第26話 これは間違いなくゴルドフの娘だわ
俺に対する死へのカウントダウンが始まってしまったことは、一旦記憶の奥底に封印し、俺とソフィはゴルドフの鍛冶屋へ到着した。
「いらっしゃいませー!」
入口のドアを開けると、野太いオッサンの声とは程遠い、元気な女の子の声が聞こえてきた。
声がした方を見ると、赤茶色のボブカットをした、少し褐色肌のロリっ娘がそこにいた。
(ドワーフ然としたがっしり系か、ロリかの2択だろうとは思ってたけど、後者だったか)
「久しぶりねエルル」
「おー! 久しぶりだぞソフィ! 元気だったか?」
「私は変わりないわ。あなたは?」
「ボクもだぞ!」
軽く挨拶を済ませると、エルルがこちらをチラチラ見ながらソフィに尋ねる。
「この人はソフィのカレシか?」
「ちっ、違うわよっ! この人はうちの宿に泊まってるお客さんで……」
俺の紹介と、2人でここに来た経緯を説明する。
「あの剣のお客さんだったかー! それならそうと早く言えー!」
「あ、これはたしかにゴルドフの娘だわ」
ゴーイングマイウェイ感がそっくりだよ、あんたら。
「それでゴルドフはどうしたの? あいつも腰をやったか?」
「やっとらんわ!」
あ、いた。奥の作業場の方から出てきた。
「店の窓から、おまえさん達が来るのが見えたからな。コイツを取りに行ってたんだ」
そう言って差し出されたのは、シンプルながら丁寧な仕事で鍛造されたことが一目で分かる片手剣だった。
鞘から少しだけ抜いてみる。
うん、すごく綺麗な黒っぽい金属で出来ていることしか分からないわ。
そうだ、【鑑定】
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黒鋼の剣
特殊な加工を施した鋼で作られた剣
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「ほう。これは、鋼にドワーフ秘伝の特殊な加工を施した黒鋼かな」
「鍛治師なら誰でも知ってる加工法だ。知ったかぶるでないわ小僧」
「……」
ごめんて。
「ところで試し斬りって出来る?」
「なっ、短気すぎるだろお前! ちょっと指摘されただけで人を斬るな!」
ゴルドフがまるで、得体の知れない化け物を見るかのように俺を見る。
「ちげーよ! なんだその心外すぎる解釈は! 純粋にこの剣の切れ味が知りたいだけだよ!」
「始めからちゃんとそう言わんか! まったく驚かせおって! 今度変なこと言ったらぶっ飛ばすぞ!」
「……もうやだこいつ」
そのタイミングで、今までガールズトークに興じていたエルルがこっちに来た。
「そういうことなら、こっちに試し斬りスペースがあるぞ!」
「……うん、ありがとう」
落ち着ける場所で1人でゆっくり試し斬りしようかなと思い始めたところで、退路を塞がれた。なんでこのタイミングで来ちゃうかなぁ……。
ここで「やっぱ他所でやるんでいいっすわ」なんて俺には言えない。
※ ※ ※
ドワーフ親子に案内されて店の裏手に回り込むと、広いスペースに巻き藁で出来たカカシが立てられていた。
「あれは斬ってしまってかまわんぞ」
「了解」
ゴルドフの許しが出たところで、剣を鞘から抜く。
「うん、いいね。握りもしっくりくる」
まずは順手で持って軽く素振りする。
斬り下ろし、斬り上げ、斜め斬りから突きへ繋げて斬り払いへ。
次は逆手に持って、我流の型を行う。
最後は全て織り交ぜ、高速で剣を振るう。まるで舞うように。
「おー! やるなアイツ!」
「剣舞か。見たことのない動きだが、中々あの歳で出来ることではないな」
「……キレイ」
じゃあそろそろカカシで切れ味を……。
「なあなあ! ソフィはルインが好きなのかー?」
「ちょっ、いきなりなによ!」
「だって顔が赤いぞー?」
「き、気のせいっ! きっと暑いからよ!」
……少し静かにしてもろて。あのゴルドフですら、気まずそうな顔しちゃってるじゃん。
気を取り直して、集中だ集中。
「……ふっ!」
一閃。
周りの3人からは、剣がカカシを『すり抜けた』ように見えた。まるで斬った際の抵抗を感じさせることがない、極めて自然な一振りだった。
全員が見入ってしまい、しばしの間流れた静寂を破ったのは、ゴルドフのたった一言。
「……お見事」
そこでようやく、この場の時間は、再び流れ始めたのであった。
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「じゃーなー! また会おうなー!」
店先でブンブン手を振って見送ってくれるエルルに手を振り返しながら、俺とソフィは帰路に着く。
「今度一緒に依頼受けようなー!」
ん?
「あれ、ルイン君知らなかった? エルルは冒険者なのよ」
「言えよ! 最後の最後にぶっ込んでくるのやめろって!」
知ってたら、もっと色々な話が聞けたでしょうが。
「あはは。でも、さっきのルイン君カッコよかったわよ!」
「ありがとう。文句なしの良い剣を打ってくれたゴルドフに感謝だな」
「そんな簡単に流されると、なんだかなぁ……」
ずっとモニョモニョ言っているソフィを、なんとか宥めて『渡り鳥の止まり木』に帰ってくると。
「ただいまー!」
「おかえりソフィ。デートだったんだって?」
「なんでお母さんが知ってるの!? ていうか、デートじゃないからっ!」
情報源は奴しかいない。
キョロキョロと少し見回すと、奴はすぐに見つかった。
"フェザーテイル"の他の2人も一緒にいる。
近づいていって、まずは一言。
「アルくんさぁ。ほんとそういうとこだぞ」
「やる事が子供みたいよアンタ!」
注意するとテレーゼからも援護射撃が。
別に悪いとまでは言わないが、人の行動を声高に周囲に触れて回るのは、少しお行儀が悪い。
「……すまん。酒が入って口が軽くなっちまってた」
「反省してるなら俺はもういいよ。後でソフィにも言っときなよ?」
「分かってる。悪かったな」
とりあえずこんなとこか。
「そろそろ夕食の時間だ。せっかくだし一緒に食べよう」
「おう」
「ルインは着替えてらっしゃい!」
「階段で転ばないように気を付けるんじゃぞ」
ガルフだけ言っていることが保護者なんだけど、まぁいっか。
※ ※ ※
「おや? ソフィ、その髪飾りはどうしたんだい?」
「えっ、えっと」
その表情を見ただけで、ターシャは察したのか
「良かったね。大事にするんだよ」
とだけ言った。
「うんっ!」
笑顔で返事をしたソフィの髪には、決して枯れない青い花が輝いていた。




