第46話 ファランダール到着
第5章、始まります!
準備期間がおよそ半日しかなかったので、ドッタンバッタン大忙しの挨拶回りや買い出しを済ませた俺たちだったが、予定通りリアラさんと初対面を果たした翌日に出発した。
そして、ヴォルクスを発ってからおよそ4日。
道中の宿場町で宿に泊まったり、その辺で狩った獲物でバーベキューしたりしながら進んできた俺達は、ついにダンジョン都市ファランダールへとたどり着いた。
なお、ヴォルクスとダンジョン都市を結ぶ公共馬車なんてものも実はあるのだが、うちの熊さんがちょっと場所を取りすぎて他のお客さんにご迷惑をかけてしまうので遠慮することに。徒歩で来た。
……それでも馬車で来るより、余裕で早いんですけどね。これが冒険者ってもんよ。
頑丈そうな石造りの外壁に備わった立派な門の前で、街に入るための列に並ぶ。
しばらく雑談しながら待っていると、やがて順番がやってきた。
「身分を証明できるものを見せてくれ」
「いいですとも!」
「……」
カトレアから「また始まった……」みたいなジト目で見られつつ、冒険者カードを提示する。
「ほう。その歳でCランクとは驚いた。ファランダールにはダンジョン目当てか?」
「そうだよ」
「聞くまでもなかったな。よし、あんたの連れの分も確認した。通っていいぞ」
「仕事が早いね。ありがとう」
ささっと入場チェックを済ませて門をくぐろ。
『お〜!』
ヴォルクスとはまた違った街並みに、みんな揃って感嘆の声を上げる。
なんていうのかな。ヴォルクスが整然とした綺麗な街って感じだとしたら、こっちは雑多で活気溢れる感じ。そこかしこに露店が出てるし、人口密度もめちゃくちゃ高い。
「こりゃ、はぐれないように気をつけないとね」
念の為、注意を促しておく。
「そうね。エルルとビルは……大丈夫そうね」
「おー! ボクは大丈夫だぞ!」
「エルルはオレが見ておこう」
すでに2人は金太郎フォームになっていた。たしかにこれなら安心だ。
「それでルイン。これからどうするの?」
「まずはリアラさんから借りる家に行こうか。荷物も置きたいし、今後の方針も相談したい」
そう。実はリアラさん、この街にダンジョンアタックのための拠点を持っているのだ。今回俺たちはその邸宅を、1軒丸ごとお借りすることになった。
荷物を抱えたままこんな人の多い場所をうろつきたくないし、先にそちらへ向かうことにする。
「場所はボクが知ってるぞ! 前に来たことがあるからなー!」
「オレがエルルに教えてもらって先を行こう。2人はついてきてくれ」
「おっけー。よろしく」
ということで、熊さんが人の群れをかき分けてくれるので、快適に進むことができた。そして、エルルナビに導かれるままに到着した家は……。
「デカいけど……なんか酒臭くない?」
外見はキレイめな2階建ての邸宅で、部屋数も十分足りてそうで嬉しい。嬉しいんだけど、それを補って余りあるほどに酒臭い。匂いだけで酔いそうだ。
「おー! お母ちゃんが帰ってくるまで使ってた家だからなー! たんと飲んでたんだろーな!」
「そんな可愛いレベルか? リアラさんがこの家出たのって、最低でも1週間以上は前じゃん。匂いがこんなに残ることある?」
「しこたま飲んだに違いないぞ!」
「えぇ……」
とにかくここで考えててもしょうがない。
「とりあえず換気と掃除をしよう。話はそれからだ」
「賛成よ。貸してくれるリアラさんには申し訳ないけど、ちょっと今のままじゃ住みたくないもの」
「ボクはちっとも気にならないぞ!」
「……」
ビルが黙っているので、不思議に思い顔を伺うと真っ青になっていた。あー、獣人族って他の種族よりも鼻がいいもんね。そりゃキツいか。
「急ごう。このままじゃビルの命の灯火が消えてしまう」
「大げさ……とも言い切れないわね。分かったわ」
こうして俺たちは、この都市での住処を手に入れるために大掃除へと取り掛かった。
─2時間後─
「ふぅ、こんなところか」
「そうね。匂いもそこまで気にならなくなったわ」
……それ、ただ単に鼻が慣れてしまっただけなのでは。いや、よそう。そんなこと言い出したらキリがなくなる。
「よーし、それぞれ滞在中に使う部屋を決めたらリビングに集合だ」
『おー!』
この家は2階部分がいくつもの個室になっていて、共用設備は1階に全て詰め込まれている。なので、メンバー全員が2階をうろついて自分のプライベートスペースの確保に走る。
部屋の数は謎にたくさんあったので、一応マナーというかエチケットというか。男子部屋と女子部屋は離れて使うようにした。
「っと、俺も荷解きとか色々やっちゃおう」
今夜寝れる状態にはしておきたいので、俺もあくせくと働くことにした。
※ ※ ※
「本日の議題はもちろんダンジョンアタックについてなんだけど」
あれやこれやがようやく片付き、やっとのことで話し合いを始められるところまできた。もう既に疲れてしまったが、これだけでも話しておかなければ。
「ダンジョンって、もちろん罠とかあるよね?」
「あるわね」
「あるぞ」
「おー!」
満場一致の回答が返ってくる。これは予想通りだ。
「この中で罠の発見、及び解除ができる人いる?」
「できないわ」
「オレも無理だな」
「お……無理だぞ!」
これも予想通りだね。エルルが若干「おー!」って言いかけたけど、踏みとどまった。
「つまり、斥候がいるね?」
「いるわね」
「いるな」
「おー!」
認識の共有ができたところで、どうするかを話し合おう。
「"アルゴスアイズ"に加入してくれそうな斥候に心当たりがある人〜!」
『……』
ですよね〜。
「仕方ない。とりあえず明日は手分けして、この都市での生活に必要な物の買い出しに行こう。そんで、その次の日にでもギルドで良い人材を探してみよう」
「見つかるかしら?」
「望み薄だろうね。だから、その時は最終手段だ」
あまりやりたくないが、どうしても斥候職が見つからない場合は奥の手を使う。
「最終手段? なにかアテがあるのかしら」
「ダンジョンにいる斥候から罠関連のスキルを"盗む"」
『あ〜』
みんな「その手があったか」みたいな顔をする。
……でもなぁ。スキルを持っておくのは別にいいんだけど、俺が斥候の真似事にかかりっきりになるような状況は避けたいんだよなぁ。
なので、どうしてもやらざるを得なくなるまでは足掻きたいと思います。
「今日のところはこんなもんでいいかな。明日は買い出しが終わったら休養しよう。……ヴォルクスからの長旅で、疲れも溜まってるだろうしね」
「……」
カトレアが微妙な顔で俺を見る。
「……なんでしょう」
「あなたがそう言うと、絶対に休養はとれなくなるんだろうなって……」
…………あ〜あ! やってるね、カトレアさん! それはだいぶやってるわ!
「俺も言ってから『しまった!』って思ったけど流したのに! ヒョイって拾っちゃったよ! 口に出したらダメなやつ言っちゃったよ!」
「ご、ごめんなさい。でも……きっと大丈夫よ、ね?」
「優しい目だ! 出会ってから1番優しい目してる! しかも何が大丈夫なのか全然分からないし! 適当なこと言ってさっさと話終わらせようとしてる!」
ギャースギャース騒ぎながら、ファランダール初日の夜は更けていく。
眠りにつく直前、明日はちゃんと休養がとれますようにと切に願った。願ったのだが、願った先が女神リーン様だったことが吉と出るか凶と出るか。
それは翌日判明することになる。




