第36話 スタンピードの気配は仄かに
ヴォルクスへと帰還した俺たちは、その足でギルドへと向かった。
「討伐証明部位のフォレストコングの尻尾3本。たしかに確認しました。これにて依頼は完了となります」
受付カウンターにて、アンナさんに依頼完了を告げられる。報酬は等分に割ったものを、それぞれのギルドカードへ振り込んでもらうようにお願いした。
そして、
「アンナさん、ちょっと気になったことがあるんだけど……」
「はい、なんでしょうか?」
この前のゴブリン依頼の件も含めて、東の森の様子が少しおかしい事を伝える。加えて、一応ギルド長ルーカスに報告しておいた方がいいという事も。
少し考える素振りを見せた彼女は、
「少々お待ちいただけますか」
と言って、少し早足で2階へと上がって行った。
……このパターンもよく知ってますね。ギルド長室で直接説明することになるやつでしょ。流れで妙なことを頼まれなきゃいいなぁ。
ややあって、アンナさんが戻ってくるなりこう言った。
「みなさん、お待たせして申し訳ありません。ギルド長が直接お話を伺いたいとのことです」
ほらね。
※ ※ ※
「なるほど。話は分かった。よく報告してくれたな」
部屋に入るなり中央のソファへ着席を促され、"アルゴスアイズ"を代表して俺が事情を説明した。……今までこういうのは全部アルがやってたから、ちょっと不思議な感じだったよ。
そして俺は、ついにこの話の核心を突くワードを口にする。
「あると思う? スタンピード」
そう、最初に違和感がうんたら言い始めた時点で、異世界転生ものに詳しい人なら絶対思ったはず。『どうせこれ、スタンピードの兆候なんだろ?』って。
眉間に皺を寄せるギルド長は、少し考えた後に口を開いた。
「俺の勘は『ある』と言っている。だが、多分すぐじゃないな。そこまで大きな兆候はまだ出てない」
「というと?」
「せいぜいが森の奥に生息する魔物が、外側の浅部に少し押し出されている程度だ。スタンピードが近い場合は、森の外まで弾き出される魔物の数が明らかに増える」
「なるほど」
じゃあ、別に俺たちが報告しなくても、いずれは分かったってことね。
……よかった。気づかないうちに、街がピンチに陥ってるとかにはならなそうで。
「とはいえ、早期の発見は調査に割ける時間が大幅に増えるんだ。これは大きいぞ。お手柄だ」
「素直に受け取っておくよ」
「そうしろ。予想されるスタンピードの規模や、核となるボス魔物の種類や強さ等、欲しい情報はいくらでもある。時間はいくらあっても足りないくらいなんだからな」
……そう言われればその通りだ。時間というものは、何物にも代え難い唯一無二の武器になる。たしかにこれを稼げたと考えたら大手柄か。
「調査はそっち方面に強いパーティーに任せよう。お前たちは普段通りに過ごしてくれていいぞ」
「そりゃ良かった」
ほんとに良かったよ。大抵ここでお使いクエストが発生したりするもん。身構えてたけど、取り越し苦労で済みそうだ。
「話は以上だ。下がっていいぞ」
「了解」
思いの外あっさりと、ギルド長室を後にすることができたのであった。
1階の広間まで戻った俺たちは、この後どうするかを相談する。
「この後どうする? って言っても時間的に微妙だなぁ」
「そうね。今日は少し早いけど、解散でいいんじゃないかしら」
俺の発言に、カトレアから解散の提案。ビルとエルルは、
「オレ達の初めての依頼なんだ。最初から無理する必要もないだろう」
「おー! 帰って鍛治するぞ!」
ということで、このまま解散の流れとなった。
ビルの泊まっている宿は、ゴルドフの鍛冶屋の近くにあるらしく、マサカリ担いだ金太郎状態で2人は帰って行った。エルルのはマサカリじゃなくてハンマーだけど。
……にしてもあの2人、目立ちすぎである。通行人がみんな2度見してるじゃん。
「さて」
「私たちも帰りましょうか」
俺とカトレアは同じ宿なので、一緒に帰路に着く。
賑わう大通りを歩きながら、雑談タイムが始まった。
「良かったわね。すぐにスタンピードが発生する訳じゃなさそうで」
「それな。時間的な猶予があるのは、大きなアドバンテージだ」
万全の準備を整えられれば、それだけこちらの被害を減らせるのだから。
「そうね。新しい情報が入るまでは、普段通りの生活を送りましょう」
「異議な……し」
なぜかこの瞬間、ふと依頼出発前の広場でのことを思い出した。……ここで思い出しちゃったかぁ。
「……送れるといいね。普段通りの生活ってやつをさ」
「ちょっと、やめなさいよ。あなたがそう言うと、本当に何か起こりそうじゃない」
心の底から嫌そうな顔をするカトレア。
だがテンプレとフラグは、俺たちを決して逃さないようにできているのである。
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「「ただいまー」」
『渡り鳥の止まり木』のドアを開けて颯爽と帰宅……
「ルイン殿、ちょうど良いところに」
「……こんにちは、グレースさん」
した俺の足と表情はそこで固まった。
グレースさんがここにいて、「ちょうど良いところに」とか言い出しちゃったら、これはもう役満なんだよ……。
「今日はまた、どうしてここに?」
なんであれ聞かねばなるまいて。様式美は大事だからね。古事記にもそう書いてある。
はたして、予想通りにグレースさんはこう言った。
「ご当主様が本日、王都より帰還されてな。明日、"フェザーテイル"とルイン殿は領主館へ来て欲しいとのことだ。急な話で大変申し訳なく思うが、了承いただけまいか」
ですよねー。
やはり俺は、ゆとりある生活を送ることができないらしい。そろそろ連続でイベント開催するのやめません? リーン様。もしや『虚無期間』と言う言葉をご存知でない?
……しかし、ここで黙っていても事態は解決しない。
覚悟を決めた俺は、グレースさんに元気よく返事した。
「ハイ! よろこんで!」
ギルド長ルーカスは、映画『コマンドー』のシュワちゃんのイメージです。




