第24話 激動の1日の終わり
煙が晴れると、そこには物言わぬアイゼンリートが倒れていた。
「………」
念の為、その死亡を確認した後にセレナ様の元へ。
「セレナ様、大丈夫でしたか?」
「…っ! ルイン様っ!」
「うおっ!」
ガバッ! と擬音が聞こえるくらい勢いよく抱きつかれた。
「ありがとうございます…! まさか……まさかルイン様が来てくださるなんて……っ!」
「ご無事でなによりです。みんな心配してましたよ」
「……ルイン様も、ですか?」
上目遣いで聞いてくる。
「もちろん」
「……えへへ」
胸に顔を埋め、ぐりぐりしてくる。うん、可愛いんだけど……今はそれより。
「あの〜、そろそろ戻らないと。上の様子が心配なんですが」
「あっ! すみません!」
セレナ様が、はっとした表情で俺から離れる。
手を差し出しながら言う。
「行きましょう」
「はいっ!」
2人で地上へ向かおうとすると、階段から誰かが降りてきた。
その人物に向かって俺は愚痴る。
「よりによって、一番強いのに抜かれたな」
「うっ……すまん」
はたして現れたのは、気まずそうな顔をしたアルだった。
「言い訳を聞こうか」
「逆に、一番の手練れだったから止められなくて……」
「言い訳なんか聞きたくない!」
「……えぇ」
とまぁ、冗談はほどほどにしとこう。セレナ様がキョトンとしていらっしゃるからね。
「ともかく無事で良かったよ、アル」
「お前もな」
頭をぐりぐり撫でられる。
とそこで、さらに上からすごい勢いで降りてくる影が。
「お嬢様ぁぁっ!」
「グレース!」
抱き合う2人。お互いに涙を流して無事を喜び合っている。
(……あぁ。良かった)
アルとグレースがここにいるってことは、もう上も片付いたのだろう。
あとはセレナ様を領主館まで連れて行けば依頼は完了だ。
後始末は全部、伯爵家がやるだろう。
ご令嬢と護衛騎士が落ち着くのを待ってから、上にいる2人と合流。少し離れた場所から見張っていた伯爵家の騎士に後のことを任せて、ようやくこの邸宅を後にした。
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「本当にありがとうっ! ダグラム伯爵家はこの恩を忘れないと誓おう!」
領主の館にて、ガーランド様とセレナ様を引き合わせた後の応接室。
ようやく少し落ち着いてきた館内の雰囲気の中で、情報の共有を行う。といっても現時点で分かっている事はそう多くないが。
「敵の首魁は『アイゼンリート』という者か。名前の響きからして、やはりアルセイン帝国が裏で糸を引いていると見て間違いないだろうね」
「そうでしょうね」
前回と同じく、アルが応対する。
「……ふむ」
少し思考に耽るガーランド伯爵だったが、やがて考えがまとまったのかポツポツと話し始める。
「……王都に報告をあげないといけないね。私が直接行くことになるだろう」
「お父様。私は……」
「分かっているよセレナ。向こうも1度失敗した以上、何か仕掛けるにしてもヴォルクスでやるのは慎重にならざるを得ないだろう。むしろ帝国に近い分、今は領都にいる方が怖い」
話の行く末を察し始めたセレナの顔が明るくなる。
「王都での話し合いがどうなるかも、まだ不明だからね。少なくとも、私が戻るまではセレナはこの街にいてもらう。いいね?」
「はいっ!」
「良かったですね。お嬢様」
セレナの気持ちを察しているグレースは、彼女を暖かく見守っている。
「ルイン君も、セレナのことをよろしく頼むよ」
「は、はい。分かりました(言ってることと表情が違うんですがそれは)」
セレナの気持ちを察している伯爵は、ルインを冷たく睨みつけている。
「これからどう行動するにしても、まずは捕まえた賊どもの尋問が終わってからになる。君たちには、また依頼をすることになるかもしれないから、もし遠出する場合は一応知らせてくれると助かる」
「承知しました」
ひとまず、今日のところはここまでのようだ。自然と解散の流れになる。
「門番には話を通しておくよ。何かあったら言伝を頼む。……では、改めて礼を言うよ。今回は本当に世話になったね」
「あ、ありがとうございました!」
「私からも礼を。お嬢様を救ってくれてありがとう」
3者それぞれのお礼の言葉で、本日の話し合いは締め括られた。
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「あー、さすがに疲れたな」
もうクタクタだよ俺は。
「そうね! ルインはよく頑張ったわ!」
「つかマジでよく勝てたなお前。アイゼンリートだっけ? 多分、俺たちと同等クラスの相手だったろ」
全員帰る先は『渡り鳥の止まり木』なので、ぞろぞろと連れ立って雑談交じりに夜道を歩く。
「自滅だよ。ちょっと反撃されそうになったら、速攻で煙幕張ってセレナ様を人質にしようとしたから、煙に紛れて斬った」
「そいつクズすぎるだろ」
ほんとにね。
「それにしても、煙の中でよく相手の位置がわかったのぅ」
ガルフからの問いに対する答えは簡単だ。
「【気配察知】をずっと使ってたからね。あいつの【気配遮断】のせいで、かなり分かりにくかったけど……まぁでも、それ以前に」
そう。単純な話だ。
「煙の流れ方で、居場所はずっと丸わかりだったよ」
言った途端、3人に揃ってドン引きされた。
「眼が良いって、言ってたわねそう言えば」
「それで片付けられるレベルじゃないと思うんだが」
「……ほっほっほ」
なんか微妙な空気になってしまったので、話を切り上げよう。
「いいから、早く帰って寝ようよ。何か話すなら明日だ、明日」
「そうだな」
疲れてるのは本当だしね。さっさと帰ろう。
…
……
………
ともあれ、今回の事件はこれで一応の終わりを見た。
水面下で帝国が動き出していることがハッキリしたんだ。ガーランド伯爵から報告を受けた王国の上層部も何かしらの対策は打つはず。
俺にしても 足りないものが色々と浮き彫りになった事件だった。なあなあで済ませずにしっかりと1つ1つ潰していこう。
平和な時代は確実に終わりを迎える。
今回の件はほんの始まりで、これから少しずつこの大陸の均衡は崩れていくだろう。
早く強くならなければ。
少なくとも、あの子がもう2度と怖い思いをしなくても済むように。
帰る道すがら、そんなことを思ったのだった。
第2章はここまでとなります。
登場人物紹介を挟み、次話はソフィとお出かけします。引き続きお楽しみくださいませ。
今後とも拙作をよろしくお願いします!
空茶日




