第17話 ルイン、女騎士からパクる
「ルインさんが"フェザーテイル"の依頼に荷物運びとして参加する?」
「ああ。手続きよろしく」
翌日の朝イチで、俺が"フェザーテイル"に同行することを冒険者ギルドに知らせに行く。応対してくれたのは、昨日に引き続きアンナさんだ。
「えーっと。彼、昨日登録したばかりなんですよ? ワイバーンってBランクの魔物ですけど、大丈夫なんですか?」
「見た目はこんなんだが、こいつはかなりやり手だぞ?」
こんなん言うな。
「アルさんがそうおっしゃるなら……。分かりました。すぐに手続きしちゃいますね。皆さんは元々お知り合いだったんですか?」
「依頼でルインの村へ行ったことがあってな。その時に知り合った」
「そうだったんですか」
つい最近、似たようなやりとりを聞いた気がしますね。主に『渡り鳥の止まり木』で。
「はい。手続きの方が完了しましたので、いつでも出発していただいて結構ですよ」
「わかった。そんじゃ行くか」
「皆さん、お気を付けて」
最後にアンナさんの声に背中を押され、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
「それで、ワイバーンは北の街道に出るんだよね?」
北の門に徒歩で向かいがてら、確認の意味も込めて聞く。
「ああ。目撃情報だと2体だから、おそらくツガイだな。あいつらは食いでのある馬が大好物だから、馬車なんかが狙われる」
「よく行き来する商人が特に困るのよね」
「そういうことだな。その商人達からの嘆願で動いた、商業ギルドが今回の依頼主だ」
ここまでは昨日聞いたな。
街の北門を出て、そのまま街道をずっと進むと領都である『城塞都市ダグラム』がある。ヴォルクスとダグラムを結ぶ街道上にワイバーンが出没するようになってしまったらしい。
ちなみに、俺がシーズ村からこの街に来たときに通ったのは西門だ。
ここを餌場認定したワイバーン2体によって、既に馬だけでなく商人にも犠牲者が出てしまったため、大至急討伐してほしいというのが今回の依頼となる。
「それで俺たちは依頼主から受け取っている馬肉で、ワイバーンを誘き寄せて討伐するんだが……」
「ちょっと待った! ……え? おかしくない? ……正直に言っていい?」
「言いたいことは大体予想がつくが、なんだ」
「雑すぎィ!」
なんだそのガバガバな作戦は! ほとんど運任せじゃねーか!
「まぁ聞け。ルイン」
「一応聞こうか」
なんだね、アルくん。
「本来ならこれ(馬肉)に加えて、ガルフの探知魔法で索敵する予定だったんだよ」
「そらそうでしょうよ」
誰だってそうする。俺だってそうする。
「でもヤツは、せっかくの見せ場だっていうのに何もない所で腰をイワした」
「えぇ……」
マジかよ。何か重い物を持ち上げようとして、とかじゃないんだ。それもう冒険者引退したほうがいいよ。
「そこで犬獣人であるテレーゼの出番だ」
「わぉ〜ん!」
ここまで黙っていたテレーゼが軽く遠吠えをする。あざといけど可愛いです。
「トカゲっぽい匂いを探ればいいのよね! たぶん大丈夫よ!」
「ほんとかなぁ……」
不安だけど任せるしかないか。
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ということでね。街道にやってきたのだ。
「目撃情報だともう少し先だな」
「街からは結構離れてるのよね」
「あいつらも馬鹿じゃないからな。なるべくリスクの低い場所を狙ってるんだろうよ」
街を出てからは冒険者の身体能力を如何なく発揮し、超ハイペースで走っている。普通に原付バイクと同じくらいの速度は出てる。
聞いて驚いたのだが、なんとガルフもこのペースで走れるらしい。さっきは引退した方がいいとか思ってごめんよ。
この話を聞いた時、某魔法学校の校長みたいな見た目のあのお爺ちゃんが、原付バイクと同じスピードで走ってる絵面はシュールだな。とかどうでもいいことをつい考えてしまった。
「よし、そろそろだな。こっから先は頼むぞテレーゼ」
「任せなさい!」
目を瞑り、鼻をひくひくさせるテレーゼ。あっち向いたり、こっち向いたりと忙しなく動き回ることしばらく。
突然、ピタッと動きを止めると、目を開いて一つの方向を指差した。
「あっちからそれっぽい匂いがするわ! あと、血の匂いもする!」
「「!!」」
誰かが襲われている。
その瞬間。まるで示し合わせたかのように俺たちは全力で駆け出した。
「距離は分かるか!?」
「このペースなら後2分!」
「チッ! 間に合うか?」
急いで現場へ急行していると、戦闘音が聞こえてきた。そしてその音の発信源では、3人の騎士らしき者たちがワイバーンと戦っていた。
周りには5人ほどの同じ鎧を着た者達が、血を流したり黒焦げで倒れている。乗っていたであろう馬の死体もそこかしこにあり、かなりひどい状況だ。
「……1体だけ? もう1体は?」
「あっちだ!」
アルが指差す方を見る。
少し離れた場所で、馬車を守るように1人の騎士がワイバーンを食い止めている。
「テレーゼは3人の方をバックアップ! 俺とルインは馬車の方に!」
「「了解!」」
すかさず飛んだアルの指示に返事を返す。
早速行動に移ると、この場にいる騎士達へ声をかけた。
「加勢する!」
「助かる! 絶対に馬車には近づけないでくれ!」
意外にも1人でワイバーンを食い止めていた騎士は女性だった。
「グルルルル!」
ワイバーンがこちらを敵と見定め、翼と一体化している前腕を叩きつけてくる。
「よっ」
スレスレでかわしながら懐へ潜り込む。短剣で腹を切り付けてみるが、
ガキン! と、硬質な音と共に弾かれる。ですよね〜。知ってた。
それなら、こいつはどうだ。
「【ウィンドカッター】」
「グギャァァァ!」
硬い鱗に覆われていないお腹側でも浅く傷がつく程度、と。
うん。やっぱこのクラスの魔物相手じゃ俺が殺しきるのは無理だな。
「アル! 騎士さん! このまま引きつけとくから大技よろしく!」
できれば騎士のお姉さんにお願いしたい。
「了解だ! 騎士様、先に俺が行くからトドメはよろしく」
「分かった。すまないがよろしく頼む!」
と、話してる間にワイバーンが息を吸い込んだ。さてはブレスだな?
「【氷の盾】」
ヤツの顔にくっつくくらい至近距離に魔法を展開した直後。
ゴォォォォ!! ジュゥゥゥ!
「グギャアア!!」
盛大に自爆した。
【氷の盾】によって行き場を失った炎のブレスが、ワイバーンの顔を見事に焼いている。
その隙を逃す彼らではない。
「【アイアンザッパー】!」
鉄をも両断するアルのスキルが、硬い鱗をものともせずにワイバーンを斬り裂いた。
続けて、
「【水鏡】」
女騎士のスキルが発動。剣が水平に振り抜かれ、ワイバーンの両脚を胴から切り離す。
俺はそれをしっかりと『視て』いた……。
足が失くなったことで届くようになった首へ、女騎士が再度剣を振るおうとするが、その前に。
「【水鏡】」
ワイバーンの背中に登っていた俺が、少しの溜めの後にスキルを発動。水平に奔った剣線が、胴から首を斬り飛ばした。
素の状態じゃ柔らかいお腹側でも傷つけられなかったのに、スキルを使ったら一発だった。これはずるいわ。
「え?……は?」
なんか女騎士が放心してるけど、まだ状況は終わってないぞ。向こうはどうなった?
「あ、向こうも終わってるね」
ごめん、終わってたわ。
離れた場所でピクリとも動かないワイバーンが倒れている。目には矢が刺さってるな。あれは痛い。
「お疲れさま! アル、ルイン!」
「おう」
「テレーゼもお疲れさま」
さっさとこっちに合流したテレーゼと労い合っていると、馬車から身なりの良い30代半ばくらいの男性が降りてきた。理知的で優しそうな目をしている。
「まずは助けてもらった礼を。私はガーランド・ダグラム。国王陛下より、伯爵位を賜り、この一帯を預かっている者だ」
……うん、そんな気はしてたよ。この状況「あ、これWEB小説で見たやつだ!」って思ったもん。
てことはこの後は。
「こっちは娘のセレナだ」
伯爵の服を掴んで後ろに隠れていた女の子が、ひょこっと顔を覗かせた。
親子揃って黒髪に青い瞳をしている。
「せ、セレナ・ダグラムです。助けていただいて、あ、ありがとうございました……!」
やっぱりな。
やっぱりな




