第45話 修行に欠かせないテンプレスポットといえば?
昨日は伯爵へ報告しに行ったりしていたので、村からの帰還後に全然休めていなかった俺は、ワガママを言って1日お休みをもらった。
……もらったのに。
宿の食堂で、ちょっと遅い朝ごはんをもしゃもしゃ食べていた俺は、朝から襲来したエルルに無慈悲な一言を告げられた。
「は? エルルの母ちゃんが呼んでる?」
「おー! お母ちゃんがみんなを連れて来いって言ってるぞー!」
「……」
たしかに会いたいとは思ってたけど、今じゃないんだよなぁ……。
俺のお休み……終わっちゃった。
「…………準備してくるから、ちょっと待っててね」
エルルに呼ばれてこの場に同席しているカトレアから、割とガチめに憐れみの視線を向けられつつ、外出準備をしに一旦部屋へ戻った。
そして、身支度を整えながらふと思う。
「エルルの母ちゃんかぁ。いったい何の用なんだろ」
というより、そもそもどんな人なんだろうか。
……以前『アマゾネスみたいな人だったりして』とか失礼なこと考えちゃったんですけど。
ラノベとかでありがちな、超直感的なナニカでそれがバレたんじゃないだろうな。
戦々恐々としながらも準備が完了した俺は、1階で待つ2人と合流を果たす。
「お待たせ」
「おー! じゃあ行くぞー!」
「ビルとは現地集合だそうよ」
「ビルの宿、エルルの家のそばだもんなぁ」
一瞬でお別れすることになってしまった休日に、後ろ髪を引かれる思いが無い訳ではないが、いつまでもくよくよしてはいられない。
俺たちはゴルドフ鍛冶屋にて待つ、エルルの母ちゃんに会いに『渡り鳥の止まり木』を後にした。
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そんなこんなで鍛冶屋の前まで行くと、デッカい熊さんが既に待ち構えていた。軽く挨拶を交わした後、揃って店内へ足を踏み入れる。
「ちわーす」
「キチンと挨拶もできんガキは帰…」
ゴルドフと恒例になりつつある、無駄なやりとりが始まろうとした瞬間。第三者の声が割って入った。
「おい、アタイの客だぞ」
「す、すまん! こいつが「俺が来たときはお願いだからこうしてください」って、土下座しながら泣いて頼むもんだから仕方なくっ!」
おい。流れるように嘘つくな。
「黙れ。アンタの戯言は聞き飽きてるんだよ。アタイの前でふざけた事をほざくと、どうなるかは分かってるはずだろう?」
「……」
ゴルドフをいとも容易く黙らせた。このエルルそっくりの女傑こそが母ちゃんだろう。……いいぞ、もっとやれ!
「すまなかったね。ここはバカがいるから落ち着かないだろう? 奥で話そうか」
「はい姐さん」
なんでも、奥に応接室があるらしい。ゴルドフの性格的に全く使ってないらしいが。俺たちはエルルの母ちゃんの後を、カルガモの子供達のようについていった。
※ ※ ※
「さて、自己紹介といこうか。アタイはエルルの母親で、Aランク冒険者のリアラだ」
実はさっき見た瞬間、フリード級の強者の雰囲気を彼女から感じた。
なのでAランクと言われて、納得はあっても驚きはない。
改めてリアラさんを見る。
赤茶色のロングヘアで、鋭いつり目が印象的な女性である。体型はやっぱりロリで、エルルと並ぶと姉妹みたいだ。
続けて俺たちも自己紹介をして、さっそく本題に入ることにする。
……1日丸ごと休むのは諦めたが、俺にはまだ半休という可能性が残されているのだ。手早く済ませよう。
「それでリアラさんは、なんで俺たちを呼んだの?」
「エルルに聞いたんだが、お前ら『炎剣のフリード』とやり合ったんだってな」
昨日俺が伯爵に報告しにいっている間に、カトレア達もエルルに話してきたみたいだから、そこから聞いたのだろう。
「その戦闘の様子を詳しく教えな」
Aランクの先達から助言がもらえるかもしれないのだ。喜んで話そうじゃないか。
……かくかくしかじか。
「なるほどねぇ。あんた達には悪いが、母親としてはエルルがその場にいなくて良かったよ」
「でしょうね」
「……お母ちゃん」
俺は共感。エルルは複雑な表情を浮かべる。
「しかも、ルインは名前まで覚えられたんだろう? また戦いになる可能性は十分考えられる」
「……でしょうね」
「だから今のまま、エルルをあんたらのパーティーに参加させておくのは少し怖い」
リアラさんの表情から、これは単純にエルルをパーティーから抜けさせろって話じゃないだろうな。となると、
「もしかして良い修行場でも紹介してくれる、とかですか?」
リアラさんが驚きに目を瞠る。
「へぇ、大したもんだ。この子に聞いてはいたけど、アンタ本当に察しがいいんだねぇ」
リアラさんがエルルの頭を撫でながら言う。エルルは目を細めて気持ちよさそうだ。……とても微笑ましい光景なんだけど、エルルって今年で21歳なんだよなぁ。
「御明察だ。ヴォルクスの西門を出て、南西に馬車で1週間ほどの距離にある都市のことは知っているかい?」
「ええ」
もちろん知っている。いつか絶対に行こうと思っていた場所だ。
異世界ものには絶対に欠かせないテンプレ・オブ・テンプレ。
それは、
「『ダンジョン都市ファランダール』ですね」
そう。言わずと知れた、あのダンジョンである。
リアラさんはニヤリと笑って俺たちを見渡し、そして言った。
「"アルゴスアイズ"には、しばらくダンジョン都市で生活してもらう。とにかくダンジョンに潜ってレベルを上げてきな」
……おっと、嫌な予感がしてきたぞ。
「えーっと、いつからで?」
「こういうのは早い方がいいだろう? 出発は明日だ。住む場所はアタイが提供するから、今泊まってる宿の手続きや持っていく物の準備、あとは挨拶回りなんかも今日のうちに済ませときな」
「アッハイ」
予感的中。この瞬間、俺の半休も消えてなくなった。世の中って残酷だね。
「私、この前の戦いではほとんど何もできなかったもの! 必ず強くなってみせるわ!」
「オレも次こそは、あの攻撃を防いでみせるぞ!」
「ボクもだぞ!」
あかん、みんな今までで一番やる気が迸ってる! 俺のお休みが完全に消滅したことなんて、頭の片隅にも残っちゃいない。
もう今更、お休みをくださいなんて俺にはとても言えない。……えぇい! もうどうにでもな〜れ!
「よーし! みんなで強くなって、次に会ったら『炎剣のフリード』を絶対にボコボコのボコにするぞ!」
『おー!』
(……俺の休日を奪った恨みは必ず返すぞフリード! 貴様だけは何があっても絶対に許さんからなぁ!)
憎しみの全てをフリードに向けることによって、心の安寧を取り戻した俺は、早速ダンジョン都市『ファランダール』へ向かう準備に取り掛かるのであった。
……人、これを逆恨みという。
第4章はここまでとなります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
第5章公開日に登場人物紹介も投稿しますので、
よろしければそちらもご覧ください。
今後とも『その転生者はスキルも魔法も【視て盗む】〜異世界転生ものが大好きな男の異世界転生〜』をお楽しみいただければ幸いです。




