第21話 バッドエンドは許さない
場所は変わって、ここは領主館の応接室。
あの後、俺は女騎士グレースに連れられて領主ガーランド伯爵と面会する運びとなった。いわずもがなセレナ様奪還についてだろう。
だって、一緒に"フェザーテイル"も来てるからね。
「話はグレースから聞いた通りだ。娘は何者か、というより犯人も隠すつもりはないのだろうね。確定ではないが、アルセイン帝国の手の者に攫われた」
「エルディライト法国は、良い意味でも悪い意味でも他国に興味がありませんからね」
例によってソファに腰掛け、対面でガーランド様と話すのはアルだ。
「この国の貴族という線はないんですか?」
「ない。少なくとも国内の貴族が動けば必ず"それらしい痕跡"は残るよ。今回はそれがない」
つまり、北の山脈から抜け道でこっそり来た、と。
正規のルートは、よほど身元がしっかりしてなければ入国すらできないからね。
「ついに例の抜け道が見つかってしまいましたかね?」
「多分ね。敵の狙いは国の北部にあたる私の領地一帯だろう。娘を交渉材料にしてね」
おそらく王都には悟られないよう、伯爵を傀儡にして少しずつ帝国に侵食させていくのだろう。慎重に。だが確実に。
「領都だと警備が厳重ですから、直接ヴォルクスで実行に移したんでしょうね。となると」
「来た時と同様に領都を経由しないルートで、そのまま抜け道を使って本国に連れ去るつもりだろう」
これは相手勢力のヴォルクス脱出までがタイムリミットだな。
「街を出られて、商隊なんかに偽装されたら面倒ですね。なるべく街にいる間に奪い返したい」
「そうだね。潜伏先は十中八九スラムだ。そこで君たちへ依頼をしたい」
ガルフの探知魔法がここで活きてくる。ちなみに腰は治っている。
「報酬は言い値を払おう。……頼む。娘を取り戻してくれ」
ガーランド伯爵が頭を下げる。
……貴族が頭を下げるその意味を、分からない俺たちではない。
「頭を上げてください。俺たちの全力を以って、御令嬢の奪還にあたらせていただきます。……ルインもいいか? ……おそらく人を殺すことになる。できるか?」
「もちろん」
俺は即答した。
そんなもん7年前からずっと考えてた。その日が来ただけだよ。
ここは日本どころか地球ですらないんだ。殺しに来る相手は殺すよ。
「感謝するっ。ルイン君もありがとう。すまないが、力を貸してくれ……っ」
……それに、俺は『こういうテンプレ』は大嫌いなんだ。
まだ12歳の女の子が知らない大人たちに攫われ、一人ぼっちで怖い思いをしている。言葉に並べるとたったこれだけだ。
でも、あの子の立場だったらどうだ。
きっと泣いているだろう、きっと震えているだろう、
『どうして自分がこんな目に』と、世の中を恨んでさえいるかもしれない。
そんな子を見殺しにしてみろ。
俺はもう、心から『人生を楽しむ』ことができなくなるだろう。
何の罪もない女の子と、平民の冒険者にすら頭を下げてみせる気概を見せた領主。
この親子は、1秒でも早く再会させてあげなくちゃ。
……バッドエンドは許さねぇぞ。
「大掛かりな捜索をすると相手側に警戒される。こちらからはグレースを出そう。救出に役立ててくれ」
ガーランド伯爵に言葉を向けられたグレースが、一歩前に出る。
「お嬢様のために全力を尽くす。よろしく頼む」
こうして、"フェザーテイル"とグレース、俺の5人でセレナ嬢奪還作戦は開始された。
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話し合いを終えた俺たちは、スラムにほど近い大通りで買い食い中だ。
「こんなことをしていていいのか? 早くお嬢様をお救いしなければ……っ!」
「今ガルフが探ってるから待ってなさい! 冷静に行動しなきゃ、助けられるものも助けられないわよ!」
逸るグレースを宥める犬耳テレーゼ。……どうでもいいけど微妙に名前が似てるね君たち。
「そうだとしても、彼らは気を抜きすぎではないか?」
グレースがこちらをチラリと見ると、
「アル! これ良くない!? 持つところに『ヴォルクス』って彫ってある木剣!」
「王都から来た観光客の子供かお前は! ……子供ではあったな」
「いや〜、こんな店あったんだな〜。まだまだ知らない穴場がいっぱいでルイン嬉しい」
「マジで気持ち悪いからそれはやめろ」
俺とアルは緊張感のカケラもない掛け合いを繰り広げていた。
「はしゃいでるルイン可愛いわよね!」
「えぇ……」
グレースが『だめだこいつら、早くなんとかしないと』みたいな表情を浮かべたその時。
「うむ。おそらくコレじゃな」
「お、もう見つけた? 早いね」
「お前の切り替えも早いがな」
ガルフが早速見つけたっぽいので意識をそっちへ向ける。
「人が集まっている場所はいくつもあるが、魔力の大きさからすると、該当しそうなのは1箇所だけじゃ」
「さすガル」
やっぱ探知魔法ずっこいな。探知魔法を【視て盗む】で貰えばよかったかもしれない。あの時は攻撃手段が欲しかったから、後悔はしてないけど。
……『1個体につき1つ』っていう縛りがネックだ。そのせいでアルとテレーゼに何のスキルを頼もうか決めかねてるし。
「数は分かるか?」
「飛び抜けて強いのが1。そこそこのが3。有象無象が約10ってところかのぅ」
「やれないことはないか」
その飛び抜けて強いやつ次第だが、こっちはBランクパーティーに伯爵令嬢の護衛騎士がいるんだ。そこまで悲観するような戦力差ではないだろう。
軽く打ち合わせた後、俺たちは潜伏先を実際に目で見て確認することに。
もちろん、今回のケースは時間が経てば有利になるようなものでもない。そのまま突入する気満々なので、完全武装でスラムに侵入する。
「あれじゃな」
なるべく人目に付かないように侵入することしばらく。目的の建物を捕捉した。
2階建てのボロい邸宅で、元は商人か貴族の持ち家だったのかな? 朽ちる前はさぞかし立派だったことだろう。
外にいる見張りは入り口に2人だ。
「セレナ様の場所は分かるか?」
「ひとつだけ弱い反応が地下にある。そこじゃろう」
アルとガルフが小声で情報を共有する。
「ひとつだけってことは、見張りはいないのか?」
「強い反応は2階に集中しておるな。1階には先ほど言った有象無象の反応が全てあるのぅ」
1階は大ホールになってるのかな。ここにいる奴らは地下への入り口の見張りも兼ねている、とかだろうな。
2階はリーダー格たちが使ってるっぽいし。
アルが少し早口で指示を出す。
「突入したら1階で暴れてる間に、間違いなく2階から強いのも降りてくる。戦力は1階に集中させたい。セレナ様の救出はルイン、お前が行け」
「気を使わなくていいよ」
「そうじゃねーよ。単に役割分担だ」
……嘘つけ。
口ではどう言っていても、子供の俺に人殺しはさせたくないのだろう。
「さて、派手に引きつけてる間に頼むぞ、ルイン」
「分かった。そっちも油断はしないように」
「ぬかせ」
話はまとまり、突入のタイミングを伺っていると、グレースに声をかけられた。
「どうか……どうかお嬢様を」
「必ず連れて戻ります」
「っ!」
グレースがなんか息を詰まらせたけど、なんすか?
「……行くぞ。頼むテレーゼ」
「了解よ。……ふっ」
ほぼ同時に放たれた2本の矢が、2人の見張りの喉に突き刺さる。さすが。
見張りの身体が地面に倒れる前に、俺たち全員が入り口へと駆け出した。
さぁ、囚われの姫を助けに行こうじゃないか。
作戦開始だ。




