第20話 急転直下の日
「おめでとうございます! これでルインさんはEランクに昇格となります!」
「おぉ、ついに」
Fランクのお使いクエストを連日せっせとこなしていた俺だが、本日晴れてアンナさんからEランク昇格を告げられた。やったぜ。
だいたい20件くらいだったかな? おかげで街の地図が頭の中でほぼ完成した。
「別にカードの色とかは変わらないんだな」
「えっと、なぜ変える必要があるんですか?」
それはそう。
「この後はどうされますか? Eランクの依頼を受けて行かれますか?」
「いや、いい機会だから今日はこの後鍛冶屋に行ってくるよ」
ワイバーンの時の報酬で、お金はすでに貯まっていたのだが、なんだかんだ今日まで伸び伸びになってしまっていた。
いいかげん剣を買うんだよ俺は。『買う買う言って、いつまで経っても全然買わねぇな、こいつ』って思われるだろうが。……アル達にね。念の為ね。
「そうですか。もうどこに行くかは決まってるんですか?」
剣の購入先については、もう既に決めてあった。
「あぁ。"フェザーテイル"のお墨付きの鍛冶屋だ」
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鍛治師ゴルドフ。
彼はヴォルクスの北西。職人街と呼ばれる区画に店を構える、なかなかに癖の強い御仁だ。
腕利きの鍛冶師と聞いたら10人中9人くらいは思うだろう。「どうせドワーフなんだろ?」と。
……その通りだよ。
別に変に捻ったりとかはない。ここはテンプレ通りです。
もちろんお酒も大好きだよ。だってドワーフだもん。そらそうよ。
てな訳で、向かう途中で少々寄り道をしてから俺は店の扉を開けた。
「お邪魔しま〜す!」
「邪魔するなら帰れ!」
バタン
一瞬で閉められる。
信じられるか? これで開店中のつもりなんだぜ、このドワーフ。最もサービス業になっちゃいけないタイプの手合いだよ。……ね? 癖強いでしょ?
そこで先ほど寄り道して買ってきた、アルコール度数がおかしなことになっている、人間が飲んじゃいけない類のお酒『地獄への片道切符』を取り出す。
そして大きく息を吸い込み、
「あ〜あ! せっかく、ドワーフでも地獄のドン底へ転げ落ちるほど酔えると評判の銘酒『地獄への片道切符』を持ってきたのにな〜! ゴルドフさんの為に、せっかく買ってきたのにな〜! いらないなら持って帰ってアルに無理やり飲ませちゃおっかなぁ〜!」
バタン
「二重の意味でなんてことをするんだお前は!!」
よしよし、出てきた。
「さぁ、仕事の時間だゴルドフ。酒が欲しくば働こう」
「む? なんだいきなり。というか誰だ」
ここにきた経緯を説明する。
「"フェザーテイル"の紹介か。先に言わんかい」
「開口一番でドア閉められたんですがそれは」
「男が過ぎたことをごちゃごちゃ抜かすな! とにかく話は分かった。片手剣でいいんだな?」
「うす」
ドワーフと上手く付き合うコツは、向こうの話をまともに正面から受け取らないことだ。
いちいち相手をしてたら、毎回不毛な言い争いが発生してしまう。ちょっと時間の無駄すぎる。
「素材はどうする? お主から聞いた予算だと、鋼か」
「現時点で特別なものはいらないから、この体で不自由なく振れる剣を頼むよ」
「そうだな。それがいいだろうよ」
身体も技術もまだまだ俺は成長途中なんだ。剣の性能頼りになるのは良くないだろう。
え? 『水鏡』とかのスキルはいいのかって? あれは俺の技術です。
握りやらを色々測ってもらって、出来上がりは数日かかると告げられる。
「剣ができたら宿まで知らせる。『渡り鳥の止まり木』だったな」
「そうそう。じゃあ頼んだよ。あ、これ代金とお酒ね」
そう言って代金とお酒を2本渡す。
「……一本多いぞ」
「初めて打ってもらうんだ。サービスだよ。……飲みすぎるなよ?」
そう言って『地獄への片道切符』と『天国へと強制連行』の2本をプレゼントした。……贈る俺が言うのもなんだが、名称が不穏すぎる。
「貰えるというなら貰っておこう」
「そうしてくれ。じゃあ連絡待ってるよ」
そしてダンディな声色とは裏腹に、エビス顔ですっごいニッコニコのゴルドフに見送られながら店を後にした。
宿まで歩きながら、今後の予定を考える。
「うーん、剣ができるまでEランクの依頼はどうしよう。受けるか、受けないか。それが問題だ……」
当たり前のことを呟きながら適当に露店を冷やかす。
ブラブラしながら『渡り鳥の止まり木』にたどり着くと見覚えのある馬車が道の脇に停まっていた。
「あれ、ダグラム伯爵家の馬車だよな……」
ここでスルーする訳にもいかないだろう。
軽く挨拶でも、と近づくとそのタイミングで宿から真っ青な顔をした女騎士グレースが出てきた。
俺に気付くと慌てた様子で駆け寄り、内緒話をするかのように耳元に口を寄せてくる。
……イヤな予感しかしない。これで良い予感なんかする訳がない。
やめろよ? そんなテンプレはマジでいらんぞ。頼むぞ、女神リーン様。私はあなたを信じてます。
しかし、テンプレとはテンプレだからテンプレなのだ。
つまり、
「探したぞルイン殿! ……お嬢様が、セレナ様が攫われた」
やめろって言ったろうがよ! 覚えとけよ! 絶対に許さんぞ女神リーン様ァ!
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この日、セレナは姉のように慕うエカテリーナに会うため、リーン教会へ訪れていた。
ヴォルクスに来る度に、炊き出しを兼ねて教会へ赴くのが恒例になっているのだ。
いつものように炊き出しを終え、ゼンら孤児達と交流し、エカテリーナに散々甘える。
「へぇ! セレナもルインさんのことを知っていたのね」
「はい! 同じ歳の子がBランクモンスターと戦った。そのお話を聞いた時から『どんな子なんだろう』って気になってたんです」
「実際に会ってみてどうだったのかしら?」
顔を赤くしたセレナはモジモジしながら小声で答える。
「か、かっこよかったです……」
それを見たエカテリーナは、
「あら! あらあらまあまあ!」
瞳をキラッキラに輝かせた。
実はこのシスター、こういう他人の恋路が大好物なのだ。
根掘り葉掘り聞き出したシスターがお肌ツヤツヤになるまで、そう時間はかからなかった。
そして、あっという間に帰宅時間はやってくる。
「ではまた、近いうちにお会いしましょうエカテ姉様」
「そうね。次はルインさんも連れていらっしゃい」
「そ、そんな」
「お嬢様、いい加減帰りませんとガーランド様に叱られますよ」
口から砂糖を吐きそうな表情のグレースが、痺れを切らせて声を掛ける。同行する騎士2名も似たような顔だ。
「わかってるわ。じゃあ今度こそ行きますね」
「えぇ、またね」
馬車が走り出し、教会を後にする。
小道を通り、大通りに出るまではほんの数分。
その道中で事件は起こった。
「ヒヒーン!」
「……」
馬の前に、誰かが立っている。
馬車の左右にはそれぞれ1人ずつ騎士がいる。御者はグレース。
馬の手綱を握る者が離れる訳にはいかないので指示を飛ばす。
「アンディは前方の『敵』を排除! 可能なら生け取り。無理なら殺せ」
「了解です」
グレースはこの人物を即座に敵と判断した。
伯爵家の家紋を掲げた馬車の行く手を塞いだ時点で、無礼打ちにされても文句は言えないというのが1点。
そして、なにより決定的なのは、
「抜き身の刃物を持った賊に、かける情けはない」
そう。目の前に立つ黒いフードの人物は、明らかに害意を向けてきている。
「ハァッ!」
アンディと呼ばれた騎士が駆け出し、黒フードに斬りかかる直前。
……馬車の上から煙幕が降ってきた。
「まずい! 賊は1人じゃないぞ!」
(馬鹿か私は! なぜ相手が1人と決めつけた!)
グレースが声を掛けるが一足遅かった。
「ぐわぁっ!」
「ぎゃぁっ!」
煙に包まれる中、2人分の騎士の悲鳴が聞こえる。
(やられた! ……こっちはもう自分1人だけ。相手の数は不明。最悪だ!)
「きゃっ!」
「ッ! お嬢様っ!」
さらに追い打ちをかけるように、最悪の事態が起こってしまった。
「悪いな。恨むなら、『この国の』貴族に生まれた自分の運命を恨んでくれ」
聞こえたのは男の声だった。
その言葉を最後に、複数の気配は遠ざかっていく。
煙が晴れた後、真っ先にグレースの目に飛び込んできたのは、同行していた2名の騎士の遺体だ。
だが、今は先にセレナの無事を確かめなければ。……結果がほぼ分かりきっていたとしても。
急いで馬車の中を確認するも、案の定そこには誰もいなかった。
「クソッ!」
「ブルルッ」
無事だったのはグレースと馬、そしてもぬけの殻となった馬車のみであった。




