第84話 第2皇子ハインツ&第1皇女マリーと会食
カトレアの偉大さが分かる回
「初めまして、王国の客人よ。私はハインツ。アルセイン帝国の第2皇子だ」
「ごきげんよう、同じく私は第1皇女のマリーですわ」
無骨な砦の1室で簡単な会食の席が設けられ、俺たちはこの革命の中心人物である皇族との対面を果たした。
第2皇子ハインツを見た俺の印象は"苦労人"である。目の下のクマが彼の心労を物語っているようだ。ただ、雰囲気は親しみやすさが全面に出ていて好印象。
対して第1皇女のマリー。こちらは計算高い、どんな状況でも上手く立ち回るタイプかな。部屋に入った時の俺たちを、さっきのスパイくんとはまた違った意味で観察していた。
誰が自分にとって利用価値があるのかを、瞬時に計算したのだろう。
はたして、彼女のお眼鏡に適ったのは、なんとマルクスだったようだ。彼を見る視線が、一瞬キランと輝いた。
そんなベッタベタなリアクションからも分かるように、悪人って雰囲気は今のところは感じないかな。
俺たちの方も各々用意された席に着き、自己紹介を手短に済ませる。
スパイがどこに潜んでいるか分からない状況で、作戦の概要をペラペラ話すわけにはいかない。
今日のところは、本当にただの会食のようだ。お互いの人となりを把握しましょう、って事だね。
上座のハインツ皇子が、全員に料理が行き届いたのを確認すると静かに口を開いた。
「状況が状況だからな。こんなものしか用意できないが、どうか大目に見て欲しい。では、いただこう」
ハインツ皇子の短い挨拶と共に、会食が始まった。
※ ※ ※
「ははははっ! まさかフリードに、あの深手を負わせたのが"女神の使徒"だったとはな!」
質素だが、丁寧に仕立てられた料理を感心しながら口に運んでいると、第2皇子ハインツが急に話の矛先をこちらに向けてきた。こっちみんな。
どうやらフリードと一緒に爆発した時の事を話していたみたいですね。俺、あんま思い出したくないんだけど。死ぬほど痛かったし。
「殿下。その話は……」
「ふっ。"女神の使徒"なのだろう? 斬りかかったことも、きっと許してくださるさ」
気まずそうなフリードを無視して話を進めるハインツ皇子。一体なんの話だ?
「どういうことです?」
「なに。フリードは熱心なリーン教徒でな。そんな男がよりにもよって"女神の使徒"を斬ろうとして返り討ちにあったんだ。ククッ、喜劇だろう?」
あー、そういうことか。
その熱心なリーン教徒に、先ほど思いっきり化け物呼ばわりされた気がするが……。
でもまぁ確かに、ここのところフリードの態度が若干ぎこちないなーとは思ってたんだ。
それともうひとつ、あれは"斬りかかった"というよりは"爆破"なんですけどね、初見さん。
フリードはもはや剣士というよりは、ボンバーマンなのだ。だって俺、こいつが素直に"斬ってる"ところを見たことないもん。いつも爆発で終わらすじゃん。
おっと、そんなことより女神の使徒としての責務を果たさねばなるまいて。
全く、世話が焼けるぜ。いい大人なのに、導いてあげなきゃ爆破しかできないんだから。女神の使徒も楽じゃないよ、ほんと。……じゃ、ちょっくらやったりますか。
「フリードリヒ=フランベルクよ。全力で悔い改めよ。懺悔があるなら、聞くだけ聞こう。リーン様も多分お許しくださるぞよ。俺は許さないが」
「くっ! 女神リーンよ。なぜこんな奴を使徒に選ばれたのか……っ!」
それは俺が聞きたいよ。
「はっはっは! 面白いな、ルインとやら。気に入ったぞ! フリードにそこまで言える子供は初めて見た!」
「はっ! お褒めに預かり、恐悦至極にてござ候」
皇子に対しては決して無礼を働かない。長いものには巻かれるんだよぉ! 世渡り上手のルイン坊とは俺のことじゃい!
「ぐっ……っ! 覚えていろ、ルイン」
「ふりーどおじちゃん。ぼく"めがみのしと"だよ?」
「……。お前を殺す」
やっべ、調子に乗ってやりすぎた。
「なんちゃって! 今までのは、ぜ〜んぶジョーク! ルミウム王国で大バズり中の、ナウなヤングにバカウケのトレンディージョークだよ! 浮遊感与えちゃったかな?」
「殿下。やはりルミウム王国は1度、滅ぼすべきでは?」
俺の軽いおふざけで、せっかく軌道に乗り始めた国際的な友好関係に亀裂が生じてしまった。
くっ。なんてことだ。カトレアがいれば、こんな事態に陥る前に俺を止めてくれたのに!(他力本願)
その後、ハインツ皇子も巻き込んで、なんとかフリードを宥める事に成功したのだった。
※ ※ ※
一連の会話を聞いていた他の面々の反応はというと、
「ルイン、楽しそうね!」
「心臓に悪いなんてもんじゃねーぞ……」
「ホッホッホ。今日は飛ばしとるのう」
"フェザーテイル"は慣れているのでこの態度だが、はっちゃけるルインを初めて見た"レイブン"は……。
「い、イカれてやがる。皇族との会食の席だぞ……っ。あれでよくCランクになれたなアイツ」
「……彼との応対はヒエイ、あなたに任せる。僕は彼と関わりたくない」
「……(コクコク)」
ルインの人間性を疑っていた。
しかも、モノクル眼鏡の魔術師ダルトンと、ゴツい大剣戦士エリックには知らないうちにブロックされていた。
一方で、第1皇女マリーに絡まれているマルクスは、
「ヒーッ……! ヒーッ! は、腹が痛い! ぷっ! アーハッハッハ!」
大爆笑していた。ツボに入ってしまったらしい
「くすくす。面白い子ですわね。あんなに楽しそうなハインツは久々に見ましたわ」
マリーもお上品に笑っている。
「くくっ……! いや〜、ほんとにねぇ。この旅で一番の収穫は、ルイっちに会えたことかもしれんわ〜」
なんともカオスな空気になってしまったが、友好を深めるという意味では、この会食は概ね成功と言って良いだろう。
…………多分。
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