第76話 リアラさんにお礼をしよう〜ゴルドフを添えて〜
第7章スタートです
なんだかんだで最高に楽しかった打ち上げ翌日。
俺は最近ご無沙汰だった『ゴルドフ鍛冶屋』を訪ねていた。変なイチャモンをつけられて時間をロスするのも嫌なので、今回は初手からちゃんと挨拶することに。
「こんにちわ〜」
「いらっしゃい! 『ゴルドフ鍛冶屋』へようこそ!」
「……そうきたかぁ」
満面の笑みを浮かべたゴルドフ(?)に、ご丁寧にお出迎えされてしまった。いや、双子の兄弟がお手伝いに来ているパティーンも充分考えられるな。
なにせここはゴルドフの居城、いわば魔窟なのだ。
たとえどんなにブッ飛んだ出来事が起きたとしても、この場所では決してあり得ない事などではないのだ。
なので、ひとまず牽制球を投げてみる。
「すみません。ゴルドフさんに用があって訪ねてきたのですが、彼はご在宅でしょうか」
「ははは。ルインくん、今日もウィットに富んでるね。どこからどう見ても、俺がゴルドフ本人じゃないか」
「くっそめんどくさいことになってきたぞ〜」
……ついさっき『変なイチャモンをつけられて時間をロスするのも嫌』とか言っていたのに、ご覧の有り様である。ロスもロスよ。完全に奴の術中に嵌められてしまっているではないか。
さて。どうするか。……うーん。
「ま、いっか!」
俺は秒で考えるのをやめた。もうこの流れに身を任せてしまおう。どんぶらこしよう。
「じゃあ、この剣を研いでもらえる?」
「承りました」
解釈違いにも程がある返事が返ってくる。その出立ちで「承りました」って! 冗談キツイぜ。
「ぶはっ!……ほい、お願い」
「ぐっ! 少々、お待ちっ、ください……っ」
つい吹き出しそうになりながらも、黒鋼の剣を渡す。
すると、いつものゴルドフが一瞬だけ顔を覗かせたが、すぐになんとか抑えこむ。その様はまるで「し、鎮まれっ……俺の腕よっ!」とか言っている厨二病患者のようである。
なにはともあれ、俺から剣を受け取ったゴルドフは作業場へ引っ込んでいった。
「いったい、何が彼をそうさせてしまったのだろうか」
リアラさんが絡んでいるの間違いないんだろうなぁ。
……彼女のことを考えたからだろうか。
「おや? ルインじゃないか。よく来たね」
「おー! おはようルイン!」
当の本人が娘であるエルルを連れて現れた。
「昨日はお疲れさん。今日はどうしたんだい?」
「主な用事は、ダンジョン都市関係のお礼と報告です。あと、ついでに剣の研ぎ依頼ですね」
「律儀だねぇ」
持ってきたお礼の品を、荷物の中から取り出してリアラさんに手渡す。
「はい、お礼のお酒です。そこそこ珍しい品らしいですよ」
「気が利くじゃないか! しかもドワーフ族に人気の『酔うなら早くしろ、でなければ帰れ』か! センスいいねぇ」
「お母ちゃん! ボクも飲みたいぞ!」
母娘揃ってテンション爆上がりだ! ここまで喜んでくれると贈った方も嬉しいね。
「ひとまず応接室に行こうか。エルル、グラスを2つと、ルインには果実水を出してやりな」
「分かった!」
元気よく任務をこなしに行くエルルを見送り、リアラさんと共に応接室に向かった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
リアラさんに促されるまま、ソファに腰を下ろして間もなく。
──バァン!
「待たせたぞ!」
エルルが片手でお盆を持ちながら、扉を壊さんばかりの勢いで開け放った。
ちなみに、扉を開ける時に『バァン!』は、割と鳴っちゃいけない類の音だよ。これマメな。
なんてことを考えている間に、2人のエントリープラグ(グラス)に命の水(酒)が注入完了された。
「じゃあ、話の前にとりあえず」
「乾杯だぞ!」
「「「かんぱ〜い!」」」
あ、このノリはドワーフっぽいわ。
……
…………
………………
「なるほどねぇ。……ホント退屈しない人生を送ってるじゃないか。女神の使徒ってアンタ……」
ダンジョン都市から現在に至るまでの話を、酒をゴクゴクしながら聞いたリアラさんが呆れ混じりにそう言った。
「リアラ先生。ゆっくりしたいです」
「諦めたらそこで試合終了だよ。まぁ、あの生臭国家になんかされそうになったら言いな。アタイも力になってやるよ」
「本当に助かります」
頼もしい仲間が増えました。
「この子もアンタらを気に入っているようだしね」
エルルを撫でながら言うリアラさん。娘に優しく、夫に厳しいおっかさん。あると思います。
「良きパーティーだぞ!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
これにはルインくんもニッコリ。
「とにかく、法国が女神の使徒の存在に気付くのは、まだしばらく時間がかかるだろうさ。アンタは普段通りに生活すればいい」
「あっ」
「ん?」
それ言うと、普段通りに生活できなくなっちゃうんですよ。なんでだろうね。
ってことで、近々新イベントが開催されるに違いないが、どうせフリード関連だろう。今回は既に分かりきっている分、ダメージは気持ち少なく済んでいる。
次のイベントに思いを馳せていると、応接室の扉がいきなり開け放たれた。
──バァン!
「小僧! 俺がお前のために剣を研いでやっているのに、美味そうな酒の匂いをプンプンさせおって! どういう了見だ!」
現れたのは、すっかりメッキが剥がれたいつものゴルドフだった。
「【通打】」
──ドゴォッ!!
「グッフゥ!!」
流れるように放たれた【通打】が、ゴルドフを床に沈めた。
「このバカは、お客様への接し方をすぐに忘れちまう。もっとキツい教育が必要だね」
「そ、そんな。ただ、俺はただ、酒が飲みたいだけなのに……っ」
見た目は完全にロリのリアラさんに、ガチ泣きさせられている髭もじゃのオッサン。絵面が最悪である。
……仕方ない。
見かねた俺は、崩れ落ちているゴルドフの傍にそっと『それ』を置く。
目線でブツが『酔うなら早くしろ、でなければ帰れ』である事を確認したゴルドフは目をクワっと見開き、さらには涙まで溢れさせた。
「こうなると思ったから、実は2本買ってきてたんだよ」
「心の友よ……っ!」
ジャイ○ンかな? なんとも分かりやすい男である。
「リアラさん、仲良くみんなで飲んでくださいね」
「アンタも甘い男だね。分かったよ」
「さすがルインだぞ!」
最後にドタバタしてしまったが、これぞゴルドフだなと安心してしまっている俺がいるのだった。
ゴルドフ「やります、僕が飲みます!」
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