第28話 昇級試験の準備をしよう
「ごめんくださ〜い!」
翌日の昼過ぎ、新たな魔法の習得を企む俺はリーン教会へと足を運んだ。
「あら、ルインさん。リーン教会へようこそ」
「こんにちは、エカテリーナさん」
「ふふ、こんにちは。今日はどうしたのかしら?」
「以前、お約束した礼拝に来ました。こちらをどうぞ」
そう言って寄進を手渡す。
「まあ! ありがとう。正直助かるわ。教会本部からの支援も結構ギリギリだから……」
「子供たちにひもじい思いをさせたくありませんからね」
「本当にその通りね。さすがセレナが見込んんだ人だわ」
おっと、話の流れがおかしな方にいきそうだ。
「とりあえず、お祈りをさせてもらいますね」
「ごゆっくりどうぞ」
許可をとり、礼拝堂の奥にある女神像の前へ進み跪く。細かい作法なんかは知らないので、ひとまず両手を胸の前で組み祈りを捧げよう。
……どのくらいそうしていただろうか。祈りを終え立ち上がると、ふと女神像と目が合った気がした。
女神リーンを象ったその像は、かすかに優しく微笑んでいるように、俺には見えたのだった。
※ ※ ※
「はい、お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
場所は変わって、ここは前回来た時に孤児のゼン達が出てきた、ドアの先にある応接室だ。綺麗に掃除され、手入れも行き届いている。
「セレナから聞いたわよ。この近くで大変なことが起こっていたのね」
「そうですね。セレナ様が無事で良かったですよ」
いや、本当に。
「あなたに助けられた時のことを話すあの子は、とても嬉しそうだったわよ?」
「それも無事に今を迎えられたからこそ、ですね」
この後もエカテリーナさんと雑談に興じる。
共通の話題といったらセレナ様のことくらいしかないので、その話題の比率が高くなってしまったのはご愛嬌ということで。
話し始めて小一時間が経過した頃、1人の孤児が部屋に駆け込んできた。
「うわ〜ん! シスター!」
この前の3人組の子だな。確かロイドだっけ。
「ロイド、どうしたの? ……あら、膝を擦りむいてるわね。転んじゃったのかしら。こっちへいらっしゃい」
「グスッ」
泣きながらトコトコ歩いてくるロイド。
「ごめんなさいルインさん。少し待っていてもらえるかしら」
「もちろんです。ロイドを見てあげてください」
「ありがとう」
そう言いながら、エカテリーナさんはロイドの前で屈み込む。
そして、膝に手を添えるようにして魔法を行使した。
「【ヒール】」
淡い光がロイドの膝を優しく包み込み、それが消え去った時には傷はもうどこにも見当たらなかった。
……一部始終を見ていた俺は、魔法を習得した手応えを感じる。
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ルイン
レベル11
魔法
【点火】【氷の盾】【ウィンドカッター】【ヒール】←NEW
スキル
【視て盗む】【魔力操作】【突進】【剣術】【槍術】【気配察知】【身体強化】【水鏡】【鑑定】
称号:転生者 格上キラー
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これが本日の目的、『回復魔法』だ。
今までは運よく無傷で切り抜けることができていたが、これからはきっとそうもいかなくなるだろう。
もしくは、俺が無傷でも周りの人が傷つくことだって十二分に考えられる。だから回復手段をこのタイミングで確保しておきたかったのだ。
教会は治癒院の代わりをすることもあるから、必ず回復魔法使いが1人は常駐している。
この小さな教会にはエカテリーナさん1人しかいないため、確定で回復魔法が使えると思った訳である。
……問題はどうやって使ってもらうかだったんだけど。最悪自傷するしかないかなぁ、と思い始めた時に、ロイドがタイミングよく来てくれたのだった。
「ありがとうシスター!」
「お外で遊ぶ時は気をつけるのよ」
「うん!」
傷が癒えたロイドは、先ほど泣いていたのが嘘のように、元気いっぱいに去っていった。
「待たせてしまってごめんなさいね」
「いえ、気にしないでください」
ともあれ目的は果たした。だいぶ居座っちゃったし、お暇しますかね。
「結構長くお邪魔しちゃいましたし、そろそろ行きますね」
「あら、気を使わせてしまったかしら。またいつでも来てね」
「そうさせてもらいます。ではまた」
挨拶を済ませ、入り口まで見送ってくれるエカテリーナさんに手を振りながら、俺は教会を後にした。
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さて、教会を後にした俺が向かった先はというと。
「……」
ガチャ
「礼儀も知らんガキは帰れ!」
バタン!
このやりとりでお分かりだろう。
『ゴルドフ鍛冶屋』である。
「どうしろっつーんだよ!」
この前、挨拶しながら入った時もダメだったじゃねーか!
……あれ? 『お邪魔します』だからダメだったのか? 普通に『こんにちわ』とかなら大丈夫なのかな? やってみよう。
「こんにちわー」
「それでよい」
いいんだ……。それにしても、なんてめんどくさい店なんだ。他にいい鍛冶屋はないか探しとこう。今度は癖が強いドワーフ以外がやってる店がいいな。
「剣の研ぎを頼む」
「見せてみろ」
「ほれ」
ゴルドフに剣を渡すと、じっくりと観察を始めた。
ややあって、
「ふむ、これなら軽くでよさそうだな。お前の使い方が良いんだろう」
「それは嬉しいね」
珍しく素直に誉められる。なんだよ、やればできるじょのいこ。
「少し待ってろ」
剣を研ぎに奥へ引っ込むゴルドフと入れ違いに、娘のエルルがソワソワしながらやってきた。あ、俺に気付いた。
「ルインだ! 今日はどうしたんだ?」
「ゴルドフに剣の研ぎを頼みに。エルルこそどったの? 落ち着かないにも程があるんだけど」
「明後日に昇級試験があってな! ボクも受けるんだ!」
俺以外の受験者3名のうち、1名が判明した瞬間だった。
「エルルだったのか。Cランクのだよな? 俺も受験者だよ」
「ほんとか! 知ってる人がいて良かったぞ!」
「ちなみに、後の2人のことって知ってる?」
「知らないぞ!」
ま、どうせ当日になったら会うんだしいっか。
「エルルの武器って手に持ってるそのハンマー?」
「そうだぞ!」
なんか今日はデカいハンマー持ってるから、気になってたんだよね。シティーハ○ターで、ヒロインが主人公を殴る時に使うやつみたいなの。
「これで前衛が2人か」
まさか、全員前衛とかはないよね?
嫌な未来を想像しかけたタイミングで、ゴルドフが戻ってきた。
「ほれ。出来たぞ。しばらくは自分で手入れするだけで大丈夫だとは思うが、心配なら見せに来い」
「分かった」
とりあえず、昇級試験の準備はこんなもんかな? あとは消耗品を買うくらいか。
「じゃあ帰るよ。エルル、試験ではよろしくね」
「こっちこそだぞ!」
ゴルドフの店を出た時には、空がもう茜色に染まり始めていた。『渡り鳥の止まり木』へ向けて歩き出す。
さて、初めての昇級試験はどうなることやら。




