第124話 星に願いを
第9章エピローグです。
夜は王都の伯爵邸で、叙爵と婚約祝いのパーティーが開催される。
国王陛下が認めた婚約だからね。大規模なものじゃなくてもいいから、お祝いはしないといけないらしい。まぁそうでなくとも、どのみちお祝いはするつもりだったみたいだけどね。
ちなみに、今回ソフィは残念ながら不参加だ。またの機会に、彼女も交えてお祝いをするとしよう。
「ただいまー」
宿の入り口ドアを開いた瞬間の事だった。猛スピードで顔面に向かって飛んでくる物体を俺の目が捉えた。なにやつ! なんてね。
『ピュイー!』
──ボスッ!
速度を落とす事なく正面から"ひしっ!"と顔を覆うように引っ付いたのは、俺の可愛い従魔であるカグラだ。
「前が見えねぇ」
『ピュ〜イピュイピュイ……。ピュ〜イピュイピュイ……』
涙をダバダバ俺の頭から顔に垂れ流しながら「オ〜イオイオイ、オ〜イオイオイ」と器用に鳴いている。罪悪感という名の刃で、俺の心が滅多刺しである。ごめんよ。
ヒョイっと掴んでいつもの定位置にずらす。前が見えるぜ。
その時、呆れたような表情のカトレアがロビーに現れた。
「今の今まで、やさぐれてふて寝してたのに急に飛んでいったと思ったら……戻ったのねルイン。お疲れ様」
「ありがと。無事に終わったよ」
労ってくれる彼女に、手短に答える。
そういえばカトレアたちは、既に金一封と勲章とやらを受け取っていたらしいよ。なんでも、俺がソフィと王都デートした日だったらしい。
…………誰か1人くらいは、その事を俺に教えてくれてもよくない?
「カトレア以外のみんなはどうしてるの?」
「部屋にいると思うわよ。さっき伯爵家の人が来て、パーティーがあるから宿にいてくれって言われたもの」
「なるほど」
俺の身内扱いってことか。気心知れた人がいるのはありがたいね。にしても。
「カグラ。いい加減泣き止んでくれません? 頭がびしょびしょなんだけど」
『ピュイッ!』
──ペシッ。
今のは「誰のせいだと思ってんのよ!」の一撃かな。愛い奴よ。
「カトレア。カグラがこんなんだから、落ち着いたら【クリーン】お願いしてもいい?」
「分かってるわ。主役がそれじゃ、伯爵家に申し訳ないものね」
「さんくす」
その後、【クリーン】してもらってから、式の最中に思いついた通りソフィや母さん達に晴れ姿を見せに行くことにした。
今見せておかないと、なんやかんやで見せる機会がないと思うのでね。パパッと行ってきちゃおうね。
……
…………
………………
行く先々で「かっこいい!」「キマってる!」等とチヤホヤされて、すっかり有頂天の俺が宿に戻ったのは、伯爵家の迎えが来る直前のことであった。
あ、危ない所さんだった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
本日のお祝いは、伯爵邸の庭で行われる立食形式のパーティーだ。
参加者は伯爵邸の人間以外では、教皇、聖女、"アルゴスアイズ"とお馴染みのメンバー。ここまではまだいいのだが……。
視線をそちらへ向ける。ばっちり目が合ってもうた。すると、その人物はのっしのっしとこちらへ歩いてくる。野生味を全面に押し出した威圧感が半端ない。大迫くらい半端ないって。
……ほんとにほんとにほんとにほんとにライオンかもしれない。近すぎちゃってどうしよう。
「先程ぶりだな。叙爵、そして婚約おめでとう、シーザー子爵」
「ありがとナス」
「セレナ嬢と婚約したのなら、我がランドゥ家と関わることもあろう。今後ともよろしく頼む」
法国といつかやりあうなら、この家の協力は不可欠だ。良好な関係を築くに越した事はない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「くくくっ、そう硬くなる必要はない。ところで、ユニウス殿下の言ったことが事実なら、貴殿は相当強いのだろう? いつか手合わせ願いたいものだな」
いきなりバトルジャンキー感を醸し出すのはやめてください。普通に迷惑ですので。
「ハハ。いつか機会があればお願いします」
「ふっ。ではその時を楽しみにしておこう。いつでも我がランドゥ領を訪ねるといい」
「分かりました。行ける時に行きますね」
最強の言い訳「行けたら行くね」で難を逃れる。ただし、乱用すると友達がいなくなるから気をつけよう、これマメな。
片手を上げて去っていく公爵を見送っていると、伯爵家の者が呼びに来たのでノコノコとついていく。
伯爵の元まで案内されると、横にいたセレナが俺に気付いて笑顔を浮かべた。
「ルイン様、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
俺とセレナが並んだところで、ガーランド伯爵の挨拶が始まった。
「本日はお忙しい中お集まりいただき、感謝いたします。皆様すでにご存知の通り、我が娘セレナと、新たに王国貴族の仲間入りを果たしたルイン=シーザー子爵が、婚約いたしました」
挨拶が続く中、頭の上のカグラのお腹がなった。俺の頭部にお腹がくっついてるから骨伝導で伝わってくる。もう少しだけ我慢しておくれ。
……
…………
………………
「では、国王陛下がお認めくださったこの度の婚約を祝して、乾杯!」
『乾杯!』
挨拶が終わり、いよいよパーティーが始まる。
開始と同時に次々と挨拶にくる来賓達の相手は正直しんどかったが、周りには身内もたくさんいるので特に緊張することなく対応することができた。
こちらがひと段落したところで、みんなの姿を探してみる。
少し離れた場所では、早速料理に突っ込むエルルとローグ。それを見て「やれやれ」と呆れているビルにカトレア。うん、こんな時でも平常運転なのはさすがだわ。安心するね。
隣で笑顔を浮かべるセレナを見ながら、ふと思う。
これから先も、セレナとソフィと愉快な仲間たち。みんなで今みたいに笑い合えたら、こんなに幸せな事はないね。
──どうか未来の俺が、そんな素敵な日々を過ごしていますように。
賑やかなパーティーの様子を眺めながら、満天の星空にそう願ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
第9章はここまでとなります。
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