第31話 野盗の正体
「……納得したわ。言われてみれば、どうして今まで疑問に思わなかったのかしらね」
「昇級試験の度に都合よく未討伐の野盗が出るわけがない、か。道理だな」
カトレアとビルは神妙な顔をしている。エルルはあんま変わらんな。多分、すでに俺と似たような心構えなんだろう。
「それを踏まえて、試験を続行するか考えたほうがいいぞ」
3人のメンタルを心配し、忠告しておく。
「なんで悩む必要があるんだー?」
ここで、今まで黙っていたエルルから声が上がった。
「結局やることは一緒だろー? 相手はどっちみち悪人なんだから、考える必要あるかー?」
「ま、そういうことよね。相手が善良な一般市民でした、とかなら辞退も視野に入れるけど、現時点で退く理由はないわね」
「同じく」
……3人を少し見くびっていた。曲がりなりにもCランクになろうという人間なんだ。
認識を改めよう。
正しく、こいつらは『仲間』だ。たとえこの試験中だけの関係であったとしても。
「それじゃあ、今度こそ行こうか」
3人揃って頷きを返してくれる。
俺たち一向は、ビルを先頭に目的の洞窟へ歩みを進めるのだった。
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あれから数度の戦闘はあったが、おおよその予定通りに行程は進んだ。
そして、
「……あれだな。ルイン、見えるか?」
遠目で洞窟を確認したビルが、小声で俺に聞いてくる。
「ちょっと待って。……当たりだ。入口の少し先に人がいる」
「さっき少し聞いたけど、あなた本当に目が良いのね」
「……」
カトレアが驚きを浮かべた目で見てくる。エルルは喋ると大声になるのでお口にチャック中です。ドワーフは声がでかい、これも教科書に載ってるね。
「うぅむ……。問題は何人いるかだが」
「待って。今探知魔法を使うわ」
ビルの問いにカトレアが答える。
「ちょっと待って。……え? カトレアさん、探知魔法使えるの?」
「なんで急に『さん』付けなのよ。使えるわよ。お祖父ちゃんに教わったもの」
「そいつぁすげ〜や」
先に言ってくれよ! また探知魔法盗み損ねたじゃねーか!
「なんでここまで使わなかったんだよ……」
「使ってたわよ? 道中で敵がいるのを教えてたの、私じゃない」
「……言われてみれば」
なんか探知魔法とは、ご縁がない気がしてきたな。遠くから敵の存在が分かるようになれば、これからの冒険が格段に安全になるのに……。
女神リーン様から『リスクを楽しめ』とでも言われてるのかな?
いやだよ、そんな死にゲーみたいなスローガン掲げるの。そういうのは生き返れる保証がある方達でやってください。
「終わったわよ。ルインが見た奴を除いて中に6人ね」
気付いたらカトレアが既に索敵を終えていた。早いっすね。
「……合計7人か」
「どうするルイン」
「魔法も奥までは届かないわよ?」
「……」
3人に判断を委ねられる。エルルはお口チャック中なので無言だが。
っていっても実質1択なんだよな。この状況だと。
「正面突破だな。こっちには斥候も弓使いもいないんだ。下手なマネしてやらかすより、こっちのタイミングで仕掛けた方が良い」
「うむ。異論はない」
「私もないわ」
「……」
本議題は満場一致で可決した。
それじゃあ、ここから先はスピード勝負で行きますかね。
※ ※ ※
洞窟入り口から中を伺うと、先ほど遠目で見た人物は既に奥へ引っ込んだようだった。……見張りくらいちゃんとしろよ。
「ここで1人減らしておきたかったけど」
俺の呟きをビルが拾う。
「誤差っちゃ誤差だがな。このまま行くか?」
「当然。先頭は任せた」
「おう」
そのやりとりを最後に、足早に洞窟を奥へと進む。
さほどの時間もかからずに、完全武装の7人が待つ広場へたどり着いた。
「来やがったぞ! ……っ! あのガキは!」
「あの時の小僧じゃねぇか!」
「なんでここに!?」
俺を見て驚く男達。
俺もお前らには見覚えがあるよ。あのスラムの邸宅にいた奴らだ。セレナ様の1件、忘れてねーぞ。
「やっぱあいつらは野盗じゃない。以前、別の依頼で顔を見たことがある。罪状は伏せるが、間違いなく犯罪者だ」
「ルインの予想が合ってたわけね」
「野盗の正体は『捕まった罪人』か。公開処刑以外の刑の執行がどうなっているかなんて、庶民は知らないからな」
「……」
身も蓋もない言い方をすれば『犯罪者の有効活用』といったところか。
これが表沙汰になったら、騒ぐ人は絶対に現れるだろうなぁ。俺もコレはちょっとどうかと思うもん。
にしても俺がこいつらを見ればすぐに分かる事なのに、なんであの時すっとぼけたんだ、ギルド長は。
試されてた? 何を? ……いや、今はこいつらだ。
気を取り直して指示を出す。
「想定通り乱戦だ。孤立するなよ? 小回りが効く俺がカトレアに付く。ビルとエルルはコボルト戦同様にやれ」
「「「了解!」」」
「ナメられっぱなしで終われるか! あのガキだけでも絶対に殺せぇ!」
『おぉぉぉ!』
向こうも準備はできているようだ。今のうちに【鑑定】する。人数が多いので詳細は割愛で。
レベルは全員10にも届いてない、今更苦戦する要素はなさそうだ。
……めぼしいスキルもないな。あいつの魔法だけ貰うか。
うまいこと位置どりを調整して、ターゲットの男がエルルの間合いから遠ざかるようにする。
「じゃあやろうか。【ウィンドカッター】」
安心と信頼の『初手ウィンドカッター』である。まずは数を減らす。
「え」
何か言おうとした男の首が胴体とお別れした。と同時にそちらに気を取られて唖然としている別の男へと駆け出す。
一足で間合いに飛び込み相手の剣を巻き上げ、上空に弾き飛ばしてから心臓を貫く。
横目でビル達の方を確認すると、
「フンッ! 効かんなぁ!」
「どっセーい!」
ドッカンドッカン派手にやっているので大丈夫そうだ。
「よそ見してんじゃねぇ!」
「【サンダーアロー】っ!」
「ぐぁあ!」
カトレアからのナイス援護。これで試験のノルマは達成かな。……なんだ、1人くらい狼狽えたり吐いたりするかなと思ったけど、このメンツは大丈夫そうだね。
残るは例の魔法持ちのみ。もう一か八か、使うしかないよなぁ?
「クソがっ! 【ウォーターハンマー】!」
きた。目の前にどデカい水の壁が発生し、急速に迫ってくる。
……え、壁? 思ったより範囲がでかい! ハンマーの面積じゃないだろソレ! やっべ。
「【突進】っ!」
真横に向けて【突進】で緊急回避。
習得した時は「どうすんのコレ」と思ったけど、このスキル大活躍である。なかなかやるじょのいこ。
それよりも、
「お返しだ。【ウォーターハンマー】」
「は? ぶっ!」
間の抜けた声を上げ、俺の【ウォーターハンマー】を真正面からくらった男は、地面と水平に吹き飛ばされる。
凄まじい音を立てて洞窟の壁に激突、そのまま動かなくなった。
「ふぅ、これで終わりだな」
一息つくとカトレアが近寄ってきた。
「お疲れさま。すごいスキルね。1度見れば使えるようになるのかしら? あなたが回復魔法を使えるのも『そういう事』なんでしょ?」
「うん。色々制限はあるけどね」
「ふ〜ん」
なんか目が怖いよ、君。
結局ツンデレじゃないっぽいし、どういうことだってばよ。
「おー! もう喋って良いだろ? お疲れー!」
「……あ、お疲れエルル」
……そういやお口チャックの解除令、出すの忘れてたわ。ごめんよエルル。
「ルイン、この後はどうすれば良いんだ?」
ビルに聞かれたけど、俺にもそれは分からん。なので奴を召喚する。
「いるんだろ、ギルド長! これで試験は終了って事で良いのか?」
呼びかけると、洞窟入り口側の通路からガチムチ男が現れる。
「うむ、試験は終了だ。後始末はギルドの人間がするから心配しなくていい。後はこのままギルドに戻って、結果を言い渡すだけだ」
という事らしい。
ここでいきなり別行動を始めるほど、意味不明な人物はこの場にはいないので、仲良く街まで帰還することに。
終わってみればアッサリとしたものだったが、ちょっとだけ大人の世界の闇を垣間見た気がする試験であった。
5/10 21:00に本日2話目となる第32話を投稿します




