第92話 帝城侵入
殴り込みじゃぁ!
決戦当日の夜。
俺たちの姿は隠し通路の入口前にあった。
「雪が降ってなくて助かったね」
俺が誰にともなく呟くと、すぐさまアルが反応してくれた。
「ただでさえ積もった雪のせいで動きにくかったからな。……なんでまた、こんなベタな場所に出入口を作ったんだよ」
「くくっ。王道だからこそ、逆に見つからないものなのさ」
ハインツ皇子のその言葉に、改めて辺りを見渡す。雪に覆われてはいるが、まごう事なく森ですね。そう、またなんだ。何かと森に縁があるな、俺。
つい今しがたハインツ皇子に到着した旨を告げられ、一見何もなさそうな場所の雪をフリードが雑にどかすと、頑丈な石で蓋がされている古い井戸が現れたのだ。
それはいいんだけど……この見た目はなぁ。
「ハインツ皇子」
「ん? どうしたルイン」
渋い顔で声をかけてくる俺に、訝しげな顔だ。
「黒髪ロングの人間が突き落とされたりしてませんよね? この井戸で」
「なんだそれは」
「……いえ、なんでもないです」
流石にこればかりは説明したところで意味不明すぎるし、そんな事に時間を使っている場合じゃない。
フリードもそう思ったのか、横から急かしてきた。
「無駄話をしている暇はない。訳の分からんことを言ってないで、早く行くぞ」
正直すまんかった。
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岩肌が剥き出しになった狭い通路を、無言で歩いていく第2皇子一行。バルガーへの道中と、やってることがほぼ同じな件はツッコんではいけない。いいね?
この地下道にもしっかり"蛍石"が使われているので、自前の松明なんかを使わなくても光源は充分である。
やがて、しばらく歩き続けると、キチンと整備された通路に行き着いた。ここが下水道か。
先頭を歩くフリードがこちらに振り向く。
「いいか。ここから先は道が複雑に入り組んでる。万が一、はぐれるような事があったら、君たちが合流するのは至難の業だろう。絶対に僕の姿を見失わないように気をつけてくれ」
こちらを見て言うフリード。俺がはぐれたりする訳はないので、後ろのアルを見ているんだろう。
俺もアルをチラッと見る。
「ん?」
キョトンとしちゃってぇ……そりゃフリードにも心配される訳ですわ。
「何をよそ見している。僕は君に言っているんだ、ルイン」
「サーセン」
※ ※ ※
「着いたぞ」
待ち望んだその言葉に、地面に落としていた視線を上げる。前を見ると、階段が天井に続いているのが確認できる。
……この先が、帝城。
ついにここまで来た。
長かったような、短かったような旅もここで終わる。
「時間は……ふむ。まだ多少の猶予はあるな。何か今のうちに話しておきたい事がある者はいるか?」
懐から取り出した懐中時計で、現在時刻をチェックしながらハインツ皇子が言う。しかし、誰も発言する者はいない。
「……意外だな。こういう時は景気付けに何か言うものではないのか?」
「他の奴らは知りませんが、俺たち"フェザーテイル"はこんな感じですよ。変に気合い入れると、逆に普段通りにできなくなるんで」
「そうね! 自然体が1番よね!」
「フッ。なるほどな」
アルとテレーゼの答えに得心がいったのか。薄く微笑む皇子。それを横目に、俺はフリードに話しかける。
「なあフリード。例の強い奴が3人まとめてかかってきたら、お前勝てる?」
「正直分からないな。だから、可能な限り早く加勢に来てくれ」
「はいよ」
会話はそこで終了。今度こそ静寂に包まれた下水道で、皆が静かに作戦開始の時を待つ。帝都内でも、反皇帝の勢力がまもなく一斉に動き出す。
俺も意識を研ぎ澄ませる。自分の成すべき事を反芻する。
──可能な限り殺しはなし。
──敵を引きつけて、城内には向かわせない。
──その上で、なる早で加勢に向かう。
なるほど。結構な無理難題だ。
でも。
「作戦開始時刻だ。陽動組はもう動き出しているはず。こちらも行こう」
ハインツ皇子の言葉に薄く目を開く。
──やってやろうじゃないか。
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──バァン!
帝城1階に存在する、騎士団詰所の扉を乱暴に開け放つ。
「……は?」
夜番の騎士が間抜けな声を上げると同時。
「【ライトニング】」
「ぐああぁ!」
けたたましい音と共に、迸る雷撃が夜番の騎士を直撃。大きな悲鳴を上げながら、その場に崩れ落ちる。
「何事だ!」
「一体どうした!」
寝ていた騎士たちも、突然の轟音と悲鳴に飛び起きてくる。騎士団詰所はあっという間に蜂の巣をつついたような大騒ぎに。
「見ろ! 侵入者だ!」
誰かが発した言葉で、入口近くに立つ俺に注目が集まる。十分に視線が集まったところで口を開いた。
「こっちだ。ついてこい」
言うと同時に、踵を返して扉を出ていく。
「逃すな!」
「追え! 捕らえろ!」
当然、騎士たちは追ってきた。廊下を走りながら、後方を【気配察知】と目視で確認する。
(いいぞ。あの部屋の騎士は全員釣れたな)
「敵襲! 敵襲!」
「賊は1人! 練兵場方面へ逃走中!」
「至急応援を送られたし!」
減点1。この時点で賊が1人と決めつけるのは、いくらなんでも早すぎる。新人かな?
あらかじめ教わっていた、練兵場がある場所へと向かいながら呑気にそんな事を考えていたその時。
「隙ありぃ!」
「ねぇよ。【通打】」
「グフっ……!」
曲がり角から急に突き出された槍を、クルリと回転しながら躱して裏拳気味にスキルを叩き込む。【気配察知】でバレバレである。
再び走り出し、練兵場へ。背後からゾロゾロと騎士や兵士たちがついてくる気配を感じつつ、広大な訓練スペースのやや奥まった所で立ち止まり振り返る。
「大人しくしろ!」
「どこから侵入しやがった」
「このガキ、反乱軍か?」
一斉に突きつけられる槍。その向こうに見える敵兵を手当たり次第鑑定する。
(レベル10、レベル13、レベル12……‥…)
──弱いな。スキルもパッシブは槍術や剣術くらいで、アクティブも大したものは持ってない。兵士ってこんなもんなのか?
あらかた確認が終わった俺は、ひとつ息を吐いてニヤリと笑う。なるべく挑発的に、神経を逆撫でするように。そして言い放つ。
「さぁ、鬼ごっこの時間だ。大人なら、子供の遊びに最後まで付き合ってくれるよな?」
せいぜい派手に暴れてみせようか。
【小ネタ】
この世界の仕様上、きちんと目的を持って魔物狩りをしない限り、なかなかレベルは上がりません。だから、ダンジョンに行く必要があったんですね(メガトン構文)




