第40話 アルセイン帝国への抜け道を探せ
本日2話目の更新です。
まだお読みになられていない方は、先に前話をご覧ください。
前世の事は軽く触れるに留めたが、この世界に転生した件についての説明が終わった。
「『転生者』、ねぇ」
「信じてクレメンス」
「……まさに今この瞬間、急速に信じる気が失せていったのだけど」
「すみません」
ちょっとお茶目すると、すぐにカトレアに怒られる。この女の子は、冗談があまりお好きではないようだ。
「オレは信じるぞ。正直言って、ルインは人族の12歳にしては、色々と突出しすぎている。むしろ腑に落ちたぞ」
「ビルさん……」
つい敬意を込めて『さん』付けで呼んでしまった。
「まぁでも、ルインが転生者だからって、私たちにはあまり関係ないわよね。その有用性が分かる人間でもない限り、「ふーん」で終わる話よ」
「オレも同意見だ。だが、その『有用性が分かる人間』がどこに潜んでいるか分からんからな。可能な限りは伏せておけ」
ビルの言葉に、俺は素直に頷く。
「肝に銘じておくよ」
この話の着地点はこんなところだろうか。
「【視て盗む】に関しては、特に言うことは無いわね。ルインの手札が増える分には、私たちにはメリットしかないもの。【鑑定】が使えるというのは、思わぬ収穫だったけど」
「戦う前から相手の能力が分かるのは、ある意味ズルだもんな」
その有用性はアイゼンリート戦で実感した。
ともあれ、
「俺が今日のうちに話しておきたかった事は、これで全部だね。2人からはなにかある?」
「今は思いつかないわね」
「オレもだ」
ないようなので、お開きにしますか。
「じゃあ今度こそ解散しようか。疲れてる中、ありがとね」
そう言うと、2人は微笑んでくれた。
カトレアさん、多少は俺のおふざけもそうやって微笑んで許してくれればいいのになぁ。
ビルの笑顔は、うん。鮭を見つけた熊って、こんな感じなのかな。
明日も早いので、自分の部屋へ戻るカトレアを見送ってから、パパッと就寝準備に入る。
「おやすみなさい」
ベッドに潜り込んだ俺は、ヴォルクスからの旅路で疲れていたのもあって、あっという間に眠りに落ちた。
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翌日、村から続く森の入り口前で、アルが最後の確認を行う。
「じゃあ、昨日の打ち合わせ通りに二手に別れよう。いいか、無理だけは絶対にするなよ」
『了解』
「じゃあ行こう」
そして俺たちは別れて、森への進入を開始した。東寄りに進路を取りつつ、俺は2人に告げる。
「この辺りは魔物もいないし、さっさと抜けよう。俺が未踏のエリアに入ったらカトレアは探知魔法を頼むね」
「分かったわ」
「一応、軽く痕跡を探しながら進もうか。そんな簡単には見つからないだろうけど」
「うむ」
入り口付近はさっさと駆け抜ける。痕跡を探すのも大事だけど、目的は例の抜け道の発見だからね。間違えてはいけない。
しばらく森を駆け抜ける俺たち。心なしか緑も深まってきた気がする。
……この辺りかな。
「2人とも、ストップ。この辺りからは俺も初見だ」
「うむ。……にしても、ルインは1人でここまで来てたのか? 結構深い場所だぞ」
「この辺まで来ないと、魔物がいなかったんだよ。って言っても、ここもゴブリンとか角ウサギくらいしかいないけど」
村側の森はかなり安全なのだ。だからボアが出た時は大騒ぎだった訳で。
「カトレア、探知魔法を」
「了解よ。【サーチ】」
魔法を発動した瞬間、微弱な魔力の波動がカトレアを中心に、円形に広がっていった。
「遠くに弱い魔物の気配はあるけど、人の気配はないわね」
「それは重畳。戦闘は出来るだけ避けよう。もし帝国人がいた場合、戦闘音を聞かれる。とにかく目標の発見が最優先だ」
「うむ。それがいいだろう」
ここからは少し、周囲を注意深く観察しながら進むことになる。
帰り道を見失わないように目印を残したり簡易的なマッピングも行いつつ、ある程度進んだらまたカトレアに探知魔法を使ってもらう。この繰り返しだ。
さぁ、本格的に抜け道探しを始めよう。
……
…………
………………
森に入ってから、どのくらいの時間が経過しただろうか。
しばらく森を行くと、徐々に強い魔物の反応も増えてきた。さらに慎重に、戦闘を回避できるルートを選択する。
地味に神経をすり減らす探索を、休憩を何度か挟みつつ進めていくこと半日ほど。
……かなり奥深くまで来たな。位置的にはそろそろ森の入り口と山脈の中間辺りかな? ふと、再度【サーチ】を使おうとするカトレアへ問いかける。
「カトレア、魔力は大丈夫か?」
結構な回数を使用してきたので、魔力は持つのか聞いたのだが。
「ナメないでくれる?」
その一言が返ってきた。……やだ、かっこいい。
「また心の中でふざけた事を考えてるわね、まったく。【サーチ】」
また魔物の気配があるだけだろうと考えていた俺たちに、緊張が走ったのはその時だった。
「……人がいるわ。2人ね」
「東側だったかぁ」
まさかの、探索初日からの大当たりである。
「とりあえず地図を貸してくれるかしら。反応があった辺りにチェック入れておくわ」
「助かるよ」
手早く地図に書き込むカトレア。……うん、ここまでのルートもきちんと確保できてるね。
「それで、どっちに向かってる?」
「山脈方面ね」
となると多分抜け道に向かってるな。さて、どうしようかね。
悩む俺にビルが問う。
「それで、俺たちはこれからどうする? 追うか、"フェザーテイル"に合流するか」
「そうだなぁ」
現時点では、こちら側が一方的に相手を認識している圧倒的有利な状況だ。特に退く理由はないように思える。
なら、
「お……」
『追おう』と言いかけた瞬間、俺の直感がその言葉を止めた。
……とてつもなく嫌な予感がする。
今までに感じたことがないほどの危機感に襲われた俺は、真逆のことを口にした。
「一旦戻ろう。"フェザーテイル"と合流してことに当たった方がいい気がする」
「それもそうね。無理をする必要はないもの」
「オレも賛成だ。帰りも気を抜かずに行こう」
3人で頷き合い、来た道を引き返していく。もちろん索敵は忘れないが、痕跡探しの手間がない分、随分早く村まで帰還することが出来た。
森を出て気が抜けたのか。その時になってようやく、自分の背中が汗でびっしょり濡れていることに気づいた。
「まだ"フェザーテイル"は戻っていないみたいね。彼らが戻るまで宿でひと休みしましょう」
「そうだな。……ルイン、どうした?」
「みんな揃ってから話すよ。俺も少し休みたい」
「分かった。後で聞こう」
そう言って、俺たち3人は宿への道を歩き出した。
……あの『とてつもなく嫌な予感』が一体なんだったのかを俺たちが知るのは、その翌日のことだった。
次回、"炎"との邂逅




