第90話 最終確認!理想は"最短最速"で
ブリーフィング回です
作戦がもうすぐ始まります
「では作戦を確認しよう」
この場を取り仕切るのは、こういう場に慣れているフリードだ。軍の総大将だったから、数えきれないほど経験しているだろうしね。
彼は俺たちを静かに見渡す。
この場にいるのは、シェスター総督とその護衛騎士2名。それと明らかに家宰っぽい人もいる。名前はおそらくセバスチャンだ(偏見)。
彼らの担当は陽動の方なので、基本的にこちらの作戦会議に口を挟むことはないらしい。
あとは砦から来た俺たちだけである。少ないって? ……そりゃそうよ。城に侵入するのは、砦から来た俺たちだけだからね。
理由は……単純に一般兵士レベルの人間について来られても『足手まとい』になってしまうから。
色々と気を遣わなきゃいけないし、逆に戦いづらいのだ。
「改めて説明する。作戦決行は2日後の深夜。時間を合わせて各都市、並びに帝都にて敵軍の関連施設を強襲する」
流れだけは聞いていたので、全員無言で先を促す。
「向こうも見張りに割ける人数には限りがある。大多数の人員はグッスリだろうさ。そして、寝起きに完璧な連携行動はまず無理だ。そこをひたすら撹乱する。……目的は分かるな?」
「俺たちが帝城で騒ぎを起こした際に、援軍に来させないため」
急に話を振ってくるフリードに、間髪入れずに答える。どうして彼は俺に振るんだい?
「そうだ。これは最悪の想定だが……『侵入が早々にバレて帝都中から大量の兵士が押し寄せ、身動きが取れなくなる』これは絶対に避けたい」
その時点で、俺たちの選択肢は『逃げ』か『殲滅』しかなくなる。どちらにせよ、こちらの負けである。
もし仮に『殲滅』なんてしてみろ。革命の成否に関わらず、アルセイン帝国は憎しみの連鎖によって、ドロドロの戦乱が始まってしまうだろう。
ゆえに、俺たちが目指すところは……。
「理想は"最短で皇帝の元まで辿り着き、最速で首をとる"。可能な限り兵士や、城勤めの非戦闘員に死者は出すな」
「おたく、本当にその難易度が分かってるかい? 随分簡単に言ってくれんじゃないの〜」
マルクスがヤジを飛ばすが、別に本気で嫌味を言いたいわけじゃなさそうだ。戦後に向けての政治的な駆け引きかな、これは。
隙あらば、少しでもルミウム王国の利を増やしておこうって魂胆だ。
「お前の言いたいことは、殿下も分かっておられるさ」
フリードがチラッと目線をハインツ皇子に送ると、鷹揚に頷いて応えた。
「危険を顧みず尽力してくれている王国には、必ず報いると誓おう」
「うんうん。分かってるなら、俺からはもう特に無いよん」
どう考えても皇子に対してヤベェ態度なんだが、お互いに気にした様子はない。というか、この場の誰も気にしてない。
いやいや、おかしいでしょ。……‥…間違っているのは俺じゃないはず、間違っているのはこの世界だ。
「話を戻すぞ。……陽動組が行動を開始したら、突入組は帝城に侵入する」
これは完全にお約束ですわ。城への侵入経路なんて1つしかない(断定)。
「下水道からだね」
ポツリと呟いた俺に、視線が集中する。静まり返った空気の中、驚いた顔のハインツ皇子が口を開いた。
「その通りだ。驚いたぞ……あの帝城直通の避難路は皇族しか知らないはずなんだが。さすがは"女神の使徒"と言ったところか」
「ええ。女神の使徒は、なんでも知っているので」
そう言った瞬間、食い気味で横から声をかぶせられる。
「嘘をつくな。ヴォルクスで出発の朝に待ち合わせた時、"マルクスはまだ来ないのか"と聞いたら"知らんけど"と言っていただろう」
フリード渾身のツッコミいただきました。細かい男め。そっちがそのつもりなら、こっちも全力で誤魔化してやらぁ!
「そんなことより、疑問が2つあるんだけど。まず、通路の出口はどこに繋がっているのか。それと作戦の障害になりそうな強力な敵はいるのか」
早口で捲し立てる。もちろん顔はキリッとしている。
「…‥……。まぁいい。誤魔化されてやる。通路の出口だが、これは1階の騎士団詰所に隣接する物置部屋だ」
「……いきなり敵とエンカウントするじゃん」
どうすんだよ。てか、なんでそんな訳分からん場所に入口作ったんだよ。玉座に直通とかにしてくれれば手間が省けたのに。
「だから、ここでさらに2手に分かれる。誰かに城内の騎士や兵士を引きつけてもらいたい。その隙に、僕達が皇族の居住エリアまで突撃する」
「そいじゃ居住エリアまで行ったら、皇帝以外の皇族捕縛は俺がやるよん。確実に全員捕らえて、騒ぎが終わるまで隔離しておくと約束してしんぜよう〜」
「……分かった。信じよう」
自信満々に、逃せば後々の火種となるであろう皇族の確保を引き受けるマルクス。
色々と聞きたそうな顔だが、言葉を飲み込むフリード。これはマルクスを信じた訳じゃなく、王国を信頼してますよ、というアピールだね。
なら俺も自分にできることをしよう。スッと右手を上げた。
「じゃあ俺が囮役を引き受けるよ」
「……君が?」
そんな『一人でやりきれるの?』みたいな顔でこっち見んな。ゼミママかお前は。
「うん。ある程度相手方を混乱させたら、撒いてからそっちに合流するよ」
他のメンツからの異論は……ない。
みんなも俺が適任だと思ってるようだね。帝国側の人間だけが疑惑の目を向けてきている。あ、マルクス、お前もか。
「心配いらんぞぃ。この中じゃ、ルイン坊が最も上手くやるじゃろうて」
「……『光天のガルフ』がそう言うのなら信じよう」
くっ! ……『光天のガルフ』はやめろ。そいつは俺に効く。
別におかしいことなんか何もないのに笑ってしまう。あると思います。
「そ、それよりも、問題は……あ、相手側の強者の事だ」
「何をヘラヘラ笑っている。真面目にやれ」
必死に笑いを堪えて話を戻したのに、フリードにガチトーンで怒られた。
「僕が把握している範囲で特に問題になりそうな人物は2人、いや、皇帝本人を含めたら3人だ」
「……それだけ? いくらなんでも少なくない?」
「帝国には当然他の実力者もいるが、今は陽動部隊が帝都から引き離したり、ハインツ殿下らを連れて脱出する際に、僕自らが彼らに痛手を負わせたからな。この作戦中は除外していい」
なるほど。知らないところで既に色々とやっていた訳ね。今の言い方からすると、回復魔法を使える人員は既に皇子側が確保しているな。
「傭兵ヴィクトル、ミューラー中将、そしてベルンハルト皇帝。この3名の情報は、必ず頭に叩き込んでおいてくれ」
……
‥…‥…
……‥………
こうしてフリードから情報をもらい、最後の打ち合わせを終えた俺たちは、作戦開始まで待機するために帝都近くの隠れ家へ向かうことに。
のんびりしている余裕はないので、出発はこの後すぐだ。
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