第54話 仲間を呼ぶ敵は範囲攻撃がないとめんどくさい
カトレアの【サーチ】でコボルトの集団を捕捉し、罠に気をつけつつもまるでフリスビーを追いかける犬のように一目散に向かっていって殲滅する。
コボルトからは牙や爪がちらほらドロップしたが、1つ銅貨2枚や3枚くらいの価値しかないらしい。
今日はお金稼ぎが目的ではないので、スピードを重視して放置することにした。荷物になっちゃうからね。
この殲滅作業を何度繰り返したか。いよいよマンネリ感が出てきてしまった頃、俺たちはついに次の階層への階段を発見した。
「やっと着いたね」
「なんというか……同じことを繰り返しやらされると、精神的に辛いわね」
「それな」
みんなの様子を見てみると、肉体的な疲労は全く無さそうなのに少しゲンナリしちゃってる。気持ちは分かるよ、俺もだもん。
そんな中で、意外と平気そうなのがローグだ。同じ作業の繰り返しは特に苦じゃないらしい。……日本の工場勤務とか天職なんじゃない? 彼は生まれてくる世界を間違えてしまったのかもしれない。
「オイラは別に平気だけど、この階層は冒険者達から人気ないぜ。草原エリアで狩りをするならみんな6階層を使うからな」
「それはまたなんで?」
「6階層は魔物が普通に徘徊してるし、グラスウルフも出るようになるからだな。ここみたいな作業感が無いし、なにより稼げる」
「この階層だけのクソ仕様かぁ……」
勿体ぶる必要もないから言っちゃうけど、このダンジョンにはおそらくダンジョンマスターがいる。
そして、そのダンジョンマスターは運営が下手すぎる。……1階層も中々酷かったし、この階層も適当感がすごい。まるでやる気が感じられない。
なんか、この先バランス調整とかミスってる階層が出てきそうでイヤだなぁ……。
「とりあえず降りようか」
「そうね。時間もそろそろいい時間になってきたわ。7階層まで行くなら急ぎましょう」
ダンジョンに入ってからもう8時間は経過しているだろう。そろそろ夜になる。
「みんなは疲れてない?」
「オレは問題ない」
「ボクもだぞ!」
「オイラも平気だ」
……無理してるわけじゃなさそうだね。じゃあ、続行ということで。
「了解。しんどくなってきたら早めに申告するように。降りたらまずは転移装置の解放だ」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
階段を降りて、転移装置を解放する。もはや慣れつつあるルーティーンをこなした後、6階層に向き直った俺達。
「ローグが階段までのルートを把握してるのってこの階層までだっけ?」
「おう。ていうより、この階層は迷う要素がないぜ。ほら、あれ」
彼が指差す方を見ると、遥か遠くになんとも世界樹感が漂う巨木が。……やっつけ仕事が過ぎませんかね。「とりあえずそれっぽいのを配置しました!」みたいな適当感が伺える。
「一応聞くけど、あそこに階段があるの?」
「そうだぜ」
「……そっかぁ」
「露骨にテンションが下がったわね」
仕方ないじゃん。実はめちゃくちゃ楽しみにしてたんだよ、俺。だってダンジョンだよ? 異世界転生したなら絶対に外せない場所じゃん。
なのに蓋を開けてみたら、このやる気の無さだ。もっと胸躍るダンジョン探索がしたかったんだよ俺は。草原なのに魔物が"待ち"の姿勢とか、そんなダンジョン聞いたことねーよ。
…………どうやら俺は、ダンジョンマスターに会わなければいけないようだな。
ダンジョンマスターに会って、戦いになるか話し合いで解決するかは不明だが、ここを"ちゃんとしたダンジョン"に新生させなければならない。
そして、
「僕は新世界の神となる」
「馬鹿なこと言ってないで行くわよ」
「あいよ」
カトレアに促されたので歩き出す。
まずは目の前のことからだね。
※ ※ ※
──6階層の探索開始からまもなく。
俺たちは絶賛、グラスウルフの群れに絡まれていた。
「あーっ! 鬱陶しい!」
目の前の狼を斬り捨てながら、つい叫んでしまう。
周囲には、まだ5体近くのグラスウルフが残っている。お、ローグがまた1体仕留めたな。あと4体……。
『アオォォォン!!』
遠吠えに呼応するかのように、どこからともなく新たなグラスウルフが現れ何度目かの補充がなされる。……本当にどこから来たんだよ! おかしいだろうが!
「どうするルイン! キリがないぞ! おっと、行かせん。【カバー】」
カトレアの方へ向かおうとするウルフの前に、ビルがスキルで割って入る。……フリードから俺を守った時に、俺たちの間に割って入ったのもこのスキルだね。
「まとめて一掃するならコングの時の戦法かな。カトレアっ」
「いつでもいいわよ!」
「よし、みんな避けろよ! 【ウォーターハンマー】」
いつ見ても壁にしか見えない水のハンマーが、豪快にグラスウルフの群れに突っ込む。
───ズドンッ!
『キャインッ!』
交通事故みたいな衝突音と共に、グラスウルフがまとめて吹き飛ばされる。派手に飛んではいるがダメージ自体は軽そうだ。
「【ライトニング】」
───バチバチバチィッ!!
『ギャウンッ!』
眩い閃光と共にスパーク音が響き渡る。それが収まるとプスプスと煙を上げながらフラつくグラスウルフ達の姿が。
今ので死んでないのは褒めてつかわそう。だが、
「今だ、仕留めろ!【水鏡】っ!」
「【パワースタンプ】!」
「【ソニックスラスト】!」
今までの鬱憤を全て晴らすかのように、スキル群がグラスウルフに殺到する。
『ギャアアッ!』
……それはもはや狼が出していい声じゃなくないか? ま、まあいいや。
うちの前衛アタッカー組による過剰な集中砲火で、1体残らず光へと還っていった。"アルゴスアイズ"はトドメを刺す時も全力です。
「ふぅ、みんなお疲れ。強くはないけど、ただただ面倒な敵だったね」
「いったい増援はどこから現れたのかしらね」
「オレには何もない空間から急に出てきたように見えたぞ」
「気にしたら負けだぞー!」
俺たちにとっては面倒なだけだったけど、グラスウルフの素材目当てなら効率は良さそうだね。狩り方が確立できていればの話だけど。
……なるほど、5階層は人気がない訳だ。
落ちている素材を見やりながら、そんなことを思った。
「7階層の転移装置まで行ったら、あとは帰るだけなのだろう? この素材、多少拾っていくか?」
「そうだね。そこまで嵩張る物じゃないし、今日の収入が0じゃ達成感も半減しちゃうか」
ビルに返事してから、みんなでグラスウルフがドロップした牙や毛皮を拾っていく。解体しなくていいのは楽でいいね。ダンジョン最大のメリットだと思う。
「あ、そういえばさっきオイラのレベルが上がったぜ!」
「おー、おめでとう!」
これでローグはレベル10か。どうしよう、10階層ボスいけるかな? それともレベリングがてら、もう少しダンジョンに慣らした方がいいかな。
……いや、10階層まで行ってからの話だ。焦って今決めることじゃないな。
「よし、拾い終わったね。それじゃあ先に進もうか」
今は6階層を抜けることに全力を傾けよう。




