第72話 『キメラ』の元に辿り着け!
イクゾー! デッデッデデデデ(カーン)デデデデ!
「カトレア。探知魔法であいつを見た時の反応はどんな感じ?」
キメラを目視で確認したので、あいつは探知魔法ではどのように捉えられるのか聞いてみた。
多分この先、似たようなヤツとやりあう機会はまたやってくるからね。情報収集って程じゃないけど、普通の魔物と区別がつくなら知っておきたい。
「普通だったわ」
「普通って?」
母親の手料理を食べた後の、思春期の子供みたいな返事が返ってきたので、意図を掴みかねて聞き返す。
「例えば、あの戦場のどこかに紛れ込んでたとしたら、探知魔法だけじゃ分からないくらい普通ってことよ」
「魔力が多いとかは?」
「ないわね。せいぜいCランクの魔物レベルじゃないかしら」
魔力量が一般通過魔物と変わらないということは、現時点では目視で確認するしかないのか。地味に面倒だな。
「それでどうするんだ? キメラの元に行くには、冒険者と魔物が戦っている場所を強行突破するか、回り込むしかないが」
少し考え込む俺に、ビルが声をかけてきた。まだ目標までかなり距離があるし魔物もいるが、右側の手薄な場所を回り込むように進めば案外簡単に辿り着けそうだ。
「冒険者達に余力が残っているうちに、キメラを潰しちゃいたいね。右翼はガルフの魔法のおかげで楽ができたけど、中央と左翼がどうかは分からないし」
左翼にはリアラさんがいるから、全く心配してないが。
「そうね。私も行くなら今だと思うわ」
「同じく」
みんなも異論はなさそうなので、俺たちも突撃することに。
「じゃあ行こう。俺とローグが先頭で道を作るから、みんなは遅れないようにね」
『了解!』
ローグと頷き合ってから、走り出す。その直前でアルと視線があったので、ハンドサインでキメラに向かうことを伝えておいた。
魔物が比較的少ないルートを、軽く蹴散らしながら進んでいく。
レベルが上がったおかげで、もはや野良のフォレストコングなんかも相手にならない。フン、ザコか(殿下並感)
「ルインがふざけてる気がするわ!」
「ごめんて」
背中からカトレアの叱咤が聞こえてくる。……なんで後ろ姿だけで分かるんだよ。
「おい、ルイン! この先は魔物がちょっと多いぜ。どうする?」
ローグが魔物の集団をいち早く発見して俺に意見を求めてきた。うーん、これを回り込むのは、ちょっと時間がもったいないな。……なら。
「こうする。【乱刀】」
走りながら剣を鞘から抜き、虚空に向かって振り抜く。すると、敵集団を取り囲むように空中に無数の刃が発生。そのまま獲物に向かって解き放たれる。
『ウホッ!? ウ──』
『ブルルッ! ブル──』
無慈悲に斬り裂かれていく魔物達。あの一帯だけ血飛沫がすごいことになっている。ダンジョンじゃないから死体も消えないしね。
自分でやっといてなんだけど、ちょっと地獄絵図すぎる。心臓の弱い方には決してお見せできない絵面である。
というか、なんかレッドオーガくんが使ってた時より強力になってない?
「……すげーな」
横を走るローグから、そんな感想が聞こえてきた。完全に同意。高レベルから放たれる【乱刀】は、もはやMAP兵器みたいになってしまっている。
「広範囲の攻撃手段って、実はあんま持ってなかったんだよね。これは嬉しい誤算だわ」
「すごかったぞ!」
「あぁ……。またルインがおもちゃを手に入れてしまったわ……」
「ははは。強くなるのは良い事じゃないか」
いろんな意見が飛び交っている。やんややんやと、殺伐とした戦場で緊張感のカケラもない掛け合いを繰り広げていると、ついにキメラとの距離が100mほどに。
ようやく全貌が細部まで確認できるようになったな。改めてその姿を注視してみる。
4本足で佇む姿はパッと見、グリフォンのようにも見える。頭部が2つある時点で違うと分かるのだが……。
1つはヤギみたいな頭で、もう1つは爬虫類かな。
どの魔物のものなのかは分からないが、4本足のそれぞれが違う魔物で構成されている。胴体はなんだろう。ライオンかな。
さらに背中からは、鳥類の翼まで生えている。……まさか飛ばないよね?
尻尾部分に至っては、蛇の頭が何本も飛び出していて、メデューサみたいになっている。非常に気持ち悪い。
長々と解りにくい説明をしてしまったが、要はロールプレイングゲームなんかでお馴染みの、あのキメラを想像すれば大体合ってる。
さぁ、ここからは意識を切り替えよう。
「まずはお前の手札を見せてもらおうか。【鑑定】」
ヴヴ──ヴ───ヴォン
───────────────
不正を検知しました。
この個体は未登録です。
女神の承認が下りていません。
───────────────
「そうきたか」
耳障りなノイズ音と共に目の前に現れたのは、今まで見たことのない表記だった。
これは、女神リーン様も相当お冠のようだ。完全に存在自体を認めないという鋼の意志を感じる。
「どうだルイン! 鑑定結果は?」
「女神が存在を認めていないみたいで、未登録としか情報が出てこない!」
ビルからの問いに、大きい声で答えることで全員に情報を共有する。
「情報がないのは少し不安ね」
「普通はそうだぞ!」
「……そうだったわね。楽することが当たり前になっていたわ。反省しなきゃ」
常に相手の情報を、先んじて知っている状態で戦ってきたからね。
情報なしの状態で戦ってたら、多分ダンジョンボスの『レッドオーガ』と『リーパー』はかなり強敵だったと思う。
「どのみち、やることは変わらない。俺とカトレア、ローグの3人で先制の魔法を。その後はビルと俺で突っ込むから、ローグは上手くヘイトを稼ぎすぎないように立ち回って。エルルは隙を見てデカイのよろしく。カトレアは自由にやっちゃって」
『了解!』
指示を飛ばし終えた段階で、既に射程距離だ。頼むぜみんな。
「【ファイアボール】」
「【ライトニング】」
「【ウィンドアロー】」
3つの魔法がキメラに向かって飛んでいく。この時点でキメラは明確にこちらを『敵』と認識したようだ。
上手く言えないが、意識のようなものが戦闘用に切り替わったように感じた。
そして、特に敵は回避行動を取ることもなく、魔法が着弾する。
───パァン!
着弾の瞬間、半透明のバリアのようなものによって全ての魔法が弾かれた。なんだあれ。
「ビル。魔法が弾かれるなら、物理はどうか試したい」
「分かった。予定通り突っ込もう」
二つ返事。うちのタンクは頼もしいね。……じゃあ、やろうか。
今回のスタンピードの核となる魔物、個体名『キメラ』との戦闘が幕を開けた。
ちなみにルイン以外がキメラに【鑑定】を使うと、強制的に弾かれます。




