第85話 人狼ゲームは守備範囲外です
先に言っておくと、ヒエイは転生者ではありません
砦に到着した翌日。朝から皇子たちは、スパイ探しで大忙しだった。
やってることが完全に人狼ゲームである。ちなみに、この件に関しては俺はノータッチを貫く事にした。
だって、明らかに畑違いだもん。
これが異世界モノのお約束イベントとかなら、自分から率先して首を突っ込んでいたかもしれないが。人狼は全くと言っていいほど履修してないのだ。
そういうのは、頭の良いお歴々にお任せしよう。
王国側からは、モノクル眼鏡魔術師のダルトンとガルフが頭脳担当として抜擢された。……良かった。モノクルをかけておいてインテリキャラじゃなかったら、もう彼にはギャグキャラとしてしか生きる道がなかったに違いない。
さらに、もしかしたらスパイから別のスパイを匂いで辿れるかもしれないとかいう、ちょっと何言ってるか分からない理論でテレーゼも警察犬担当(?)として抜擢された。
「んで、なんでみんなこの部屋に集まってんの?」
マルクスにならい、ベッドに寝そべりながら部屋を見渡すと、思い思いにベストポジションを見つけてくつろいでいる男どもの姿が。修学旅行の男子部屋かな?
「だってよ、ガルフもテレーゼもいないんだぜ? ひとりで何しろってんだよ」
「合格」
勝手に部屋に押し入ってきた、最高にイカれたメンバーのアルはそう宣う。どうやら彼は、『暇すぎて滅!』するところだったらしい。合格とさせていただきます。
暇ならしょうがないね。俺もシーズ村では、物理的に友達がいなくて暇してたしね。その辛さはよく分かる。幼少期、修行してた記憶しかないもん俺。
「俺とエリックは、アルの部屋に行ったらもぬけの殻だったからこっちに来た。なあエリック」
「うす」
「唐突な樺地やめろ」
ヒエイとエリックがいきなりぶっ込んできた。いや、彼らがテニプ◯を知ってる訳がないから偶然だろうが。
というか、エリックの声を初めて聞いたけど、何気に似てたな。
「理由は分かったよ。俺たちはスパイの炙り出しが終わるまでやる事ないもんね」
俺がそう言うと、今まで黙ってたマルクスから質問が飛んできた。
「あちらさんはなんで、スパイなんてまどろっこしい事すんのさ。パパッと大軍で攻めてくればいいんでね〜の?」
「お、それは俺も思ったぜ」
「確かに。なんでだ?」
アルとヒエイも理由に見当がつかないらしい。
「あくまで想像なんだけど」
と、前置きをしてから俺は続ける。
「ひとつ、フリードがいるから。大軍が攻めてきても、軍の総大将であるアイツが説得したらどうなると思う? はい、アルくん」
「おう。今ので分かったわ。離反者が大量に出ることを恐れてるんだな」
「Yes I can」
…………今の英語、なんか間違ってる気がするけどまあいいや。
「ルイン教官」
「なんだね、ヒエイくん」
ビシッと手を上げて発言の許可を求めるヒエイ。さすがアルの友人だ。ノリがいい。そういうの嫌いじゃないぜ。
「二つ目はなんだ?」
「いいところに目をつけましたね。ヒエイくん」
感心した表情を浮かべ、拍手を贈る。するとアルが横から茶々を入れてきた。
「ついさっき"ひとつ"って言ってたんだから、二つ目があると思うのは当然だろ」
「そういう捉え方もありますね」
適当に流して話を続ける。
「この砦、これから起こすことの規模を考えたら兵が少ないと思わない?」
「言われてみれば……」
そう、昨日から思っていたことだ。明らかに人が少ない。
全体を見ても300人いるかどうかじゃないかな。そんな人数で革命なんてできるとは思えない。
「多分、他の各都市で陽動をしているんだと思うよ。敵軍がこの砦にちょっかい出す余裕を奪ってるんだ。それと、帝都の守りを薄くする狙いもあるかな」
「な〜るほどね〜。納得だわ。ふたつの理由で敵さんはここに手を出しづらい。だから、スパイなんて消極的なことしてんのね。いや、すごいねルイっち。スパイ探しに混ざった方が良かったんでないの〜?」
「だが断る」
さっきも言ったけど、俺のガラじゃない。
それに……。
「だけど、解決するまで何もしないってのもなぁ」
「心配すんな、ヒエイ。本当に必要なら、ルインは強制的に巻き込まれているはずだ。それがないってことは、あっちだけで解決できるってことだ」
「おまえは何を言っているんだ」
そういうことよ。
さすが付き合いの長いアルは、この世の理というか女神リーンの雑なイベント投下に慣れてきている。ヒエイはこれっぽっちも理解していないが。まだ俺に対する理解が浅いようだな。
「それはそうと、暇な今のうちにヒエイくんにお願いがあるんだけど」
「どうした? 藪からスティックに」
「……ちょっとこちらへ」
ヒエイに転生者疑惑が急浮上してきてしまったが、今は置いておこう。怪訝そうな顔をするヒエイを、部屋の隅に連れて行って内緒話をする。
「ゴニョゴニョ」
「は!? お前そんなことできんの!? ……ふんふん、了解だ。いいぞ。そういうことなら協力するぜ。アルの弟分の頼みだしな」
「助かるよ」
話が終わったと見たのか、そのタイミングでマルクスが声をかけてくる。
「お〜い、お二人さん。なんの話だ〜?」
「ちょっとね、ヒエイと連れションしてくるから震えて待て」
「な〜んか怪しいねぇ。ま、いっか。はよ行っといで」
そして、俺とヒエイは連れ立って部屋を出てトイレに向かう。もうここまでくれば、俺たちが何をしようとしているかお分かりだろう。
そう、『新たなスキル』の習得だ。
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