第65話 ルイン、過去最大の危機に陥る
口は災いの元です
「ただいまー」
ヴォルクスでの我が家と言っても過言ではない宿屋、『渡り鳥の止まり木』のドアを開けて無事の帰還を果たす。……この入り口のドアも懐かしく感じるぜ。
すると、来客に気づいたソフィが奥からヒョコっと顔を覗かせた。
「ルイン君っ!」
来客の正体が俺だと分かると、顔を綻ばせながら駆け寄ってくる。
「久しぶり、ソフィ。またしばらく泊まりたいんだけど、3部屋空いてるかな?」
「3部屋? ……あっ、新しいお客さんね! 『渡り鳥の止まり木』へようこそ!」
ここでやっとカトレアとローグの方に目を向けたソフィが、新たな仲間であるローグに挨拶した。
「おう! オイラはローグだ。よろしくな!」
「久しぶりね、ソフィ。……ルインのことしか目に入らなかったのかしら? ほんと一途ねぇ」
カトレアのからかい混じりの言葉に、ソフィの顔が"ボフッ!"と一瞬で真っ赤になる。
「ち、違うわよ! 1番前にいたから最初に挨拶しただけよ!」
「ふふっ。冗談よ。それで部屋は空いているの?」
「もうっ。ちょっと待っててね。今確認してくるから」
そう言い残して、彼女は奥へと引っ込んでいった。おそらく母親であるターシャに相談しにいったのだろう。それを見送ってから、ローグが口を開く。
「今の人が噂のソフィか? ルインのオンナっていう」
「言い方ァ!」
「そうよ」
「カトレアさん!?」
え、なんか俺の知らないところで、みんなの認識が深刻なところまでいっている気がするんだけど。
「気のせいよ」
「なぁんだ、気のせいか」
気のせいなら安心だ。その時、これまた懐かしい声が俺の耳に届いた。
「相変わらずだね。あんたたち」
奥からソフィが、ターシャさんを伴って戻ってきた。彼女から溢れ出る実家のカーチャン感が、一段とすごいことになっている。
「ターシャさんも久しぶりだね。それで、3部屋いけそう?」
「大丈夫だよ。今はスタンピードのせいで冒険者以外のお客さんがほとんどいないからね」
「あー、商人なんかはもう避難してるのか」
と思ったのだが、予想とは違う答えが返ってきた。
「そうじゃなくて、今のうちにスタンピード後に必要になりそうな物資を輸送したりしているのさ」
「マジかよ」
商魂逞しすぎる。負けることなんて微塵も考えていないのだろう。いいね。また1つ、この街を好きになる理由を見つけてしまった。
「ルインとカトレアは以前使ってた部屋が空いてるから、そこでいいかい?」
「「もちろん」」
俺とカトレアは即答する。どうやら俺たちは2人とも、慣れた部屋の方が落ち着くタイプのようだ。
「新顔のあんた、名前はなんだい?」
「オイラはローグだぜ」
「ローグもルイン達のパーティーメンバーなんだろ? ならルインの隣の部屋がさっき空いたばっかだから、そこに入るといいよ」
「分かったぜ!」
あっという間に話はまとまった。ここで気になっていたことを聞いてみることにする。
「ねぇ、ターシャさん。アル達は仕事中?」
「そう聞いているね。最近は街の東側に魔物が増えてるみたいだからね」
……間違いなくスタンピードの影響だね。
ギルド長ルーカスは以前『スタンピードが近い場合は、森の外まで弾き出される魔物の数が明らかに増える』と言っていた。
今の状態がまさにそうなのだろう。
「とりあえず部屋に荷物を置きにいこうか。その後は自由時間で」
「分かったわ」
「オイラは飯まで昼寝でもするぜ。ちょっと疲れちまった」
それぞれ部屋の鍵を受け取ると、ローグは一足先に自分の部屋へ行ってしまった。かなり眠そうだったから、即落ちしそうだ。
俺たちも行こうかと思ったところで、ソフィから声がかかる。
「ルイン君とカトレアは、この後はどうするの?」
俺とカトレアは顔を見合わせる。お互いに特に決めていないようだ。
「特に決めてないね」
「私も」
「なら、この後お話しない? ダンジョン都市での出来事とか色々聞きたいな。お母さん、いい?」
「今は暇だからね。構わないよ。ソフィも少し羽を伸ばすといいさね」
ソフィのお願いにターシャは快く頷いた。さすがカーチャン。懐が深い。深すぎて肉の海に溺れそうだぜ。
「ルイン、死にたいのかい?」
「ヒェッ」
習得して以来、ここまで【危機察知】が反応したことはない。フリードに反応した時よりも、激しいアラートが鳴り響いている。どうなってんだ!
「とにかく荷物置いてくるよ! すぐ戻ってくるから」
戦略的撤退じゃい!
背中に視線を感じつつも、俺は2階への階段を駆け上った。
「全くあの子は……」
「ルイン君、相変わらずだな〜」
「あんたもなんで嬉しそうなのよ……」
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食堂の一角をお借りして、3人でのお喋りに興じていると馴染みのある気配が近づいてくるのを感じた。
「久しぶりだなルイン、カトレア」
「久しぶり。元気そうでなによりだよ」
「そっちもね!」
「ホッホッホ」
懐かしの"フェザーテイル"の面々である。依頼から戻ってきたようだ。
「というか、もう夕食の時間か。だいぶ話し込んじゃったな」
「いけない! 給仕のお手伝いしに行かなきゃ!」
「ごめんなさいソフィ。楽しくてつい夢中になってしまったわ」
「ううん。私も楽しかったわ! 夕食はもう少しだけ待っててね」
そう言い残して、ソフィは小走りで給仕の支度をしに行った。
「じゃあ、今日は再会を祝おうか。近況なんかは飯食いながら話そうぜ」
「そうだね。こっちもメンバーが増えたから紹介したいし」
「へぇ! その人、今はどこにいるの!?」
「疲れてたみたいで、部屋で昼寝中だよ」
とりあえず席に着いて、夕食まで待つことにする。やがて、お腹を空かせたローグが食堂に降りてきたので"フェザーテイル"に紹介した。
ちょうどそのタイミングで夕食の用意ができたとのことで、そのままみんなでいただく事に。
「それじゃあ、俺たちの再会と"アルゴスアイズ"の新たな仲間に」
『カンパーイ!』
久々に会った仲間達と、久々に『渡り鳥の止まり木』の夕食を楽しむ。……今だけはスタンピードのことは忘れて、素直に再会を喜ぼう。
騒動を無事に終息させたら、またこんな風にみんなで食事したいね。
もちろん、今度はビルとエルルも誘って。
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