第89話 自国の首都より先に他国の首都に行く男
バルガーに到着しました
城に到着した俺たちは、すぐさま使用人に案内されてシェスター総督の執務室に通された。
どうやら執務の最中にも関わらず、最優先で時間を作ってくれたらしい。
「お待ちしておりました、ハインツ殿下。無事の到着、なによりでございます」
立派な身なりをした老齢の紳士が、慇懃に一礼する。
「王国のお客人方、そして"女神の使徒"ルイン殿。儂はこの都市を預かるシェスター=ベックマンと申す。話は先触れの伝令から聞いている。よくぞ参られた」
こちらにも丁寧な挨拶をしてくれたシェスター総督に、俺たちも一人ずつ自己紹介をしていく。
そして、マルクスの順番になったところで突然、シェスター総督が困惑したような表情になる。……あなたも知ってんのかい。ガルフといい総督といい、ご老人は知ってる率が高いね。
ちなみにマルクスは22歳だよ。砦で寝る前に、みんなで集まって好きな子の話とかした時に自分で言ってた。
「俺は王国の特別記録官マルクスだよん。よろしくね〜」
「記録官の……マルクス、かね?」
「そう。マルクスだ」
急に見つめ合って無言の会話を始める2人。……目と目が逢う瞬間好きだと気付いたのかな?
やがてシェスター総督が「フッ」と、片頬だけの笑みを浮かべた。
「そうか。ならばマルクス殿。この国の行く末を、しっかりと『記録』していかれるがいい」
「そうさせてもらうさぁ」
話はそこで終わりのようだ。ここにきて、急に存在感をアピールし始めたなマルクス。
全員の自己紹介が終わると、シェスター総督はハインツ皇子に向き直る。
「殿下。すでに周辺都市の者達は、いつでも作戦行動に移れるよう伝達済みです」
「ご苦労。"レイブン"が、フリードの副官の元に到着する頃合いを見計らって、作戦を開始しよう」
そこでフリードが発言する。
「彼らはトムが"拠点"に案内しているので、準備を考えると2日ほどかと……」
「なら、部屋の用意はできておりますので、今日のところはお休みになられてはいかがかな? もう夜です。作戦は明日詰めるのがよろしいでしょう」
このシェスター総督からの提案に、俺たちは素直に甘えることにした。1日中走って疲れているしね。
今日も例によって原付バイクくらいのスピードで飛ばしていたから、雪がショットガンみたいに顔に当たって地味に痛かったし。
使用人を呼ぶために、"パンパンッ!"と手を叩く総督。……その仕草に、どこぞの聖女を思い出して馬車がやってこないか警戒を厳にする。
「ん? ルイっち、何してん?」
「馬車が来るんじゃないかと思って」
「ハッハ〜! 今の俺には早すぎるジョークだねぇ。ちょっと理解できないわ〜」
その後、馬車ではなく普通にメイドさんが来て安心した俺だった。
※ ※ ※
「あ〜、フッカフカやぞ」
メイドさんに案内された部屋で、ベッドにダイブして早速くつろぐ。どこまでも沈み込むような寝心地に、一瞬で俺の心は絡め取られていく。
なんだこのベッド……やってることがヤバすぎるだろ。
部屋割りは、例によって、俺とマルクス。"フェザーテイル"の2部屋に分けられた。
俺と同じく、隣のベッドにうつ伏せで沈んでいるマルクスが、消え入りそうな声で何か言っているのが聞こえてくる。
「……ルイっち、もう俺ずっとここにいるわ。皇帝しばくのは任せた。応援は任せろ」
「分かった。じゃあちょっとフリード連れてくるから、アイツの前でもう1回同じセリフ言ってくれるかな」
俺がそう言って部屋を出ようとした瞬間、マルクスはうつ伏せのまま真上に飛び跳ねて空中で反転。仰向けで背中からベッドに着地した。
……え、釣りたての魚みたいで、めっちゃキモい! 今どうやったのそれ!?
「ふ〜っ。冗談をす〜ぐ真に受けちゃうんだから。ふざけてる暇があったら早く休もうぜぇ。早ければ2日後には帝城に殴り込むんだからさ」
「いい性格してるよ、ホント」
「そんなに褒めるなっての。んじゃおやすみ〜」
……
…………
………………
……まじで速攻で寝たな。たまにいるよね。寝つきが異常に早い人。
「俺もさっさと寝るか……」
明日からはもう、息吐く間もないほど忙しくなるだろう。休める時に休まなくては。
そう思って目を閉じると、マルクスのことを言えないくらいあっという間に、俺は意識を手放した。
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翌朝、部屋に運ばれてきた朝食をありがたくいただきながら、マルクスに話を振ってみる。
「王都って楽しい?」
「人によるし、目的にもよるんでないの〜?」
そりゃそうだ。聞き方を変えよう。
「いつか観光しに行こうと思ってるんだけど、そう言う意味で楽しめるかなーって」
「な〜る。そんなら楽しいんじゃない? てか、急にどったの?」
「だってさ、自分の住んでる国の首都より先に、他国の首都に行くんだよ? なんかなぁって」
前世だったら『東京に行ったことがないのに、ロンドンには行ったことがある』みたいな感じだ。あり得ないとまでは言わないが、そんな人は稀だろう。
「まあ、分からなくはないわなぁ。んじゃあ、もし王都に来ることがあったら、俺にも会いに来てよ。だいたい王城にいるからさぁ」
「ハードルが高すぎる」
普通に門前払いされて終わるわ。
そして朝食も食べ終わり、食休みしているところにノックの音が響き渡る。
「ルイン殿、マルクス殿。お迎えにあがりました」
マルクスと頷き合って、椅子から立ち上がる。泣いても笑っても、これが最後の確認となる。後から、「聞いてませんでした」では通らないし、些細な"抜け"が皆の命に直結してくる。
気を引き締めて臨もうか。
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