第41話 "炎"との邂逅
再び宿の食堂にて、作戦会議を開催する。
"フェザーテイル"は本日の成果はなく、完全な空振りだったそうなので、俺たちの報告がメインとなる。
……こっちが当たりっぽいから、アル達が空振りなのは当然か。
「嫌な予感がした?」
「うん。かなりヤバい気がする」
報告が終わった後、例の直感で感じたことをこの場のみんなに伝えた。
「だから村に帰ってきた時、少し様子がおかしかったんだな」
「ビル、よく見てるね」
観察眼が鋭いメンバーがいるのは頼もしい。
ここで、少し考え込んでいたアルが、自分のパーティーメンバーに意見を求める。
「ガルフ、どう思う?」
「そうじゃな……。ルイン坊がそう感じたということは、"何か"は確実にあるじゃろうな。相当な危険があると思った方がよかろう」
「同感だ。だが、現時点ではそれだけしか分かっていないんだ。ここで退く選択肢は俺たちにはない」
「そうじゃな」
「警戒しながら調査するしかないわね!」
まぁ、そうなるよね。
だって「ヤバい気がしたので撤退しました」なんてことになったら、信頼ガタ落ちってレベルじゃないもん。下手したら、もう2度と依頼を任せてもらえないだろう。
「とにかく明日は俺たちも同行する。気を引き締めていこう」
「分かった。よろしくね」
手持ちの情報が少なすぎて、結局俺たちに出来ることは『気をつけて行きましょう』くらいしかないんだよなぁ。
「他に何かあるか? …………無いようだな。じゃあ今日はもう休もう。ルインはちゃんと歯磨いて寝ろよ。解散」
「無理やり保護者ムーブ挟むのやめろって!」
なんだそのストロングスタイルは! 終始真面目な空気だったのに、突然くるからビックリしちゃったよ。
最後に場の空気が若干柔らかくなったところで、各々部屋に戻って就寝することにした。
明けて翌朝。
俺たちは6人揃って森の入り口までやってきた。
「準備はいいな? 先頭はテレーゼとビル。中衛に俺とルイン。後衛はガルフとカトレアだ。適宜、探知を頼むぞ」
「うむ」
「分かってるわ」
全員が問題ないことを確認し、アルは号令を下す。。
「よし、行こう。カトレアが記してくれたポイントまでは、飛ばしていくぞ」
こうして俺たちは、昨日に続き2度目の調査を開始した。
※ ※ ※
「ここよ」
「了解! ここからはアタシに任せなさい!」
戦闘を回避しつつ、昼前には目標地点へ到着した俺たち。ここからは頼れる犬耳お姉さんことテレーゼの出番だ。
「クンクン。……人間の匂いがするわね。昨日から雨も降ってないから、ちゃんと追えそうよ!」
「でかした」
「さすがテレーゼ!」
「えへん!」
アルと俺からの賞賛に、テレーゼは渾身のドヤ顔だ。
「こっちよ! 着いてきて!」
「これ、待たんか。【サーチ】……うむ、問題はなさそうじゃな」
「ここからは慎重に行こう。ルイン達もいいな」
「うん。分かってるよ」
その会話を最後に、匂いを辿るテレーゼの後を、周囲を警戒しながら着いていく。右へ左へと、複雑な道程を進むこと3時間ほど。ある変化に気づいた。
「なんか寒くなってきてない?」
つい俺の口を突いて出たのは、明らかに下がってきている気温のことだった。隣を進むアルがすぐに答えをくれる。
「おそらく、もう山脈が近い。……探知魔法頼めるか?」
「私がやるわ」
ここまで交互に探知魔法を使っていた祖父と孫。今回は孫の順番のようだ。
「【サーチ】………っ! 範囲ギリギリの場所に、かなりの人数がいるわ! 多分、範囲外にはもっといるわよ」
「本当か!?」
ガルフもカトレアも、【サーチ】の範囲は同じく半径約1km。ってことは、そこが山の麓で、抜け道がある場所と見ていいだろう。
「アル、どうする?」
「……そうだな。今もお前の嫌な予感とやらはするか?」
「する」
ビンビンに感じる。これ、多分予感じゃないよなぁと思ってステータスを確認したら【危機察知】が生えてた。パッシブスキルらしい。
「……遠目で実際の抜け道とやらを確認して、すぐに引き返そう。俺たちの独断でどうにかできる範疇を超えてる」
このアルの決断に、反対する者は誰もいない。
そして、今までよりもさらに警戒しながら進んでいくと、やがて森の終わりが見えてきた。斥候を務めているテレーゼが、片手を上げて後続を止めると小声で言う。
「きっとあそこね」
「あれは……軍事基地かっ?」
大きな声こそ出さないが、この場の全員が目を瞠る。さらに、俺が気づいたことを報告する。
「みんな、見て。多分あれが"抜け道"だ」
『っ!?』
今度こそ驚愕に包まれた。
大規模な山の崩落か何かによって生まれた谷に、立派な道が出来ている。さらに、その道を塞ぐかのように、砦のようなものを建設している。
土魔法使いを大量に投入でもしたのか。かなり大掛かりな工事であることが窺える。
驚きから真っ先に立ち直ったアルと俺が、小声で会話する。
「……7年もおとなしかった訳だ。山脈に道を通して砦を造っていたなんてな」
「まだ未完成で助かったね。内側が見える」
「帝国軍人が大体200ってとこか」
少なく見積もって、だな。実際はもっといそうだ。
「確認はできたね。早く戻ろう。ここにいればいるだけ、リスクが上がる」
「そうだな。お前ら、戻るぞ」
気を取り直した面々を引き連れて、来た道を戻ろうとする俺たち。最後に振り返って、建設中の砦と抜け道の姿を脳裏に焼き付けようとした瞬間。
ソレと"目が合った"
「っ!? ヤバい! バレてるっ!」
俺の余裕を失くした声に、アルがすぐさま反応する。
「走れっ! 追手がくるぞ!」
さすがは冒険者。言葉が終わる前に行動してる。だが走り出す直前、俺の"眼"は砦から飛び出す男の姿をしっかりと捉えていた。
必死に足を動かすが、背後から迫るプレッシャーの方が、はるかに速い。……まずいな。これは追いつかれる。
頭をよぎったその考えは、すぐさま的中する。
「覗き見とは、王国の人間はどうやら品性がないらしい」
「コソコソ不法侵入する犯罪国家よりはあると思うぞ」
「フッ、それを言われると弱いな」
まるで"炎"そのものだ。
必死に心を落ち着かせて、現れた男を観察する。
身長は185cmくらいか。燃えるような赤い髪を後ろで束ね、背中に流している。その瞳も真紅にギラつき、背負っている大剣は赤黒い。
一見、優男風に見えるが、間違いなく今まで出会った中で1番の強者だな。
出会い頭に軽口を交わしてみたが、一瞬たりとも気を抜くことはできない。
ピリピリとした緊張感が高まる中、ガルフがついにその名を呼んだ。
「……『炎剣のフリード』」
間違いない。
ずっと感じていた『イヤな予感』の正体はこいつだ。




