第77話 ルインの休日(休めるとは言っていない)
強制イベント発生!
スタンピードからおよそ2週間。
戦場となった東の草原の後始末や、魔物の解体、商人たちへの素材売却。そして、俺たち冒険者への報酬の分配なんかも終わり、街はすっかり通常通りの生活に戻っていた。
しかしながら、『いつ魔物の群れが街を襲ってくるか分からない』という状況は相当ストレスになっていたようで、街全体がいまだに若干浮き足立っているように感じる。
そんな街中を、のんびりお散歩しているのは何を隠そう俺である。
ゴルドフんちに行ってから昨日まで、スタンピードのせいで滞っていたギルドの依頼に忙殺されていたので、本日はお休みでございます。
ここで、「ちょ待てよ」と疑問が出てくる。
「おかしいな……。冒険者って、もっとこう『ガーッ』と働いて、その分何日もガッツリ休むみたいなイメージだったんだけど」
これじゃ一般サラリーマンと変わらなくない?
「俺はもっと自由に楽しく生きたいんだけどなぁ。まだまだ足りないものばかりです……」
主に『金』『力』『権力』あたりがドカンと欲しい。……こう言葉にして並べてみると、完全に俗物の中の俗物。欲望の塊でしかないが、世の中とは得てしてそういうものである。
「諸行無常の響きあり……」
とりあえず、昔学校で習ったそれっぽい事を口走っていると、見覚えのある馬車が猛スピードで大通りを爆走しているのが目に映った。…………それも、こちらに向かって。
その凄まじい勢いはまるで「盛者必衰の理をあらはす!」とでも言わんばかりだ。
「うそだろ……? え、だって、そんな……。俺、今日はお休みなんだよ?」
俺の言葉は虚しく街の喧騒に溶け、『伯爵家の』馬車は俺の真横で物理法則を無視したかのように急停車する。
そして、勢いよく扉が開かれた。
──バタン!
「探したぞルイン殿! 失礼つかまつる!」
「ちょっ!」
──がっし
グレースさんの声と共に腕が飛び出して、宍戸梅軒の鎖鎌のごとく俺の体に絡みつく。
これはどう足掻いても逃れられないやつだわ。腕から伝わってくる"執念"がそう思わせた。
※ ※ ※
「それで、急にどうしたんですか?」
問答無用で馬車の中に引き摺り込まれた俺は、真っ先に何があったかを聞いてみることに。
グレースさんは神妙に語り出した。
「うむ。現在、領主館にて重要な会談が開かれていてな。『炎剣のフリード』と、王都からの使者、冒険者ギルドマスターのルーカス殿に、冒険者も数人参加している」
「あれ? フリードって、ずっとこの街にいたんですか?」
2週間くらい経つけど。まさかとは思うが、フリードくん。キミ、ずっと休暇気分で買い食いとか楽しんでたんじゃないだろうね。うらやまけしからん。
「いや、彼は1度拠点に戻ったぞ。……事が事だけに、王都にいる上層部の判断を仰ぐことになってな。その使者がヴォルクスに到着する頃合いを予測して、再度足を運んでもらっていたのだ」
「なるほど」
遊び散らかしていた訳じゃなかった。あらぬ疑いを抱いてしまってごめんよ。
しかし、スマホがないから集合日時の調整が面倒すぎる。
『頃合いを予測して、再度足を運んでもらっていた』ってなんだよ。戦場でもないのに、孔明みたいな"読み"をしなきゃならんのか。
「それで、俺が呼ばれた理由は?」
イベントに巻き込まれるのは分かっていたことだけど。ちゃんと筋の通っている理由がない限り絶対に首を縦には振らんぞ。
「そこまでは私も聞いていない。直接ガーランド様から説明を受けてくれ」
「分かりました」
そこで話は終わったかと思われたが、グレースさんはまだ何か言いたそうにしている。気になるので聞いてみた。
「まだ何かあるんですか?」
「そうだな。気を使わせてしまうのも悪いと思い、言おうかどうか迷っていたが……。もし話し合いが終わって時間があったら、お嬢様に顔を見せてやってはくれまいか」
「セレナ様に?」
ちょっと予想外の提案だった。
でも確かに、ファランダールから戻ってきて、まだ会ってなかったもんね。……そんなホイホイ気軽に会える人じゃないっていうのもあるけど。
グレースさんが続ける。
「ああ。"アルゴスアイズ"がダンジョン都市ファランダールへ旅立った日から、ずっと寂しそうにされていてな。戻ってからも、何かと忙しそうなルイン殿を誘えずにいるうちに、ズルズルと今に至ってしまったという訳だ」
「それは申し訳ない」
別に責められている訳じゃないのに心が痛い。
「ルイン殿が悪い訳じゃないさ。ただ、心に留めておいてもらえると嬉しい」
「了解です」
今度、時間を作って街でも案内してあげよう。今なら街の至る所に教会関係者が潜んでいるし、俺もいるから安全面は問題ないしね。
ふと思いついたんだけど、教会の方々にお願いしたら、フラッシュモブみたいなこともできるかもしれないな。……やばい、想像しただけで面白そうだ。絶対見たい。
どんどん思考が脱線していく中、気づけば馬車は領主館に到着していた。
※ ※ ※
「さぁ、ルイン殿。私についてきてくれ」
頷きを返して、グレースさんの後に続く。あれ、いつもとは違う道を歩いているな。
「今日は応接室じゃないんですか?」
「人数が多いからな。今日は会議室だ。……それにしても、随分この屋敷に詳しくなってきたな。ははっ」
「……」
言われてから愕然とする。
気付かないうちに、この館に詳しくなってしまっているという事実。なにか、引き返せないところまで足を踏み入れてしまったような気がする。
「どうした? ルイン殿。会議室はもうすぐそこだぞ」
「は、はい」
(まだだ。まだ慌てるような時間じゃない)
自分にそう言い聞かせながら、多勢力の様々な思惑が入り乱れる会議室に、ついに足を踏み入れるのであった。
ルインはアルを逃がさない。伯爵家はルインを逃がさない。
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