第88話 いざ衛星都市バルガーへ
ガルフの二つ名が判明します
意気揚々と「出陣じゃぁ!」とか思いながら、砦を出た俺の第一声がこちら。
「くっそ寒い件について」
今まであまり気にならなかったが、帝国側と王国側で気温が違いすぎない? エグい温度差があるんだけど……。あ、雪も降ってきた。
街道を外れたルートで、衛星都市バルガーへ向かう俺たち一行。
作戦に参加する兵士なんかは、すでに各都市に潜伏しているらしいので、砦から向かうのは俺たちだけだ。
「おいルイン、お腹冷やすなよ」
「ほら、ちゃんとシャツはズボンに入れなきゃダメよ!」
「ネギを首に巻くと良いぞぃ」
「…………」
道中で保護者達から、やんややんやとアドバイスが飛んでくる。
アルのは、まあ真っ当だね。
テレーゼのは、保育園とかのしおりに書いてあるやつじゃん。この服装でパンツインしろと? ……いいえ、私は遠慮しておきます。
ガルフに至っては、もはや手遅れじゃねーか。風邪ひいた後の話だよ、それ。しかも首に巻いても、ほぼ意味ないらしいぞ。
「ふっ」
「なにわろてんねん」
フリードがわろてるので、礼儀としてツッコんでおく。
「いくら使徒殿がCランク冒険者とはいえ、年齢的には子供に違いないのだ。……この度は本当にすまないな。こんなやり方しかできない私を、責めてくれて構わない」
フリードの横で、ハインツ皇子がすまなそうにそう言った。
「いえ、別に責めたりはしませんよ。……ただ、いつか俺が困った時に力を貸してもらえればそれでいいですよ」
「ここまで協力してもらっているのだ。私が皇帝になった暁には、ハインツ=アルセインの名にかけて、女神の使徒ルインの力となることを誓おう」
「ありがとうございます!」
よっしゃ! 言ってみるもんだな。ワンチャンいけるかもと思ってぶっ込んでみたら、言質がとれてしまった。
「ルイっちも中々にいい性格してるね〜。ガルフ、周辺に敵はいるかぃ?」
後ろから、マルクスの声が聞こえてきた。
「しばし待たれよ。【サーチ】…………ふむ、遠くに魔物らしき反応がポツポツとあるだけじゃのぅ」
「りょ〜かい。しっかし、探知魔法は相変わらず便利だねぇ」
ガルフとマルクスが気安い会話をしているところに、フリードも加わる。
「敵地では、これの有無が生死を分けることもある。が、中々使い手のいない難しい魔法らしいな」
フリードもそこに加わった。
「敵に回ると厄介だが、味方となった今はこれほど心強い存在もない。さすがは『光天のガルフ』と言ったところか」
「ファッ!?」
『光天のガルフ』!?
とても聞き逃せない情報がフリードの口から飛び出した。驚きすぎて変な声が出ちゃったじゃねーか!
あの〜、ガルフさん。後出しでどんどん偉大な存在に上り詰めていくの、やめてもらえません?
「……ふむ」
……ふむ。じゃねーよ。
何すました顔で「言われるまで完全に忘れてたけど、そう呼ばれていた時期もあったかな?」みたいな雰囲気出してんだよ。絶対に片時も忘れたことないし、内心で鼻がピノキオしてるだろうが。
「む? どうかしたかの? ルイン坊、行くぞぃ」
すまし顔のまま、話の矛先を俺に向けてくるガルフ。その顔やめーや。
俺はそんな彼に、こう答えるしかない。
「うす、行きましょう。『光天のガルフ』さん、まじパねぇっす」
「なんじゃいそれは。変なルイン坊じゃのう。フォッフォッフォ」
これほどまでにガルフをうっとおしいなと思ったことが、今まで1度でもあっただろうか。いや、ない。
この後もしばらくの間、超ご満悦なガルフであった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
朝早く砦を出発して、まもなく日が暮れようかという頃。
こんなクッソ寒い上に雪が降る中、野宿なんてしようものなら死んでしまうのは火を見るよりも明らかだ。なので、ここまで割と必死に走ってきた俺たちだったが、遠くの方に城らしきものが見えてきたので足を止める。
「あのデカい城があるところが衛星都市バルガーか……」
「そうだ。そしてあの城が本日の私たちの目的地だ」
衛星都市バルガー近辺まで到着すると、ハインツ皇子とフリードは木々が密集している、一見何も無さそうな林に向かって歩き始めた。
林に足を踏み入れて数分。大きな岩の近くまで行くと、ハインツ皇子がこちらへと振り返る。
「ここに領主の城まで通じている避難路があるのだ」
「あぁ、なるほど。都市内は出歩けませんからね」
普通に帝国軍の兵士が巡回しているだろうから、国中に顔が割れているハインツ皇子とフリードは1発でバレる。
「そういうことだ。ここから直接、バルガーを治めるシェスター総督に会いに行く。彼は私の腹心だ。色々手配してくれているだろう」
そう言いながら皇子は大岩のすぐ横の地面をガサゴソし始めた。
───ガコッ
何かの仕掛けが動いたような音と共に、地面が開いて地下へ続く階段が現れた。
「さぁ、ここから城までは直通だ。向こうも首を長くして待っているだろう」
「殿下、僕が先を歩きます」
「頼む」
フリードが先陣を買って出て、皇子も彼に任せた。こういう一見気を抜いてしまいそうな場所こそ、実は一番危なかったりするからね。
「君たちも遅れずについて来てくれ」
「了解」
俺たちに対しても確認を取ってから、彼は地下への階段を下り始めた。
※ ※ ※
地下通路を進む俺たち一行。
しばらく無言でテクテク歩いていたのだが、ずっと気になっていたことがあったので、つい口を開いてしまった。
「地下なのに明るいって、不思議だね」
「鉱山から取れる"蛍石"だ。空気中に漂う魔力に反応して、淡い光を放つ性質を持っている。壁に等間隔で嵌め込んであるのさ」
俺の言葉に反応したのはハインツ皇子だ。壁を注意して見てみると、ピンポン球サイズの石が光を放っているのが確認できた。
「この革命が上手くいけば、おそらくこの蛍石も、王国に出回るようになるだろう」
「へぇ〜、そいつぁ楽しみだ。うちの王様も喜ぶと思うよん」
「ふっ、しっかり報告しておいてくれ」
嬉しそうに会話に入ってくるマルクス。そういえばこいつ調査室所属の記録官だったな。こういうのを報告するのも仕事のうちか。
「王国には良質な鉱物が採れる鉱山が、ほとんどないからね〜。帝国から輸入出来るというのは、実は念願だったのさぁ」
「それは重畳。ただし……」
「分かってるっての。今頃、王国は支援物資をまとめてると思うぜぇ」
「ならいい。お互いに益のある関係が築ける事を願う」
真面目な話をしているが、それよりもマルクスが当然のようにタメ口きいてる事が気になっちゃってしょうがない。
もしコイツが無礼打ちされたら、インタビューには「いつかやると思ってました」って答えよう。
しょうもないことを考えていると、先頭を歩くフリードが声を上げた。
「見えたぞ。出口だ」
通路の先に頑丈そうな扉が見える。あの扉の向こうは、もう城の地下だ。
「フリード、ご苦労だった。……さぁ、シェスター総督に会いにいこう」
ハインツ皇子のその言葉と共に、俺たちは扉をくぐっていった。
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