第87話 ようやく準備が整った
ヨガは健康に良いみたいですね
ある日の午後、会議室に呼び出された俺たちに向かってハインツ皇子が開口一番こう言った。
「待たせたな。スパイの"駆除"も完了し、ようやく準備が整った」
その言葉に、改めてハインツ皇子の顔を見る。『どこまで』の準備が完了したのか、と。その念が届いたわけではないだろうが、フッと笑ってこう続けた。
「帝都へ上がる。父上を……いや、皇帝ベルンハルト=アルセインを討つ!」
会議室のそこらから『おぉ!』とか『ついに……』とか聞こえてくる。そんな中で俺は内心、冷や汗をかいていた。
(皇帝ってベルンハルトっていうのか。どこかで無知を晒す前に知れてよかったよ)
危なかった。こちとら自国の王様の名前すら知らないんだぜ? 隣国の皇帝の名前なんか知ってる訳ないだろ。いい加減にしろ。
ホッと息を吐く俺を、めざとく見つけたマルクスが寄ってくる。
「どしたんルイっち。ため息なんか吐いちゃって。今から緊張してんのかぃ?」
「ごめんごめん。ヨガやってた。フゥゥゥ……」
「このタイミングで!?」
あのマルクスが、死ぬまで分かり合えない化け物でも見るかのような目で俺を見てくる。この男がここまで驚くのは初めて見たな。おっと、ちゃんと話を聞かなきゃ。
「まずは作戦を説明する。フリード、頼む」
「はっ!」
ハインツ皇子に名指しされたフリードが前に出る。
「まず知っておいて欲しいのは、兵の総数は圧倒的に向こうの方が多い。正面からぶつかったら、まず勝ち目はないだろう。現在はこちら側の兵が各都市で情報操作や撹乱を行い、敵軍を分散、引き付けている状況だ」
ここにくるまでに兵士長のトムや、訓練場で仲良くなった人たちに聞いたのだが、各都市の代表たちは、ほぼこちら側に付いているそうだ。……当然か。
なので帝都以外の都市でなら、やりようによっては少数でも充分立ち回れるのだろう。それでも、相当な知恵者が指揮してないと無理だが。
「フッ。陽動、撹乱の指揮を執っているのは僕の副官だ。機会があれば紹介しよう」
俺の顔から何かを読み取ったのだろうか、聞いていないのに教えてくれた。
「さて、今回は時間との勝負だ。砦に残す人員を除いて、僕たちは二手に分かれる」
「陽動に向かう組と、皇帝を仕留める組に分かれるってこと?」
あ、やべ。つい口を挟んでもうた。
「その通りだよ。"女神の使徒"くん」
だが、答えたのはフリードではなく第2皇子ハインツだった。意味深に微笑んでいる。……分かってるよ。ここまで来て、俺が陽動に回される訳がない。
フリードが話を続ける。
「陽動組が帝国正規軍を足止めしている間に、可能な限り迅速に皇帝を討つのが大まかな作戦の概要となる。『迅速に』と言ったのは、時間をかければかけるだけ敵の人員が帝都に戻ってきてしまうリスクがあるからだ」
速さも大事だが、陽動組とのタイミング合わせも重要だね。
「王国組も二手に分かれて作戦に参加してほしい。ただし……」
「俺は突入組、だろ?」
フリードの言葉を遮って、彼の言葉を先回りする。
「そうだ。皇帝討伐に"女神の使徒"が参加している。それだけで大義名分として充分な説得力が生まれるんだ。悪いが、君には付き合ってもらうぞ」
「今さらゴネたりしないって。帝国に向かうと決めた時から覚悟はできてるよ」
そこでハインツが感心したかのような口ぶりで訊ねてくる。
「ほう。最初から……か?」
「最初からですよ。そもそも、これも殿下の狙いでしょう?」
「ふっ」
なにわろてんねん。
……フリードが王国に助力を求める際に、まずは縁のある俺を探すことも、そのまま俺を巻き込んで帝国に連れてくることも、最初から狙っていたのだろう。
優男に見えて、さすがは皇族だ。マリーといい、ハインツといい、息を吸うように腹芸かましてきおるわ。疲れないんかね、その生き方。
「じゃあ、少しこっちで話し合っていい? すぐ済むよ」
「分かった。では決まったら声をかけてくれ」
そして王国組を集める。
「なんで全部俺に任せてるんだよ……」
真っ先に俺の口から愚痴が飛び出した。キミら、ステイルザードさんの前のグレースさんばりに空気してたろ。
「いや、だって、こういう時はルインに任せたほうが早く話がまとまるからよ」
「皇族の前で迂闊に口開いたら、首が飛びそうじゃん」
「てか、真っ先に口挟んで絡みにいったの、ルイっちじゃん。お忘れかい?」
アル、ヒエイ、マルクスが口々に言う。うん、一理あるわ。すまん。てかヒエイはちょいちょいチキンな一面が顔を覗かせるよね。この前のスタンピード会議の時とかもリアラさんにビビってたし。
「とにかく決めること決めちゃおっか」
「おう」
「あ、俺はルイっちと一緒に帝城に突撃するよん」
唐突なマルクスの立候補だ。クラスの委員長を決める時くらい気軽に言い出したな。え、なんで急にやる気出してんの、この人。
「その心は?」
「俺だって……絶対に役に立つからさ。連れて行ってくれよ〜」
理由を聞いたら、連れて行きたくなくなった。なんで死亡フラグっぽい言い方するんだよ……。そんなキャラじゃなかっただろ。
「う〜ん」
どうするかなぁ。と考えていたら、思わぬところから助け舟が接岸してきた。
「ルイン坊。彼なら心配はいらないぞい」
「ガルフ? ……ああ。やっぱりそういう"手札"があるのね」
「相変わらず理解が早いのぅ」
これまでの事から、大体予想がついてたからね。じゃなきゃ、王都からの使者なのに『一人で』ヴォルクスまで来る訳がない。
「じゃあ、マルクスは参加でいいか」
「さんきゅ〜ルイっち」
「はいはい。んで一応聞くけど、"フェザーテイル"が突入組で"レイブン"が陽動組でいいよね?」
半ば決めつけているが、マルクス以外は選択肢があるようで実は無いのだ。
"レイブン"は戦闘力自体は高くない、裏方仕事に重きを置いたパーティーだからね。必然、陽動組に回すことになる。
そうなると、残った"フェザーテイル"が自動的に突入組だ。
「それしかないよな」
「だな。決まりだ」
異論はないようなので、ハインツ皇子とフリードに伝えに行こう。
……
…………
………………
「了解した。では、帝都突入組はまず衛星都市バルガーに向かう。無論、僕とハインツ殿下もだ」
「衛星都市バルガー?」
「帝都の手前にある都市だ。ここで補給を行った後、帝城に潜入する」
こちらの振り分けを伝えたところ、フリードから移動を告げられる。
「準備が出来次第、すぐに出発したい。君たちは明日にはいけそうか?」
「問題ないよ」
「俺たちもいけるぜ」
ほぼずっとグータラしてたしね。今すぐでも大丈夫だ。"フェザーテイル"も同じようだ。
「なら、明日の朝に出発しよう」
『了解』
「陽動組は兵士長のトムから指示を仰いでくれ。僕の副官まで繋いでくれる」
「分かった」
"レイブン"も否は無いようだ。ここでハインツ皇子が口を開いた。
「では細かい部分を詰めるとしよう」
この砦で、少々足止めを食ってしまったが、ようやく作戦が動き出しそうだ。
もし少しでも『面白い』『続きが読みたい』と思っていただけたら、
ブックマークと評価を入れていただけますと嬉しいです!
皆様の応援がなによりの力となりますので、よろしくお願いします。




