第23話 少女が見た英雄の背中は
さて、じゃあまずは"やり返し"ますか。
【鑑定】、と。
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アイゼンリート
レベル 26
魔法:なし
スキル:【鑑定】【気配察知】【気配遮断】【短剣術】【身体強化】【不意打ち】【急所突き】
称号:暗殺者
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スキル構成は称号がまんま代弁してくれてるな。
「ッ! これは……お前っ!?」
おっと、速攻でバレた。やっぱあの不快感は感じるようだ。
それよりも、レベルの割に意外とスキルが少ない?
スキルって、本来はそうポンポン生えてくるものじゃないのか?
………スキルや魔法については分からない事が多すぎるな。いつか、ちゃんと調べたり検証したりしないと。……したところで、結局よく分からんってなる気がするが。
「なぜお前が【鑑定】を! ……その【視て盗む】というスキルかっ!」
「さぁな。言う訳ねぇだろクソやろう」
「おまっ! このガキ……っ!」
先ほど言われたセリフを、少し変えて返してやる。
こうかはバツグンだ! 額の血管がナ○ック星人みたいになっている。
さて、今の俺はレベル10。アイゼンリートなる黒フードはレベル26だ。その差は2倍以上である。
普通に考えたら絶望的なのだが。
実はこの世界のレベルは、ゲームとかでよくある『レベル差でダメージがほぼ入らなくなる』ような理不尽な壁は生まない。
いくらレベルアップを重ねて、超人じみた動きができるようになっても、防御力に関してはぶっちゃけそこまで変わらないのだ。
人に斬りかかったら剣の方が折れました……なんてことはまず起こらない。魔物には弾かれまくるけど。
なので、レベルよりもその人の運動神経。前世で言う『プレイヤースキル』が最重要という訳だ。
長々と話したが、言いたいことはこのひとつ。
『斬れば勝てる』
「ジャイアントキリングがしやすい、親切設計で助かるね」
脱力状態から、一瞬で意識を切り替える。
(……相手の手持ちスキルから、考えられる行動を予測しろ)
【不意打ち】は、おそらく認識外からの攻撃成功時に威力上昇。
【急所突き】は、急所に一撃もらわなければ問題ないと思われる。
(なんだかんだ言っても、相手はかなりの格上なんだ。舐めてかかるなよ、俺!)
「ハッ!」
手に持つ短剣で、速さ重視の斬りかかり。
まずは『意表をついた一撃を』と思ったけど、これは正面から普通に防がれた。
相手の得物は、ダガーの二刀流。
その両方に【短剣術】のパッシブバフは乗っているだろうな。
「ルイン。レベルは10。……なら力とスピードはこんなもんだろうよ」
「……」
「後は、スキルが多いなお前。それも【視て盗む】のおかげか?」
「……」
鍔迫り合いしている間に、ペラペラじゃべる黒フード。答える訳ないだろ。
数秒の膠着から、力任せに弾き飛ばされる。
「最後に………『転生者』? なんだそりゃ。そんな称号聞いたことがないが……」
「…………」
「とことんダンマリかよ。まぁいい。テメェもついでに連れて行くぞ」
「お前じゃ無理だろ」
「ハッ! やっと喋ったと思ったら、つまらねぇ強がりかよ!」
もういいよ。少し話しただけだけど、分かった。
こいつは人を傷つけたり、子供を攫うのに良心の呵責は1ミリもない。「任務だから」でなんでもやるタイプ。
その手にかけた人数も決して少なくないだろう。
この感じなら『やむを得ない事情があって〜』とかの線も特になさそうだ。あっても容赦する気はこれっぽっちもないが。称号が暗殺者だし。
「……助かるよ」
「あぁ?」
「お前を殺すのに、ためらう理由が無くて」
捕まえた方がいいんだろうけど、どうせ喋らないだろう。
自害されるならまだいい。だが万が一、逃げられでもしたら最悪だ。こいつは俺が【鑑定】を使えることや転生者だってことを知ってしまった。
ルミウム王国に潜入している他のスパイを、持ってる称号次第では見ただけで暴けてしまうかもしれないんだ。
こいつの陣営アルセイン帝国は、確実に今後俺を排除しようとするだろう。
もし転生者がどういう存在か知っている者がいるとしたら、俺の持つ『知識』も狙われるかもしれない。
…………生かして帰す訳にはいかなくなってしまった。
「【ウィンドカッター】」
まずは牽制の風魔法を相手の背中側から放つ。
「チッ!」
すぐさま反応したアイゼンリートが両手に持つダガーで、振り向きざまに切り払う。
背中を向けた一瞬をついて、
「【突進】」
急加速で突きを放つ。さっきの初撃のスピードを想定している相手は反応が一拍遅れる。
「小賢しいっ!」
が、それでもダガーで防がれる。これがレベル差による速さの違いだ。
『崩し』を入れないと、まずまともに攻撃が当たらない。
こっちの手札も敵の鑑定でバレているため、奇策も余程のことがなければ通らないだろう。
鑑定持ちが敵だと、こんなにも厄介だとは。
ならここからは、この7年間で培った地力で勝負!
こちとら努力で【剣術】を生やした身ぞ? できらぁ!
「……っふ!」
「おっ?」
【剣術】はパッシブ。剣を持った際の動きが、スキルなしの時と比べて段違いに良くなる常時バフスキルだ。そこにアクティブスキルを重ねる。
「【身体強化】」
もう1段階ギアが上がった俺が連撃を仕掛ける。
「ほぉ。真っ向勝負か? 面白い! 【身体強化】っ!」
俺の短剣と奴のダガーが超高速で幾度もぶつかり合い、空中に激しい火花を散らす。
先ほどよりは若干余裕がなくなったようだが、お互いに【身体強化】を発動したので、これだけじゃ条件は同じ。
だが、
(もっといける。まだまだ上がる)
動体視力《俺の武器》を限界を超えて酷使し、2倍以上ものレベル差を埋める。剣戟を交わすのではなく、剣撃を躱して反撃で返す。
……きた。完全に『ゾーン』に入った感覚。相手のダガーがより一層よく見える。
そこから数度に渡る攻防で……今度こそアイゼンリートから余裕の色が消えた。
「チッ! 意外とやるじゃないかクソガキィ!」
激しい死線の中で、俺の"眼"が違和感を捉えた。……これは暗器だな。さりげない動作で、極めて自然に2本の棒手裏剣を投げてくる。
「なめんな」
この程度の速度なら余裕で追える。
1本は短剣の柄で弾き、もう1本は空いている片手で掴み取り、投げ返す。
「はぁっ!?」
さすがにこれは予想外だったらしい。
慌ててダガーで弾きながら、一旦距離をとろうとバックステップを
「【氷の盾】」
させない。
アイゼンリートの足下の地面に、緩いドーム型に【氷の盾】を設置する。
奴はそれをまともに踏み、滑って派手に転がった。チャンス。
すかさず追撃に移ろうと前に出るが、
「っざけんな!」
と叫びながら懐に手を入れ、何かを取り出し地面に思い切り叩きつけた。
瞬間。
……激しい煙がこの場を覆い尽くした。
(煙幕か………なら狙いは……)
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「……ルイン様」
黒いフードの男とルイン様が戦い始めてしばらく。
男が急に地面に転がった! きっとチャンスだわ!
と思ったのも束の間。
男が何かを地面に叩きつけると、あっという間に周りが見えなくなるほどの煙が広がった。
「ルイン様っ!」
ルイン様の姿を探しながら声を上げると、
「悪いなお嬢様。ルイン様じゃなくてよ」
「!?」
気づけば黒いフードの男の声が近くから聞こえた。
「こんなところでリスクを冒す理由もねぇ。悪いが、お前には人質になってもらうぜ」
「ひっ!」
…
……
………
…………こわい。帰りたい。
ここに連れて来られてから、ずっとそう考えていた。
(どうして私はこんな目に遭っているんだろう)
悲しい気持ちがぐるぐるして、何度も泣きそうになった。
お父様に会いたい。お母様に会いたい。お兄様にお姉様。グレースやエカテ姉様も。……大切な人たちに会いたい。
それに、なにより。
(……ルイン様に、会いたい)
7年前にお話を聞いた時から、なぜか気になっていた男の子。
実際にワイバーンに剣を振るう背中を見た時は、身体に電気が走ったみたいだった。
(また、会いたいなぁ)
……そうだ。会いたいなら、諦めちゃダメ。
彼にまた会うまで、絶対に諦めない!
……そう決意した直後、あっさりと願いは成就した。
当のルイン様本人が助けに来てくれたのだ。
(まさか、ルイン様が直接来てくれるなんて…っ!)
嬉しさやいろんな感情がごちゃごちゃになって、泣いてしまったけれど。
もう不安も恐怖も、きれいさっぱりなくなっていた。
私をここに連れてきた黒いフードの男が現れた時も、立ち向かうルイン様のその背中は心の底から『もう大丈夫なんだ』という、絶対的な安心感を与えてくれて。
だから。
これっぽっちも疑っていない。
きっと今、この時も。
「ルイン様! 助けてくださいっ!」
声を上げた瞬間、大好きな背中が目の前に現れる。
「まかせろ」
ほら。聞こえたっ!
やっぱり応えてくれたっ。
……私の『英雄』が!
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「ルイン様! 助けてくださいっ!」
セレナ様の声が聞こえる。もうすぐそこだ。
「まかせろ」
セレナ様を背後に隠しながら言う。
……煙幕を張った瞬間に理解したよ。
『こいつ、逃げやがった』と。
この手の輩は少しでも自分が不利になると、すぐに安全策に逃げやがる。
……子供を人質に、とか。それはもう救いようがねぇよ、アイゼンリート。
煙が晴れる前に終わらせよう。
「最後までまともにやってたら、普通にお前が勝ってたかもしれないのにな」
「あぁ!? 何言ってやがる!」
煙の中から"遺言"が聞こえた。
自分が張った煙幕で、剣筋もまともに見えないだろ?
「さよなら、アイゼンリート。……【水鏡】」
俺が持つ最高火力が、真一文字に振り抜かれる。
手応え……あり。
この世界から、またひとつの命が零れ落ちた。




