第47話 市場の出会い
ファランダールに到着した翌日。
昨日のうちに屋台で買っておいた朝食を食べながら、本日の予定を確認する。
「俺とカトレアが食材関連の物を、ビルとエルルはこれから必要になりそうな日用雑貨を買いに行くってことでいい?」
「ええ」
「問題ないぞ」
「おー!」
異論はないようなので、ペア分けはこれで決まりだ。ちなみにこのペア分けにはちゃんと意味がある。
"アルゴスアイズ"で料理が作れるのは俺とカトレアだけなので、料理当番となる俺たちが食材担当になった。というか、ろくに調理器具が無かったのでそれ含め買わなければならないのだが、あの2人に調理器具の知識なんか無い。よってこの組み分けとなったのだ。
あの2人は仲が良いので、とりあえず組ませとけばいいやっていう安直な考えも若干あったことは認めるが。
「それじゃあ食べ終わったら行こうか」
『おー!』
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「食材はあっちの市場が良さそうだね」
「大きい市場だから、分かりやすくて助かるわね」
現在、俺たちは雑貨店で調理器具を購入し、一度家に置きに戻ってから再度食材を買いに出てきたところである。遠目からでも分かるくらいにでかい市場を確認し、そちらに歩を進める。
ごった返す人の群れの中、立ち並ぶ露天の商品のいくつかに【鑑定】をかけてみる。
「う〜ん」
「どうしたの?」
「ぶっちゃけ質が悪い」
詐欺とまでは言わないが、その質でこの値段? という商品ばかりなのだ。少なくとも、俺は絶対にこの辺りでは買い物をしたくない。
「便利ねぇ、【鑑定】。私も欲しいわ」
「これだけはアイゼンリートに感謝してるよ」
そんな話をしていると、あっという間に市場に到着した。食材の店は食材の店同士で固まっているので、あちこち移動する羽目にならずに済みそうだ。
「とりあえず【鑑定】で良さそうなのを見繕って買う形でいい? 献立は後でみんなと相談しながら決めよう」
「そうしましょう。みんなの好き嫌いもよく知らないしね」
そうと決まれば、あとは作業だ。【鑑定】しながらポイポイと食材を購入していく。さっきも言ったが、店がまとまっているからほんの10分ほどで食材の買い出しは終わった。
「とりあえずこんなもんか」
「いいのかしら? まだ2人とも片手が空いているわよ」
カトレアからの質問に答えを返す。
「両手が塞がってたら、何かあった時に咄嗟に反応できないじゃん」
「あ、そういうことね。ごめんなさい、その通りだわ」
「別に謝ることじゃないよ」
もうここに用はないので、2人揃って市場を出る。
「帰ろうか。そんで今日はもうゆっくりしよう。休養しよう」
「……そうね」
「やめてよ、変な間作ってフラグ立てようとするの」
そんなことを話していたせいだろうか、ここで事件は起こる。起こってしまう。
──ドンッ!
「すみません」
小柄な人物が俺の背中に軽くぶつかってきた。一言謝ってこの場を去ろうとしている。人がごった返しているからね。仕方ないね。今度からは気をつけるんだよ。
……なんて言うと思ったか?
「ふんっ!」
──ドゴォッ!!
「グフゥッ!」
「ルイン!?」
件の小柄な人物に、全力の腹パンを叩き込んで意識を刈り取る。倒れそうになるその人物を、片手で支えて倒れないようにする。
俺の突然の凶行に、カトレアが絶句しているので釈明する。
「落ち着けカトレア。こいつ、スリだよ」
「ルイン、あなたとうとう……。えっ、あっ!」
その人物の右手には、俺の財布が握られている。それを見てカトレアはホッとした後にキリッ、として言葉を続ける。
「私は信じてたわ、ルイン」
「うそつけ」
この瞬間、カトレアからガルフの血の波動を感じた。やっぱ奴の孫だよ、君。
儚くも消え去りそうな休養タイムを絶対に逃さないためにも、俺は大事にせずここだけで解決する気満々だった。
衛兵なんか来てみろ。聞き取りとかで詰所に連れて行かれて、貴重な1日が終わってしまうに決まっている。
「それで、この人はどうするの?」
「捨て置く」
俺は即答した。
「……まぁ、スリだしね。同情の余地はない……のかしら」
少しやり過ぎてしまったかもしれないが、人の物を盗む方が悪い。そこまで考えたところで、ようやく犯人の姿をじっくり観察する。
明るい茶髪にくせっ毛がピョンピョン跳ねている少年だ。
ん? よく見ると人族じゃなくてハーフリングだな。一応【鑑定】かけとくか。
……おや?
「じゃあ気の毒だけど、せめて道の脇に寄せておいてあげましょうか」
「いやいや! 捨て置くなんてとんでもない!」
「はい?」
「こやつは絶対に連れてゆくぞ。断じて逃してはならぬ」
俺の急な掌返しと悪役みたいなセリフに、初めは困惑していたカトレアだったが、少し考えて理解したようだ。
「斥候なのね?」
「そういうこと」
なんてラッキーなんだ。やっぱリーン様しか勝たん。
「ん?」
ふと辺りを見渡すと、周囲から注目を集めてしまっていることに気付いた。衛兵でも呼ばれると厄介だ。ここは一芝居打つことにしよう。
「ローグっ! 大丈夫か!?」
「きっとお腹が空いたんだわ! 急いで連れて帰りましょう!」
「そうだな! こりゃ早く帰って、何か食べさせてあげなきゃいけねぇや!」
カトレアも合わせてくれた。変なところでノリがいいよね。
周りのギャラリーたちも「なぁんだ空腹かぁ!」とか言いながら、散り散りに去って行く。へっ、ちょろいぜ。
「よし、カトレア。ずらかるぞ」
「了解よ」
こうしてハーフリングの少年ローグを連れ去ることに成功した。
……小柄な少年に腹パンかまして気絶させ、肩に担いで連れ帰る。やってることは、完全にただの人攫いである。
なお、休養タイムがまたもや完全に消え失せたことに気付くのは、夜ベッドに入った後のことだった。
市場の出会い(腹パン)




