第86話 訓練場で帝国兵と交流会(物理)
訓練中は人に向かってスキルを使ってはいけません。いいね?
「うーん、流石に訓練じゃスキルは使わないか」
ヒエイにスキルを盗ませてもらった次の日。
暇を持て余した俺とアル、そしてヒエイにエリックの4人は訓練場を訪れていた。もちろんフリードの許可はもらっている。
なお、マルクスは第1皇女マリーに連れ去られたので、ここにはいない。
「スキルなんか使ったら、死人が出るだろうが」
「それはそう」
アルに正論でブン殴られる。例えば【水鏡】やら【乱刀】なんかがそこら中を飛び交ってたら、それはもう訓練ではなくバトルロワイアルだ。「今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいま〜す」みたいな物語が始まってしまう。
「おっ、ルイン。あっちはスキル使ってるぞ」
「えっ、まじで!? どれどれ…………なんだ、弓じゃん」
ヒエイが指差す方を見ると、弓士たちがスキルで的を射抜いていた。
「なあアル。なんでこいつ、露骨にテンション下がってるんだ?」
「ルインって、基本なんでも器用にこなすけど、弓だけはどうしてもダメなんだとよ」
「なるほど」
俺の弓の腕前を知らないヒエイにアルが説明してくれる。
そう。俺が【槍術】スキルを持っているのと同じくらい忘れがちだけど、俺の弓の腕前は10発中10発すべて誤射するレベルで壊滅的なのだ。必殺(味方を)だ。
その時、訓練している兵士に声をかけられた。
「お〜い、あんたら王国から来た助っ人だろ?」
「うん。そうだね。今のところ、何もしてないけど」
「謙遜するなって! 最初にスパイ見つけたのは、あんたらなんだろ?」
アル、ヒエイ、エリックの視線が俺に集中する。こっちみんな。
「もし良かったら、手合わせしないか? フリード閣下を破ったという、王国の冒険者の力を是非見てみたい。なぁ、みんな!」
後ろを振り向き、聞き耳を立てていた他の兵士たちに投げかける。
「おう!」
「ぜひ頼む!」
「俺もやってみたい!」
それにしてもこの兵士たち、ノリノリである。……でも、ちょっと気になった。
「ねぇ、みんなは王国の人間に対して、思うところはないの?」
仮にも国交がほぼ断絶状態だった仮想敵国だ。何かしらあるんじゃないかとストレートに聞いてみると、彼らは近くの仲間達と顔を見合わせた。そして返ってきた答えは、意外なものだった。
「別にないな」
端的な言葉。
「そうなの?」
「ああ。そもそも、ほとんどの兵士は戦う必要なくね? って思ってるぞ」
その続きを別の兵士が引き継ぐ。
「普通に貿易すれば、食糧や物資も入ってくるようになる訳だしな。帝国民が飢えてんのは全部、皇帝の野望のせいだ」
「だから、少なくともハインツ様に付いた奴らは王国に対して友好的だと思うぞ」
「逆にまだ皇帝についてる奴らは、王国に敵対的ってことだから気をつけろよ」
なるほどね。そこの線引きがハッキリしてるのはありがたい。
「それで? 手合わせはしてくれるのか?」
おっと、そういえばそういう話だったね。
「俺は構わないけど。みんなはどうする?」
「世話になってるんだ。俺もやるぜ」
「俺はパス。正面からやったら勝ち目ないっての。エリックはやるだろ?」
「うす」
俺、アル、エリックが参加。ヒエイは不参加だ。聞いてただろうけど、兵士さんに伝える。
「ってことで、こっちは3人ね」
「オッケー。じゃあこっちも3人出すから、魔法スキル無しの1対1を3回やる。でいいか?」
「いいよ。準備できたら始めようか」
※ ※ ※
こちらの先鋒はアル。
訓練用の刃引きした剣を手に手合わせが行われる訓練場中央へ進む。ちなみに順番は適当に決めた。特に深い意味はないよ。
反対側から、相手の兵士くんも歩いてくる。中央で少し距離をあけて見合うと、互いに一礼をする。
……なんか、剣道の団体戦みたいだな。完全に流れが一緒じゃん。
「よっしゃ、いつでもいいぞ」
「胸をお借りする」
互いの準備が整ったと見て、審判が大声で宣言する。
「ファイっ!」
帝国ってそうなの!? そこは『はじめっ!』じゃないんだ。意表を突かれちゃったぜ。
───ガキィィィン!
「うおぉぉ!」
「ふんぬぅ!」
やばい、審判に気を取られて動き出しを見逃した!
ふたりに目を戻すと、すでに鍔迫り合いの真っ最中だった。アルは余裕そうだ。このままじゃ、相手は押し切られて終わる。
「しっ!」
相手もまずいと思ったのか、強引に剣を横に逸らすようにして、一旦距離を取ろうとする。あ、アル相手にそれは悪手だ。
「甘いぜ。そらっ!」
アルは剣から片手を離し、下がろうとする相手の胸ぐらを掴んで、そのまま力任せにぶん投げた。
「ガハッ!」
「ほい」
そして、地面に叩きつけられた相手の首に軽く剣を当てる。
「そ、そこまで! 勝者、アル殿!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」
歓声が響き渡る。
うむ、実に冒険者らしい戦い方だった。
※ ※ ※
次鋒、俺。……そこは大将じゃないのかよって? 知らんがな。
「頑張れよー」
「怪我しないようになー」
「…………」
応援してくれるヒエイと、久々に保護者感を出してきたアルに軽く応えてから中央に向かう。……エリックも応援してくれていいのよ?
さて、中央で既に待ち構えていたのは、さっき最初に話しかけてきた兵士くんだった。
「お前さんがルインだろ? フリード閣下から話は聞いてる。あの人が他人を褒める事なんか、滅多にないから驚いたぞ」
「それは光栄だね」
「ハハハ! 全然そう思ってない顔じゃないか。俺はトムだ。この砦で兵士長をしている」
どうやら彼はトムというようだ。
「よろしくね。じゃあ、やろうか」
「ああ。……審判」
トムが審判に声をかけて、試合開始だ。
「ファイっ!」
先手はトムに譲る。慢心する訳じゃないが、今の俺がその気になれば一瞬で決着がついてしまうからだ。
「はあっ!」
軍人らしい素直な剣筋の振り下ろし。半身になってかわす。直後の斬り上げは、一歩だけ下がって避ける。その後の突きは、剣を軽く横から当てて軌道を逸らす。
避ける。逸らす。避ける。逸らす……。
ひたすらに繰り出される攻撃を、ことごとく捌いていく。今日も俺の"眼"は絶好調だ。
気づけばギャラリーは静まり返っていた。
トムの方も、疲れからか剣筋に乱れが出始めたので、終わらせよう。
重心のブレた振り下ろしに、カウンターで剣を合わせ、真上に弾き飛ばす。
「っ! ……はぁ、はぁっ。参った」
──ザンッ!
トムの降参の声と、地面に突き刺さる剣の音が綺麗に重なる。
……
…………
………………
「勝者、ルイン殿!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」
訓練場に響き渡る歓声に、俺は手を上げて応えたのだった。
なお、その後エリックは普通に負けました。
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