第91話 俺、帰ったらたっぷりお休みをもらうんだ
決戦前、最後の休息です
衛星都市バルガーで、作戦の最終確認を行った翌日。
帝都から馬車でおよそ1日の距離にある針葉樹林帯、そこにひっそりと存在している隠れ家の中に俺たちの姿はあった。
「確かに"隠れ家"だわ。遠目からじゃ全然分かりませんね」
紅茶を口に運んだ俺は、テーブルを挟んで向かい側に座るハインツ皇子に話しかける。
「この雪景色に紛れるように、外壁も白く塗装してあるしな。そうそう見つからんよ」
「他にこの場所を知っている者は?」
「シェスターと、奴が信頼する一部の者しか知らんはずだ。いつかこんなことがあるやもしれんと思い、秘密裏に建築していたのだ。……まさか本当に使う日が来るとはな」
……家族をその手にかけるんだ。これまでも想像を絶するほどの苦悩や葛藤があっただろう。「覚悟を決めた」とは言うものの、今なお苦しんでいるに違いない。
表情に影を落とすハインツ皇子に、俺はこれ以上かける言葉を持たなかった。
ふと室内を見てみると、思い思いにくつろぐ仲間たちの姿が。
個室なんて贅沢なものはこの隠れ家には存在しないので、作戦開始までは修学旅行の部屋状態で過ごすことになる。
頭の中で、この後のスケジュールを確認する。
現在は真夜中だ。このまま朝を迎えて、睡眠は昼間にとる。そして日が暮れる前に隠れ家を出て移動を開始、帝都近くの秘密通路出口から地下道へ侵入。下水道を経由して帝城側の出入り口へ。
そこからは、俺が単独で敵軍を撹乱。混乱に乗じてハインツ王子たちが皇族の居住エリアに侵入。
その際、マルクスも単独で第1皇子以下、皇族たちを全員捕縛、および隔離。……普通なら「何言ってんだこいつ」と言われるところだが、本人は自信満々だった。
もう俺はこいつの魔法、もしくはスキルにある程度検討がついてるよ。
後で絶対にパクらせてもらうとして、その後は臨機応変に。俺もなるべく早く合流できるように頑張ろう。
※ ※ ※
そろそろ夜明けが近くなってきたかなぁ、と外をぼんやり眺めてみる。
(夜の銀世界。これだけ見ると、日本の実家と変わらないなぁ)
前世、子供の頃に住んでいた田舎の冬を思い出す。
懐かしい、とても懐かしいけど……全く戻りたいとは思わなかった。
俺が帰るべき場所は、この世界なのだから。
ちょっとだけノスタルジックな気分に浸っていると、"フェザーテイル"の面々に話しかけられる。
「どうしたルイン。緊張してるのか?」
「いや、全然関係ないこと考えてた」
「そうよね! ルインが緊張する姿は想像できないわ!」
「さすが、わしの孫じゃ」
あれ、俺はガルフの孫だった? そうかな……そうかも……。
「それより、ヴォルクスに帰った後のことでも考えようぜ」
「帰った後のこと?」
アルがいきなり帰ったら何する? とか言い出したので、思わず聞き返してしまう。
「ああ悪い。これは俺たちが依頼の直前によくやるんだが、帰ってからやりたいことを、お互いに言い合ってモチベーションを上げるんだよ」
────は? いやいや、一体何を言っているんだこの男は……。「死ねば助かるのに……」とか言い出すタイプの人間か?
「今回は、そうだな。……俺、帰ったら上手い酒をたらふく飲むんだ」
無茶しやがって……っ!
「あたしは、お昼寝──」
「それ以上いけない」
アルに続こうとしたテレーゼの言葉を途中で止める。まったく、どいつもこいつも!
「いいか、未来のことを言うと鬼が笑うんだよ」
「なんだそれ。オーガにそんな知性はないだろ」
「あはは! ルインは面白いこと言うわね!」
「……」
無理だ。こいつら鬼がかってやがる。てか、そもそもこの世界の人に死亡フラグを理解してもらうのは可能なのか?
考え込む俺をよそに、『光天のガルフ』さんが口を開いた。
「よいか、二人とも。戦場で"帰ったら結婚するんだ"などと言い出した者がどうなるか知っておるか?」
「「死ぬ」」
「ルイン坊はそれを伝えたかったんじゃよ」
「「あ〜」」
……‥…それで伝わるんかい! めっちゃ簡単な話だった。勝手に難易度をルナティックにしてたわ。
「なんだ、そうならそうと早く言えよ。回りくどいこと言いやがって」
「うん、ごめんね」
「今度から気をつけるのよ!」
「うん、そうするね」
なんか納得いかないけど、もうめんどくさくなったので謝って終わらせる。これが俺の社畜時代に学んだ、スマートなやり方である。
と、そこで思い出したかのようにアルが話を振ってくる。
「そういやルイン。帰ったらソフィのお願い聞くんだろ?」
「うん? 帰ってすぐに、宿に顔を出さなかったらって話だよ?」
「ソフィは絶対にそんなこと関係なく、ルインにお願いを聞いてもらえると思ってるわよ!」
テレーゼがとてつもなく恐ろしいことを言い出した。無条件でお願いを聞いてもらえるとか、そんなことしていいのはギアス持ってるやつだけじゃないの?
「いやいや、だってあの優しいソフィだよ? そんな無茶なこと言ってくる訳が──」
「まあ、帰ったら分かることだ。覚悟だけはしておけよ」
「ちゃんと聞いてあげるのよ!」
「さすがわしの孫じゃ」
「……」
あれれー。おっかしいぞー?
元々はモチベーションを上げようって話だったはずなのに、終わってみれば、俺のモチベーションが下がっただけだった。どうしてくれるんだ!
……俺、帰ったらたっぷりお休みをもらうんだ。
そんなこんなでワイワイやってる俺たちを、ハインツ皇子、フリード、マルクスの3人が生暖かい目で見つめていた。
こんな感じも俺と"フェザーテイル"っぽいか。
決戦前の夜はこうして賑やかに過ぎていくのだった。
次回、帝城侵入
ルイン単騎の戦いが始まります!
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