第70話 過去の栄光を疑われる大魔術師
ついにガルフの前職がほんのちょっとだけあきらかに……
──ヴォルクス東門前
「これ、俺たちいらなくない?」
「むしろ邪魔になりそうね」
現在、絶賛スタンピード準備期間中である。
なので臨時措置として、討伐系の依頼は全て東門から森までの間の魔物の間引きになってしまっている。もちろん、森への立ち入りは禁止だ。
すると何が起こるのか。
東門から出た途端、視界に入るのは右を向いても左を向いても冒険者の姿。まるで夏休み期間中の市民プールみたいな混雑具合である。
エルルを肩に乗せたビルが、ゲンナリした顔で俺に尋ねてくる。
「どうするルイン……帰るか?」
「うん、そうだね」
迷うことなく即答した。
門出た瞬間終わったわ。
もうここに用はないと言わんばかりに、冒険者ギルドへUターンすることになった。
※ ※ ※
ということでギルドに帰還。
──パタンパタン
「ただいまー」
「あ、"アルゴスアイズ"の皆さん! ちょうどいいところに」
受付カウンターに座っているアンナさんが、俺たちの姿を発見するなり『おいでおいで』と手招きしてきた。
なんじゃらほい、と歩み寄ると、垂れ目をさらに少しだけ垂れさせながら言う。
「ちょうどよかったです。会議室でギルド長が、スタンピードの配置を通達しているんですよ」
「そうなの?」
「はい。とは言っても、配置を決めておくのは顔合わせに参加したパーティーくらいですが」
ふむふむ。とにかくギルド長に話を聞かないことには何も言えんね。まずは会議室に行ってみよう。
「ありがとう。今から行ってみるよ」
「はい。よろしくお願いします」
アンナさんに礼を言ってから、みんなで2階の会議室へ向かう。
俺たちが入室すると、あの顔合わせの場にいた伯爵組を除いた冒険者パーティーが勢揃いしていた。……訂正、リアラさんもいなかったわ。
期せずして、重役出勤感を醸し出してしまった俺たちに視線が集中する。
「えぇ……。なんか俺たち、空気読めないパーティーみたいになってない?」
「ハハハッ! 俺たちがみんな揃ってギルドにいたのは、本当にただの偶然だ。気にすることはないさ」
「ありがとうヒエイ」
思わず出たボヤキを拾って、フォローまでしてくれたのは"レイブン"のヒエイだ。意外、と言っては失礼かもしれないが、気遣いの人なのかもしれない。
「よく来てくれたな"アルゴスアイズ"」
「こんにちわギルド長。配置が決まったんだって?」
「うむ。ちょうど今から伝えるところだ」
どうやらまだ話は始まっていなかったらしい。……多分ある程度俺たちを待つつもりだったんだろう。
「待たせてごめんね。早速聞かせてもらっていいかな?」
「うむ。では伝えるぞ」
ギルド長がみんなを一瞥すると、場の空気が引き締まった。さすがベテランの冒険者たちだ。ツラ構えが違うぜ。
「まず、右翼に"フェザーテイル"と"アルゴスアイズ"だ。悪いが、こっち側に回す冒険者の数は少なめになるぞ。理由は分かるな?」
そんなもん1つに決まってる。
「ガルフがいるからでしょ?」
「正解だ。ガルフ老は対多数でこそ本領を発揮するからな。冒険者がその辺をうろついていたら巻き添えを食う」
ここまで散々『大魔術師』とか『あのガルフ老』とか言われているのを目にしてきたが、実はまともにガルフが戦っている姿を見たことはない。
腰をやったり、フリードに吹っ飛ばされている姿しか見ていないので、若干心配である。
それが顔に出てしまったのか、アルがフォローを入れてきた。
「そんな顔するな。こう見えてガルフの魔法は集団に対しては滅法強い」
「さすがにそこまでの心配はしてないって」
「ならいい。元宮廷魔術師の実力を見せてもらおうぜ」
…………ん? 空耳かな?
「え? なんだって?」
「だから、ガルフは昔、宮廷魔術師だったんだよ」
呆気にとられた俺が、ゆっくりとガルフの方を向くと。
「万事わしに任せよ」
めちゃくちゃキメ顔だった。これは調子に乗ってる! 我が世の春が来た、みたいな顔してる!
それを見た俺は逆に冷静になって、ちょっと考えてみる。
……さて。俺が持つ虎の子のパッシブスキル【並列思考】くんが導き出した答えは。
「嘘乙」
「嘘じゃねーよ! おいガルフ! 普通にしやがれ! めちゃくちゃ疑われちまったじゃねーか!」
「必死なところが余計に怪しいでござるなぁ」
一度疑うとますます胡散臭く見えてくるものだ。
「本当よルイン」
「あなたはガルフのお孫さん?」
「……」
「ごめんて」
少しのおふざけも許されない時間らしい。少し調子が出てきた瞬間に釘をさされた。
「そういえばファランダールで『今度教える』って言ったっきり、すっかり忘れていたわね」
「あ〜。あったね。ギルド長と話してる時だっけ」
「呼んだか?」
「呼んでないです」
ルーカスがしゃしゃり出てきたので、すぐに引っ込ませる。「ファランダールで」って言ってんだろ。
このままだとカオスまっしぐらだ。話を先に進めよう。
え? 話を脱線させたのは俺だって? ハハハ、ナニモイウコトハナイ。
「ごめんごめん、少しふざけすぎた。……一番最初に俺に魔法について教えてくれたのは、他ならぬガルフだ。魔法の師匠を1人挙げろと言われたなら、俺は間違いなく『ガルフ』と答えるよ」
「……ルイン坊っ!」
「お祖父ちゃんもそこで泣かない! また脱線するでしょうが!」
いい加減にしろとばかりに、ここでギルド長が割って入る。
「とにかく! 右翼側はガルフ老の大規模魔法で可能な限り殲滅。撃ち漏らしを他の冒険者達で掃討。チャンスが来たら"アルゴスアイズ"が『キメラ』の元に突入しろ。……基本的にはこんなところだ」
それが順当だね。……とは言うものの、現場では何が起こるか分からない。臨機応変に対応できるように心構えはしておこう。
「次に左翼だが」
そこで今まで黙って待ってくれていた"レイブン"と"リーナの福音"へと向き直るギルド長。
「ウチらだね!」
「だが、俺たち"レイブン"は戦闘能力はさほど高くないぞ」
2パーティーを代表して、ビアンカとヒエイが返答する。
「ヒエイの懸念については問題ない。こちらにたくさん人員を割り振るのと、リアラも基本的にそちら寄りに陣取ってもらうからな」
「オーケー。ちゃんと考えてくれてるなら文句はない」
両翼ともに、話を聞いた感じだと十分な戦力を回せるみたいだね。左翼についてはあっさり話が終わった。戦力的に、正面からのガチンコ勝負しかできないからね。
ってことは残る中央は当然。
「伯爵家の戦力はおよそ200。これを騎士団長ステイルザードが率いて中央に陣取る」
「伯爵家側の意図は?」
ヒエイが問うと。
「街の住民に対するアピールだな。騎士団長率いる伯爵家の兵士たちを中心に、冒険者達が協力してスタンピードを鎮圧。この形にしたいんだろう」
「ま、それが丸いか」
あっさり引くヒエイ。
これは感情の問題で、冒険者がゴリ押しでスタンピードを殲滅しました! というよりも、伯爵家が解決したという形にした方が住民たちは安心するのだ。
それが分かっているから、誰からも文句の声は上がらない。
……マジでこの世界の冒険者は出来た人間ばかりである。その分、ファランダールにはロクでもないのが集まるのだが。
「話は以上だが、もうスタンピードがいつ発生してもおかしくはない。まだ若干の猶予はあると思うが、各々すぐに動けるように備えておいてほしい」
おや? ちょっと微妙なラインだけど、これはフラグですね。つまり、
──バァン!
「ギルド長! 東門から緊急連絡です!」
「内容は!」
「スタンピードが発生しました!」
こういうことよ。
ガルフのくだりで、ずっと黙って待っててくれた"レイブン"と"リーナの福音"は本当に出来た人間だと思う。




