第126話 "アルゴスアイズ"の今後について
ルインはめんどくさがり屋さんです。
またもや【スラッシュ】の習得に失敗した数日後、お昼前のことである。
「そろそろ家が欲しくない?」
パーティーメンバーがギルドの酒場に集合したタイミングで、俺は口を開いた。
「いきなりどうしたのよ」
「あぁ……オレは理由が分かったかもしれん」
「ボクもだぞ!」
「家か! そいつはいいな!」
カトレアは首を傾げているが、ビルとエルルは俺の発言の意図に心当たりがあるようだ。ビルはともかくエルルはノリで便乗しただけのような気もするが……。
「じゃあビルくん」
ビルを指名して回答権をプレゼント。
「いちいち冒険者ギルドに集まってからじゃないと、相談の1つもできないのがめんどくさ……もどかしいのだろう?」
「……正解」
心優しい熊さんは、言い回しひとつにも気を遣ってくれた。だけど「めんどくさ」まで言っちゃったら、後は「い」しか残ってないんだな。そこまで言ったのなら、いっそ全部言ってくれちゃった方が潔く死ねる。
まあいいや。とにかく話を続けよう。すぐに脱線しそうになるのは、俺の唯一と言っても過言ではない悪い癖である。
「今日だって、軽く今後の予定を決めようってだけなのに、わざわざギルドの酒場に集合してるし」
「パーティーホームがあれば、家でいつでも相談できるから効率も良くなるって言いたいのね?」
「その通りでございます」
カトレアも理解してくれたところで、意見を募ってみる。
「誰か、いい家知らない?」
「知ってる訳ねーだろ」
「…………」
──ローグの厳しいツッコミが、ギルドの酒場に虚しくこだました。いつになく手厳しいんだけど……。何かいいことでもあったのかい?
ローグはさておき、他のメンツの顔も見渡すが誰も良い情報は持ち合わせていない様子。やれやれ、俺がなんとかするしかないようだ。しょうがないにゃあ。
「ちょっと待ってて。家見つけてくるから」
そう言って席を立った俺は、迷うことなく依頼ボードへ向かう。
そして、そこに貼られている依頼書を片っ端から全てチェックしてみるも、なんと目当てのものを見つけることができなかった。そんな……。
肩を落とした俺は、すごすごとみんなが待つテーブルへと帰還する。
「なかった」
「一体何がしたいのよアンタは……」
開口一番、カトレアさんがジト目で詰めてきた。彼女ですら、今の俺の行動は理解不能だったようだ。
……ちゃうねん。これにはな、ふか〜い理由があんねん。白って200色あんねん。
「家が欲しい時って、幽霊屋敷の除霊依頼が出てたりするんだよ。報酬は『除霊後のその家』みたいな感じで。その幽霊が同居人になったりしてさ」
「そんな都合のいいことがある訳ないでしょ。そもそもそれ、除霊できてないじゃない」
そうなんだけどさ。いわゆるひとつの様式美ってやつだよ。
てかリーン様……たまには俺が望むテンプレをくれても良いのでは? 望まぬテンプレばかりでしんどいっす。そろそろご褒美をキボンヌ。
「それで、結局どうするんだー?」
珍しくエルルが話を進めてきた。飽きてきたのかもしれない。
「う〜ん。まだいくつか心当たりがあるから、時間がある時に訪ねてみるよ」
「分かったわ」
「何かオレ達に手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ」
「その時はお願いするね」
※ ※ ※
家については俺が時間がある時に動くとして、次の議題へ。
「これから俺たちがどうしていくか、なんだけど」
今は特に急ぎでやらなければいけないことはないからね。次にいつイベントが発生するか分からないし、この期間をしっかり有効活用したい。
「みんなは何か意見ある?」
メンバー全員の顔を見渡して聞いてみる。
「いつも通り依頼をこなすのは当然として、他にって事よね?」
「そうそう。なんでもいいよ」
俺が再度聞くと、エルルとローグが顔を見合わせてから声を揃えてこう言った。
「「各地の美味いもの食べ歩き!」」
「言うと思ったよ」
でもね、俺が聞きたいのはそういうのじゃなくて…………いや、待てよ。それも"有り"か?
転移が使えるようになった今、各地を巡って跳べる場所を増やすのは全然有りだ。むしろ今後も冒険者として色々な依頼を受けるなら、意外と役立つんじゃないか?
「カトレア」
「ええ。私は賛成よ」
彼女も同意見のようだ。他の3人に、キチンと俺の考えを伝えると。
「なるほどな。確かにそれは、できる時にやっておくべきだな」
「今後便利になるならやるべきだぞ!」
「美味いもん食えるならなんでもいーぜ!」
3人も賛成してくれた。ローグだけは思考が食欲オンリーだが……。この子、いつか食べ物に釣られて、大変なことに巻き込まれたりしないか心配である。
うん。やることリストに追加だ。これから時間を見て、まずはヴォルクス周辺の各町に行ってみるとしよう。
「それとコツコツ実績も積んで、Bランク昇級も狙っていこうね」
『おー!』
いつまでもCランクに甘んじている訳にはいかない。どこぞの団長も『止まるんじゃねぇぞ……』って言ってたし。俺も止まらねぇからよ。
後は……。
カトレアに俺の希望を伝えてみる。
「個人的に、もっとレベルも上げたいしダンジョンにもまた潜ってみたいんだけど……」
興味本位だけど、いつかはダンジョンマスターに会いたいしね。
「いいんじゃない? 転移でいつでも行ける訳だし。何を優先するかは任せるわ」
「さんきう。それで、21階層へ進む前にやっておきたい事があるんだよね」
「何かしら?」
こちらを見つめる面々に向かって、頭の上でスヤスヤと眠っているカグラを指でツンツンして起こしながら告げる。
「こいつのパワーレベリング」
『……ピュイ?』
気持ちよくお昼寝してたところを起こされて、不機嫌な赤ちゃんドラゴンに頭をペチペチされながら宣言する。
「リーパー道場に再入門だぜ!」
先生、またお世話になります!
家を手に入れて、マップを埋めて、ダンジョンの奥も目指す。
転移ありきの力技ですね。
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