第49話 冒険者ギルドにて
──パタンパタン
冒険者ギルド・ファランダール支部のスイングドアを軽快に開け放って入っていくのは、俺たち"アルゴスアイズ"の面々だ。
今日はしばらくこの都市を拠点に活動するという報告(冒険者は現在の活動拠点をギルドに報告する必要がある)と、ローグの加入手続きをしに来た。
その後にダンジョンの情報収集をして、行けそうならそのままダンジョンに潜ってみる予定だ。
受付まで5人で歩いていると、俺たちを見てコソコソ話が聞こえてきた。
「……おい、見ろよ。ガキばっかじゃねぇか」
「まさかダンジョンに潜る気か?」
「ってかあの癖っ毛頭、ローグじゃねぇか。……プッ! あんなガキばっかのパーティーにしか拾ってもらえなかったのかよ!」
「ハッ! ガキ同士お似合いじゃねぇか!」
『ギャハハハッ!』
……やっぱり思った通り、ここの冒険者は"質"が悪いなぁ。
というのも、ここファランダールでは冒険者ランクを上げなくても、ダンジョンに潜る実力さえあればいくらでも稼げる。
だから、国中から昇級試験で弾かれてしまうような"素行の悪い冒険者"が集まってくる。多分ここの冒険者ギルドが、一番ラノベとかで散々見てきたものに近いだろう。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用件をお伺いします」
受付に着いてすぐに受付嬢に話しかけられる。……極めて事務的というか、なんか疲れ切ってる感じだね。これは毎日ならず者系冒険者たちの相手をしているからかなぁ。
「拠点地の移転報告と、ここにいるローグのパーティー加入手続きを……」
頼むよ。と言おうとした俺の声は怒鳴り声で遮られた。
「おい、ローグ! 探したぞ!」
「っ! ……ディーン」
声のした方を見ると、いかにもチンピラっぽい冒険者が真っ赤な顔で立っていた。これは酔ってるね。
「お前、俺たちのパーティーに戻ってこい」
「は? あの女はどうしたんだよ!」
「チッ! 思い出したくもねぇ。王都を拠点にしてるっつう、いけすかねぇ野郎にあっさり乗り換えやがった!」
「はぁ!?」
まぁ、こいつの感じからして、一緒にいても先は長くないと思って切ったんだろうな。俺もその女の判断は正しいと思うよ。
「だから、今うちには斥候がいねぇ! 他の奴らは宿にいるはずだから、再加入の手続き済ませてさっさと行くぞ!」
……簡単に女に溺れた挙句にローグをあっさり捨てて、あんなドン底の生活に追い込んだ人間の態度じゃないな。それで謝りもせずに上から目線で早く戻れと?
「……俺って恵まれてたんだなぁ」
今の今まで、こんなに清々しいほどのクズは身近にいなかったのだから。……そりゃ、いるところには普通にいるよね。
反省しよう。ちょっと甘ちゃん入ってたわ。
「……オイラはっ!」
「俺たち"アルゴスアイズ"の斥候に用があるなら、まずは俺を通せよチンピラ」
2人の間に割って入る。その際に他のメンバーに目配せして、手出し無用の意を伝える。
「アァ!? んだガキィ!」
「ルインっ」
いきなり乱入してきた俺を見て、ローグの元パーティーメンバー・ディーンは赤い顔をさらに赤くして憤る。
「ローグ。何があっても俺が対処するから、ちゃんと自分の意見を言おうか」
「おっ、オイラは……」
「チッ! おいローグ! 分かってんだろうなァ!」
旗色が悪いと見たら、ローグを恫喝してゴリ押そうとするディーン。しかしローグは、睨みつけてくるチンピラを逆に睨み返して叫ぶ。
「オイラはっ…………オイラは"アルゴスアイズ"の斥候、ローグだっ!」
「このクソガキがっ! 痛い目見なきゃ分からねぇようだな!」
その瞬間、ぶちキレたディーンがローグに殴りかかった。
「させる訳ないだろ」
横から俺がディーンの腕をとって足をかけ、そのまま縦に半回転させて宙へ放った。天地が逆になった状態の彼が頭から地面に落ちる直前、
「歯ぁ食いしばれよ。舌噛むぞ」
忠告すると同時に、全力の拳を顔面に向けて振り下ろした。
──ズガァァン!
床にめり込んだ状態のディーンに、冒険者ギルド内が静まり返る。俺はディーンの胸ぐらを掴んで無理矢理膝立ちにさせてから呟いた。
「【ヒール】」
腫れ上がった顔がみるみるうちに元通りになっていく。こいつの顔に浮かんでいるのは恐怖と……疑問だ。
「なっ、なんで……ギャッ」
──ズガァァン!
再度顔面に拳が叩き込まれる。そして、
「【ヒール】」
回復してやる。この時点で、明確にギルド内が恐怖に呑み込まれた。
──ズガァァン!
……申し訳ないけど、ディーンには見せ締めになってもらう。これから先、俺たちが子供ばかりだからって、安易に絡んでくる馬鹿が現れないように。
「まだ回復は必要か?」
「ガハッ!……す、すみま、しぇんでし、た……」
大人しくなったディーンを解放して、ここまでニヤニヤしながら遠巻きに見ていた冒険者たちに向き直る。
「いくらここがダンジョン都市だからって、お前らも一応は冒険者なんだ。多少は行儀良くしろよ。あんまりはしゃいでると"こう"なるぞ。……分かったか?」
「……」
「返事が聞こえないな。……ガキばっかりのパーティーの言うことなんか聞けないか?」
「い、いや。分かった」
きちんと返事が返ってきたのを確認してから、パーティーメンバーに声をかける。
「お待たせ」
「普段との温度差が凄すぎて、風邪ひきそうだわ」
「たしかに」
「いいパンチだったぞー!」
「ルイン、サンキューな!」
それぞれのお言葉を頂戴してから、改めて受付に向かう。
「ひっ!」
……めちゃくちゃ怯えられてしまった。目の前で過剰な暴力を振るう姿を見せられたらそうなるか。これは俺だと時間がかかりそうだな。
「カトレア、任せてもいい?」
「その方がいいわね。そこ代わって」
そしてカトレアに変わった途端、受付嬢は安心したのかテキパキと手続きをし始める。それをボヘーっと眺めていた俺たちだったが、唐突に声をかけられる。
「君たちが"アルゴスアイズ"だな。一部始終は見せてもらった」
「ん?」
そちらを見ると、『女傭兵がスーツを着ました』みたいな見た目の人物が立っていた。厳密に言えばスーツではなく、この世界でのフォーマルな感じのやつだけど。
これはもしや、と思ったらエルルが先に声を上げた。
「フィアーナ! 久しぶりだぞ!」
「エルル。久しぶりだな」
どうやら知り合いらしい。フィアーナと呼ばれた女性が俺の方を向いて続ける。
「はじめまして。私はここ、ファランダール支部のギルド長をしているフィアーナだ。よろしく頼む」
「"アルゴスアイズ"のリーダーをしているルインだよ。よろしくね」
「オレはビルだ」
「エルルだぞ!」
「オイラはローグだぜ」
挨拶を交わしたところで本題へ。
「とりあえずギルド長室に行こうか。ここはギャラリーが多すぎる」
「助かるよ」
「じゃあ、あの女の子の手続きが終わったら……終わったみたいだな」
ちょうど良いタイミングでカトレアが戻ってきた。俺たちと一緒にいるフィアーナを見て首を傾げている。
「お待たせ。こちらの方は?」
「ここでギルド長をしているフィアーナだ」
カトレアに状況を説明して、みんな揃って2階のギルド長室へ。
それぞれが着席したことを確認してから、フィアーナは口を開いた。
「まずはようこそファランダールへ。君たちのことはヴォルクス支部長のルーカスから聞いているよ」
はてさて、どんなお話が聞けることやら。
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