第69話 聖女がここにいる理由と教皇の思惑
リーン教会は教義の内容がざっくりしているからか、かなり緩いです。
「まぁ! ルインさんはリーン様の使徒だったのね!」
「いや、その……」
エカテリーナさんが興奮気味に言う。
「そうなんですっ! たしかに聖女である私が【神託】で聞きましたっ!」
「そんな、きっとなにかの手違いで……」
セシリアもスーパーハイテンションで捲し立てる。使徒とか……リーン様がつい悪ノリしちゃっただけだと信じたいけど、どうなんですかね。
「スゲーぜ、ルイン! どおりでいいボディが打てる訳だ!」
ボディは関係ない。てか根に持ちすぎじゃない? ごめんて。
あの後、教会前で騒ぎ散らかす俺たちを迷惑に思ったのか、エカテリーナさんが様子を見に来た。
そして元凶が俺たちだと分かるやいなや、「立ち話もなんだから」と教会の応接室に通されまして。ソファに座って一息ついたのも束の間、エカテリーナさんに聞かれてしまったのだ。
『どうして教会前で騒いでいたの?』と。
そんなこと聞かれてしまった日には、もうおしまいだよ。
絶好調の聖女セシリアが、1から10までペラペラとご丁寧にしゃべくり回した。
なんでも、ここまで大規模に教会関係者を連れて来ることができたのは、『聖女』が『女神の使徒』に会いに行くという大義名分があったかららしい。
しかもこれから彼ら彼女らは、『女神の使徒』である俺の拠点であるヴォルクスで生活するんだって。
正気の沙汰じゃない。イカれてやがる……っ。
「今、そのことを知ってる人ってどれくらいいるの?」
恐る恐る尋ねる俺に、恐ろしい答えが返ってくる。
「王都のリーン教会本部の人間は、ほぼ全員知ってますね」
「ほぼ全員!?」
全校集会でも開かなきゃ不可能なレベルで周知されてるの!?
「教皇様が、すれ違う人みんなに言いふらしてましたからね」
「教皇そんな軽い人なの!?」
リーン教会に抱いていた、厳粛な聖職者達のイメージが完全に消え去った。代わりに大学のチャラいサークル活動みたいなイメージが生えてきた。
「オイラとしてはいつもふざける側のルインが、ずっとツッコミに回ってる事の方が信じられねーぜ」
「ローグはもう少し静かにしてようね」
「あいよ」
……ローグのおかげって訳でもないが、今ので少し冷静になった。すると教皇のその行動に疑問が湧いてきたので、セシリアに質問する。
「セシリア、『あの事』は誰にも言ってないんだよね?」
『転生者』に関してのことだ。
「もちろんです。私はそんなに口の軽い女じゃありません」
ええー? ほんとにござるかぁ?
「な、なんですかその目は! ほ、ほんとですっ!」
「ごめんごめん。信じるよ」
ってことは、教皇は考えなしに、ただ言いふらしてた訳じゃなさそうだね。
……多分だけど、俺を守るため。
「何か教皇から伝言みたいなのって、聞いてない?」
「あ、忘れてました! え〜と、『可能な限り早急に味方を増やせ』だそうです」
「……」
なるほど。ここまでの動きは、やはり俺の身を案じてのことだったのか。素直に感謝だね。
「ルインさん。えっと、つまりどういうことかしら?」
「俺が女神の使徒になっちゃったってことは、隠そうとしてもいずれ漏れる。……おそらく教会内部から」
「「っ!」」
普通なら箝口令でも敷けば良い、と考えるところなんだけど……。
「女神の使徒発覚の神託時、その場にいたのは誰?」
「教皇様を除くと、枢機卿3名と大司教が4名です」
「ルインさん、それが教会の幹部全員よ」
エカテリーナさんが補足してくれる。ちょうど各地を担当する大司教が、全員王都にいるタイミングだったらしい。
「裏切るとまでは言わないけど、その中に口が軽い人はいない? お酒が入るとポロッと言っちゃうような……」
「いますね」
まずはエカテリーナさん。王都の教会本部と、そこまで関わりがなさそうなのに即答した。この時点で雲行きが怪しい。セシリアがその後に続く。
「むしろ全員口が軽いですね」
……雲行きが怪しいとか、そんな次元じゃなかった。既にゲリラ豪雨クラスのどしゃ降りだった。
「教会本部が組織として終わってる件については、ひとまず置いておこう。つまり聖エルディライト法国にバレたら、俺は確実に標的にされるってことだね」
「それは……間違い無いわね。『リーン教の使徒』を生贄にして、国内の求心力を高めたり、とかね。ろくでもないことするわよ、あの国は……」
その上『使徒すら守れない』となれば、リーン教の名声も地に落とせる。一石二鳥だ。
「だからこその教皇と教会本部の動きだった訳だ。この街に関係者を大勢集めて、俺の周りを固めた訳だね。ひとまず納得はしたよ」
つまり、リーン教会は大っぴらに喧伝してしまうことで、迂闊に俺に手を出せない状況にしちゃおうって魂胆だ。
教会本部の考えは大体分かった。
だが、このタイミングでの女神の神託。リーン様、なんのつもりだ?
ちゃんと考えあってのことだろうな。……特に考えてない可能性もしっかり存在しているのが、なんとも恐ろしいところである。
「とにかく、こうなっちゃったものは仕方がない。頭が痛いけど、まずは目の前のことをひとつずつ片付けていこう」
「おう! よく分かんねーけど任せとけ!」
ローグの明るさに、少し気持ちが前向きになった。一方でセシリアは暗い顔だ。
「ごめんなさい。考えが至らず、私は単純に浮かれてしまっていました。あの神託がここまで大事だったなんて……」
12歳の女の子なら、それが普通だと思うよ。
「セシリアのせいじゃないよ。リーン様が本気で俺を使徒にするつもりなら、どこかで通る道なんだから」
「ルインさん……。ありがとうございます。私も力になりますから、なんでも言ってくださいね!」
セシリアが胸の前で拳を握り「ふんす!」とする。
「私もよ。どうせなら伯爵家も巻き込んじゃいなさい。……セレナのためにも(ボソッ)」
エカテリーナさんの最後の言葉は聞かなかったことにする。
「ありがとう、みんな」
情報量の多かった話がやっと終わった。この後はせっかくだから孤児たちの顔でも見にいこうか、と思ったら。
──キャッキャ! キャッキャ!
──やんややんや! やんややんや!
なんともコテコテな騒ぎ声が聞こえてきた。
「今度は何かしら」
「近づいてきてますね」
──ガチャッ!
「リーナ姉さん、久しぶりー!」
「ビアンカ! 最近顔を見せないから心配したわ」
「「「あ! ルインだー!」」」
ドアを開けて入ってきたのは"リーナの福音"のビアンカと、彼女にまとわりつくゼンら孤児たちであった。
※ ※ ※
「そう。今度のスタンピードはあなたたちが一緒に戦うのね」
「そうだよ! 改めてよろしくね! ルイン、ローグ」
「よろしく」
「こっちこそよろしく頼むぜ!」
人数が増えすぎて、応接室に入りきらなくなってしまったので、邸宅の庭を借りてみんなでバーベキューをすることに。
せっかくだから、材料を買ってきてくれた教会関係者や、近くで作業していた大工さん達も巻き込んだ。
その光景を見て、セシリアがボソッとつぶやく。
「すごい規模になっちゃっいましたね」
「うん。そういえば資金的には大丈夫なのかな?」
めちゃくちゃ食い扶持が増えましたけど……。
「それがね。教会本部からとんでもない額の予算が降りたのよ。怖いくらいだったんだけど、さっきの話を聞いて納得したわ」
エカテリーナさんが内情を語ってくれた。さぞや怖い思いをしたことだろう。
聖女と女神の使徒がいる街の教会がショボいのは、色々とマズいだろうし予算爆増については納得である。
「ウチもあまり寄進できなくて歯痒い思いをしてたから、教会が資金面で心配ないのは嬉しいな!」
「充分過ぎるほど今までたくさんもらったわよ。ありがとうビアンカ。他の子達にも伝えてね」
「リーナ姉さん……うんっ!」
ビアンカのとこのパーティーメンバーは、みんなここ出身だって言ってたもんね。ずっと気を揉んでいたに違いない。心配事が片付いてよかったね。
……その対価は俺の心配事が増えることなのだが、そこは気にしてはいけない。
俺は向かい側で肉を爆食いしてるローグに話しかける。
「ローグ。結局、街の案内出来なくてごめんね」
「んぁ? ……もぐもぐ、ゴクン。うまい肉食えたし全然構わねーぜ! 気にすんな!」
「そう言ってくれると助かるよ」
俺も目の前にある串焼き肉を1つ手に取って頬張りながら、物思いに耽る。
帰ったらみんなにも話さないとなぁ……。憂鬱だ。
……
…………
………………
杞憂だった。
教会組と別れて宿に帰還した後に、俺と関わりのある人みんなに話して回ったところ、『まぁ、ルイン(君)だからな(ね)』で全員すぐに納得した。……軽くない?
これは信頼されているのか、諦められているのか……どっちだろうね。
ともかく無駄に重い雰囲気はノーサンキューなので、ようやくホッと胸を撫で下ろすことが出来たのだった。
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