第93話 我が名はヒポポタマス!
引き続き戦闘です!
さて、暴れてみせようなんて言ってはみたものの、俺の役割はあくまで『撹乱』だ。ここに集まっている兵士達を、ハインツ皇子の元へ行かせないこと。それが最優先事項。
「このガキ! もう逃げられんぞ!」
「大人しく投降しろっ!」
完全に囲まれているこの状況をどう打開するか……。
その答えは。
「【インビジブル】」
スキルの使用と同時に、俺の姿が透けていく。
「なっ! 消えた!?」
「どこへ行った!」
俺が単独行動する状況を想定して、砦でヒエイと連れションした時に盗ませてもらった『隠密スキル』だ。彼がギルド長ルーカスに信を置かれる斥候たる所以が、このスキルに詰まっている。
その効果はこちら。
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【インビジブル】
使用者の存在感を極限まで希薄にする神業。
あらゆる探知系スキル、探知系魔法を無視する。
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最初、ヒエイにこのスキルの説明を聞いた時は「あれ、名前の割にはしょぼくない?」と失礼なことを思ってしまったが、そんなことはない。これは気配遮断スキルの最高峰である。下手したらユニークスキルなんじゃないかな。
現に目の前で堂々と使用したにも関わらず、この場にいる全ての人間が俺を見失った。これは普通の【気配遮断】じゃまず無理な芸当だ。
ただし、このスキルには1度はっきり認識されてしまうと、認識した者に対しては効果が無くなるという欠点もある。
なので、さらに保険をかける。
「【ダーク】、【シャドウボール】」
煙幕がわりの【ダーク】によって夜の練兵場は、さらに深い闇に包まれる。ダンジョンでリーパーが使ってきた魔法だ。それに加えて、初披露の魔法もそこら中にバラ撒いておく。
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【シャドウボール】
初級闇魔法。
触れた者にランダムで暗闇、眩暈、朦朧を付与。
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「なんだこれは!?」
「何も見えないぞ!」
「…………」
大混乱だ。人間、特殊な訓練でもしていない限り、いきなり暗闇に放り込まれたら誰だってこうなる。
その阿鼻叫喚の人の群れに、【インビジブル】状態の俺は飛び込んだ。
そして……。
──ゴツン
「いてっ! 誰だ!」
──ガツン
「このやろう! やりやがったな!」
手当たり次第にぶん殴って、さらに混乱を煽っていく。……暗闇の中で、周りには仲間しかいないはずなのにどこからか殴られる。これはかなりのストレスだろう。
しばらく続けていると、業を煮やしたのか同士討ちも厭わずに槍や剣を振り回す者が現れ始めた。あ、これはまずい。死人が出るのはこちらの望むところではない。
そろそろ、応援の兵士もほとんどがここに集まった頃合いだし、仕上げといこうか。
「【跳躍】」
キメラ戦でやったように、兵士集団を飛び越える軌道で跳躍する。その頂点から真下に向かって魔法を発動する。今回はこれだ。
「【ウォーターハンマー】」
──ズドンッ!
「「「ぎゃああぁぁぁぁ!」」」
真上から水の壁を叩きつけられた兵士たちが悲鳴を上げる。
やっべ。強すぎたか? まぁ、死ななきゃよし! 最後に、うまく威力を調節して……うん、【魔力操作】があるから、やりやすいね。
「【ライトニング】」
──バチバチバチバチィッ!!!
「「「あがががががっ!」」」
雷撃が集団全体に伝播していく。濡れているから通りがいい。あとは作業だ。暗闇の中の兵士達を、念入りに行動不能にしていく。
……
…………
………………
「よっし。こんなもんかな」
目の前には、まさに死屍累々といった様相の兵士たちが地面に倒れ込んでいる。しばらくはまともに動けないはず。
完封である。まぁ、レベル差あるし、やられる前にやればこんなもんか。
「悪いな。こんなとこで油売ってる暇はないんだ。この後のスケジュールが押しててね」
最後に兵士たちを一瞥して『正門』へと、これ見よがしに去っていく。そして、少し考えてから、去り際に大きな声で叫ぶ。
「我が名はヒポポタマス! 革命軍のメッセンジャーなり! 民を顧みぬ悪虐皇帝ベルンハルトに従う愚か者どもよ! 革命軍は今宵、決起した! まもなくこの帝城へ到着するだろう! せいぜい我らを迎えうつ用意を整えるがいい!」
聞こえているかは微妙なところだが、動けない彼らに革命軍の仕業である事をアピールして、今度こそ去っていく。
……これで兵士たちの警戒は"外"に向くだろう。あとは、さっさとケリをつけるだけだ。
実際に帝都のあちこちから喧騒が聞こえてきてるし。城内で多少暴れたところで気付かれないだろう。多分ね。
※ ※ ※
ちゃんと『正門を通って逃げましたよ』アピールのために一度正門まで行き、そこを守る兵士を不意打ちで気絶させてから【インビジブル】をかけてUターン。
無駄に広い敷地内を透明状態で駆け抜け、再度城内に侵入する。目的地は4階だったな。無駄に長い階段を2階まで駆け上がり、そこから離れた場所にある3階へと続く階段に向かって通路を走る。
……めんどくさい構造だ。階段は1箇所にまとめて設置しろよ。
心の中で悪態を吐きながら廊下を駆け抜けていた時。
【危機察知】が警鐘を鳴らした。
「っ! 【インビジブル】使ってるのに気付かれた!? 横かっ! 【氷の盾】!」
咄嗟に、回避は間に合わないと判断。壁に向かって盾を張り、襲撃に備える。
瞬間。
──ズガアァァァァン!
壁をぶち抜いて瓦礫の破片と共に拳が迫ってきた。……躊躇なく城の壁壊したな、こいつ。
──ゴガッ!
盾と拳が激しく衝突。鈍い音を響かせる。その一瞬の膠着状態で襲撃者と目が合った。すでに完璧に認識されている。
「なんかいるとは思ったが……子供? テメェ侵入者か?」
「……なんで分かった?」
「勘だ。んで、侵入者だな?」
勘とかマジかよ。たしかにヒエイも「強者には普通にバレる」とか言ってたけど。
「違うと言ったら、今の攻撃を土下座でもして謝ってくれるのか?」
「ハッ! ヤなこった!」
盾の破壊は諦め、回し蹴りを繰り出してくる。……本気じゃないな。一旦距離を取りたいだけか。
仕切り直すのは、こっちにとっても好都合。バックステップで間合いをあけ、ギリギリお互いの攻撃が届かない距離へ。そこで、改めて襲撃者の姿を確認する。
両腕に赤黒い無骨なガントレットを装着した、ガタイのいい大男。鎧ではなく、白い狼の毛皮のベストを身に纏っている。耳にはピアスが、首にはネックレスがいくつもぶら下がっている。
────こんなところで例の強者3人の内、1人と遭遇してしまうとは。
「……傭兵“雪狼”ヴィクトル」
「あ? 俺様の事を知ってんのか?」
他の3強、ミューラー中将がツテで雇った有名な傭兵だろ? そして……。
「ハズレの方かぁ……」
「あぁ?」
そう、俺にとってはあまり興味を惹かれない敵である。
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