第18話 伯爵令嬢は7年前から知っていた
「なるほど。君たちはこのワイバーン2体の討伐依頼を受けてこの場に来たのだね」
「そうなります」
アルが俺たちを代表して返答する。
自己紹介を終えた後は、俺たちがここにきた経緯などを軽く説明した。説明といっても、伯爵の発した先の一言でほぼ全て説明できてしまうのだが。
セレナ嬢はあの後すぐ、女騎士グレース(セレナ嬢の護衛騎士らしい)に連れられて馬車に戻って行った。他の騎士達が犠牲になった騎士の埋葬をしているので、あまり見せたくなかったのだろう。
「ふむ。ならヴォルクスまで同行してもらえまいか? 私達も久々に訪れるのでね。現地で活動している者に街の近況を直接聞きたい。無論、討伐証明部位などの剥ぎ取りが終わるまで待とう」
「えぇ。もちろんです」
領主様からのお誘いを断れるわけがない。
ということで、街までは伯爵御一行と共に行くことに。
あまり待たせるわけにもいかないので、手早く剥ぎ取りを行う。爪や牙、鱗などの高く売れる素材は伯爵御一行と分配する。
亡くなった方々の遺族への見舞金に充てるらしいので、多めに渡した。
馬車には伯爵親子とアル、女騎士グレースの4人が乗ることに。俺とテレーゼは街の近況なんて知らないからパスだ。
……同じくヴォルクスをホームにしているテレーゼが知らないのはおかしくない? って後でアルに聞いたら、「あいつはそういうやつだよ」って呆れ混じりに言われた。
そして道中、馬車の外では。
「あの子、ルインだっけ? まだ子供なのにかなり強いな。うちの子なんか彼と同じくらいの歳なのに、いまだに泣き虫のままだぜ」
「でもそういうところが可愛いんでしょう?」
「分かってるねぇ! そうなんだよ!」
「こいつ本当に親バカでさぁ」
「ふふっ。家族愛があるのはいい事じゃない!」
テレーゼがめっちゃ騎士に溶け込んでる件。
その騎士達の助っ人をやったのは、テレーゼなんだから当然っちゃ当然か。
馬車内はアルに任せ、外はテレーゼに任せ。
俺は黙々と周囲の警戒にあたったのだった。
……馬車の中から、じーっと見られているとも知らずに。
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馬車の中では。
「なるほど。表だって気になることは特になさそうだね」
「ええ。俺たちが知っている範囲では、ですけど」
「懸念があるとすれば、やはり7年前に報告があった帝国との抜け道か。実際に確認はできていないが、目は光らせておかないとね」
魔物が徘徊する広大な森を抜け、山脈まで捜索の手を伸ばすのは現実的ではない。いまだ発見に至っていないのも仕方ないことだろう。
「それにしても、まさか君たちが例のスノーボアを討伐した者達とはね。あの報告は衝撃的だったからよく覚えているよ」
「まだ5歳だったルイン様も、戦われたというお話ですよね!?」
今までずっと、窓からどこか一点を見つめていたセレナが、突然話に割って入る。
「セレナ、落ち着きなさい。すまないねアル君。……自分と年齢が一緒だからか、この子はその話を聞いてからルイン君に興味津々でね」
「い、いえ」
「ルイン様のことをもっと聞かせてください!」
「先ほどの彼を見て、もっとファンになってしまったようだ。ハッハッハ」
まさかの初対面よりずっと前。7年も前から目を付けられていたようだ。これはさすがにルインも予想できない。
そこへさらに会話に加わる者が現れる。
「彼、おかしくないか? 私のスキルを使ってたんだが……」
ツッコみたいのをずっと我慢していたグレースが、ルインの話題になったところでようやくアルに訊ねる。
「あいつ曰く、『すごく目がいいから』だそうですよ」
アルがすぐさま煙に巻く。嘘は言っていない。
「えぇ……。いくら目が良くても、スキルはそう簡単に使えるようになるものではないのだが……」
グレースはまるで信じていないが、あまり詮索するのもマナー違反かと思い追求はここでやめた。
「それよりルイン様の武勇伝を聞かせてください! アル様!」
「では武勇伝ではありませんが、初めてあった時のことでもお話ししましょうか」
「まぁ! ぜひお願いします!」
セレナのことを内心で少し子供っぽいな〜と思ったアルだが、むしろ12歳ならこれが普通なんだよなと考え直した。異常なのはルインの方である。
そしてアルは、村でルインと初めて会った時のことから話し始めた。
その姿を、ガーランド伯爵は目を鋭くして見つめていた。
まるで、『娘が気に入っている相手の情報を一言一句聞き逃すまい』とするかのように。
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あれからは特にトラブルもなく、無事に街に到着した。
街の中まで伯爵御一行と一緒に行動をしていると、ちょっと目立ちすぎるので門の前でお別れすることに。
「改めて礼を言うよ。君たちがいなかったら、私も娘も危なかった」
「そのお言葉。ありがたく頂戴いたします」
「アル君、テレーゼ君、……そしてルイン君」
「は、はい」
なんか俺を呼ぶ時だけ圧が強い。強くない?
「機会があったらまた会おう。では」
「ルイン様! 必ずまたお会いしましょうね!」
「は、はい」
こうして彼らは街の中へと消えていった。
「なんかセレナ様からの好感度高すぎじゃない? アル、馬車の中でなんか聞いた?」
「7年前のスノーボアの件。あの騒動の報告を聞いた時からお前のファンだったらしい。んで、さっき助けた時に、実際戦ってる姿を見てもっとファンになったらしい」
「Oh……」
そのパターンは考えてなかったわ。さっきので多少良い印象は持ってもらえてるかな、とは思ってたけど。まさか7年前って。
「お貴族様と会う機会なんて、もう2度とないだろうし気にする必要もないさ」
「そうよ! きっともう会うことはないわよ!」
やめろ! 無理矢理フラグたてようとすんな!
知らないのか? テンプレからは逃げられない




