ。 でも、そろそろお暇します」
医「さっきね、電話があったよ。 これから車で迎えに行くって。」
医「もうちょっとここで待ってていいよ」
り「本当ですか。 わざわざすみません」
医「みんな、馬渡くんが来てくれたのが嬉しいんだよ。」
医者「ここではね、『優しさには遠慮なく甘える』って決まりなんだ」
り「……分かりました」
ここの人たちは、みんな本当に親切だ。
ずっとこの場所にいたい――そう思ってしまうくらい、心があたたかくなる。
上「そういえば、りくくん。 まだはっきりとは分からないんだけどね…。」
上「もしかしたら、明日退院できるかもしれないの」
り「本当ですか!」
医「うん。 明日の朝の検診で問題がなければ、一時退院を認めようかなと思ってる。」
医「かずやくんも帰ってくるだろうし、家で過ごさせてあげたいからね」
上「先生、いつもお心遣い感謝してます」
医「いえいえ。 ただ、その代わり――何かあったらすぐに連絡してくださいね。」
医「状態は安定しているけど、いつ容態が悪くなるかは誰にも分からないから」
上「はい。分かりました」
その時、院内に「ピンポーン」とインターホンの音が響いた。
医「お迎えが来たみたいだね」
り「はい。」
り「それじゃあ、おばあちゃん。 また来ます」
上「ええ。また明日ね。 楽しみにしてるわ」
僕は病室を後にし、先生に案内されて1階へ降りた。
り「あの、先生…!」
医「うん?」
り「上村のおばあちゃんって……そんなに、状態が良くないんですか?」
医「うーん…。 ちょっと言い方が悪くなっちゃうかもしれないけどね。」
医「馬渡くんはご親族じゃないから、本来は詳しいことは話せないんだ」
り「……そうですよね」
医「でも、馬渡くんは1年に1度しか会えないんだろう?」
医「その気持ちも分かるから、少しだけね」
そう言うと先生は「ここでちょっと待ってて」と僕を小さな待合室に座らせて、一度奥に引っ込んだ。
数分後、先生は戻ってきた。
医「新太さんには少しだけ待ってもらうようにお願いしてきたよ。」
医「簡単に、状況だけ説明するね」
無意識に喉が唸ってしまう。
医「上村さんの容態は、今は“安定している”と言っていい。」
医者「ただ、このまま来年の夏を迎えられるかどうかは約束できない」
り「……五分五分、ってことですか」
医「そういうことになるね…」
蝉の鳴き声が遠くから響く。
医「まだ“完全に手遅れ”というわけではない。
大きな手術をすれば、完治の可能性もゼロではない。」
医「でも、年齢的に手術に耐えられるかどうか、そして手術が成功するかどうか…どちらも五分五分だね」
医「そのことを正直にお話ししたら、上村さんは“手術は受けない”と決めた。」
医「僕も、今の状態では“やりましょう”と強く勧めることができなかった」
り「……そうですか」
頭の中が、一瞬で真っ白になった。
去年まで、あんなに元気だったおばあちゃんが、「来年の夏、もうここにはいないかもしれない」――
その現実が、急に目の前に突きつけられた気がした。
今、僕とかずくんをつないでくれている、唯一の存在。
そのおばあちゃんまで失ってしまったら、僕は――
“もう二度と、かずくんに会えなくなってしまう”
そんな言葉が、心の中で勝手に形になっていく。
医「馬渡くん?」
医「……馬渡くん!」
り「あ、はいっ」
先生に呼びかけられて、ようやく我に返った。
医「ショックなのは分かる。 でも、僕もできる限りのことはするから。
医「だから馬渡くんも、ここにいる間は、できるだけ上村さんのそばにいてあげてくれないかな?」
り「……もちろんです」
医「それに上村さんのところは神主の家系だ。」
医「旦那さんも不思議な力を持っていたというし、きっと上村さんに力を貸してくれるはずさ」
り「はい…」
まだ、自分の中で状況を整理しきれていなかったけれど、僕はそう返事をした。
そのあと、帰りは新太さんが車で宿まで送ってくれた。
道中、新太さんは僕のことを色々と気遣うように話しかけてくれたけれど、僕の心はどこか上の空のままだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回更新は 8月10日 20:00頃 を予定しています。
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