第123話 シーズ村のルイン
ついに叙爵式本番です。本当に始まります!
「ルイン殿、前へ!」
俺の名を呼ぶ声が聞こえると、入り口に控える騎士に手で促され、玉座の間の中へゆっくりと進み出る。
目線だけで周囲を伺うと、玉座には当然国王陛下の姿が。近くにはユニウス王子も控えているね。どうやら他の王族はこの場にいないようだ。
貴族席にはガーランド伯爵やランドゥ公爵を筆頭に、上級貴族であろう人達がこちらを見ている。その目は一様に"見定めようとする者"のそれだ。
次に貴賓席の方へと視線を移す。そちらにはヨハン教皇、聖女セシリアの姿が確認できた。
……なんかその近くに目立つ男性エルフが1人いるんだけど、あれ絶対に王都冒険者ギルドのマスターだろ。「僕は誰でしょうか」みたいな目でこっちみんな。王都のギルマスがエルフとか、散々いろんな作品で擦られてんだよ。
──いけないいけない。集中せねば。今日はガチの場やぞ。おふざけは禁止だ。
前もって教わっていた通りに赤絨毯を進み、定位置で右膝をついて左手を胸に添え跪く。場が整ったところで、いよいよ文官らしき人が開会を宣言する。
「これより叙爵式を執り行う」
たった一言で玉座の間の空気が引き締まった。さすがの貫禄である。
ピリピリとした空気の中、満を持して玉座に座る我が国のトップが口を開いた。
「諸君、本日はよくぞこの場に集まってくれた」
重い声だ。この前話した時とは全然質が違う。まさしく『王者』の声。
「まずは皆の者に伝えておくべきことがある」
そこで一旦区切り、集まった面々をゆっくりと見渡してから再び口を開く。
「余の治世において、我がルミウム王国に『女神の使徒』が降臨した!」
国王陛下の声に「おぉ」とか「やはり」、「だから教皇や聖女までこの場に」といった囁き声が聞こえてくる。すごい。なんて教科書通りの反応なんだ! これは感動を禁じ得ないぜ。
「さらにその者は先日ヴォルクスにて発生した、スタンピードの主である強力な新種の魔物『キメラ』を討伐。これを街への被害なしで終息へと導いた」
またもや若干どよめく貴族達。「本当か?」「さすがにこんな子供では……」みたいな懐疑的な声が多い。
そらそうよ。俺がそっち側だったら絶対に「嘘乙」って思うもん。
「私が保証しよう!」
その時、ユニウス王子が大きな声を上げた。
「皆が疑うのも無理はない。その気持ちは理解できる。が、『女神の使徒』の実力は本物だ。詳しくは話さぬが、かの『炎剣のフリード』を退ける程の力を"私が"この目で見た」
物は言いようである。
単に【視て盗む】を使って【転移】を盗むところを見ただけじゃん。フリードを退けるきっかけになったスキルを見たってだけの、ほとんどペテンである。
「『炎剣のフリード』を!?」
「それが本当なら、この叙爵も得心がいった」
「あのユニウス殿下の言うことだぞ。真実であろうよ」
貴族たちがコソコソ話している。毎度思うけど、フリードのブランド力って本当に凄まじいね。
合コンとかで「俺フリードと友達なんだ〜」っていえば人気者になれるかもしれない……あ、なんか寒気が。俺はセレナとソフィがいるから一生行かないけどね! よし、治った。
あと、どうでもいいが式の最中ってこんなに私語まみれでOKなのだろうか。流石にラノベとかでもそこまで触れてないから分からないわ。
ともあれ、第2王子のお墨付きで納得した(納得せざるを得ないとも言う)貴族達は程なくして静かになった。それを見て満足気に頷いたユニウス王子は、陛下に謝罪する。
「出過ぎた真似をいたしました。申し訳ございません、陛下」
「許す。大義であった」
ここまで打ち合わせ済みっぽいな。陛下が話を引き継ぐ。
「さて、件の功労者である『女神の使徒』に、その功を持って王国子爵位を授ける事とする」
男爵飛ばして子爵。だいぶやってるね。これは確かに下級貴族がいたら絶対騒ぐわ。この場にいる貴族達は「まぁ、女神の使徒だしな」みたいな空気だけど、自分達より下の爵位だからこその余裕だろう。
儀礼官が近くにやってきて、俺に家紋付きのマントを羽織らせてくれる。
俺の家紋は天使の翼のような片翼に下向きの剣が寄り添っているものになっている。『女神の使徒』と『冒険者』をイメージしたものだ。安直でごめんよ。
「改めて皆に紹介しよう。今代の女神の使徒『ルイン=シーザー子爵』である!」
────ルイン=シーザー。
この家名を名乗るということだけは、最初から決めていた。この世界での俺の始まりは『シーズ村』だからね。これだけは譲れない。
きっとこれからも色々なことを経験するだろうけど、どこまで行っても結局俺のルーツはあの村なのだ。それだけはきっと、何があっても変わる事はないだろう。
俺は……『シーズ村のルイン』だ。
「そして、もうひとつめでたい発表をしよう! ここにいるシーザー子爵とダグラム伯爵家令嬢セレナの婚約を正式に認める! なお、これは『余』が直々に認めたものである!」
どよめく貴族達。王が認めた婚約ともなれば、効果はバツグンだ! これで牽制は完璧ですね。ありがとう王様。
「シーザー子爵に関しては年齢が年齢だけに、領地や貴族としての責務は成人まで保留。婚約者の実家であるダグラム伯爵家の預かりとする」
うむ。帝国でユニウス王子に伝えた要望は、これでほぼ通った形だね。
「さて子爵。立ち上がって、皆の者に顔をよく見せてやれ」
「はっ!」
立ち上がって、振り返る。貴族席、貴賓席によく顔が見えるように。
俺もここまで知り合った大事な人たちの顔をしっかりと見る。ガーランド様、先輩、セシリア。みんな微笑みを浮かべて俺を見ている。彼らに目だけで感謝を伝えた。
もちろん、この場にいないみんなにも心の中で感謝の言葉を贈ろう。俺が今ここに立っているのは、彼ら彼女らのおかげなのだから。
この後、父さんと母さん、ウィル兄さん。もう1人の大事な婚約者にもこの晴れ姿を見せに行こう。きっと笑顔で祝ってくれるだろう。
「さぁ! 新たな王国貴族となるシーザー子爵を、盛大な拍手で迎えようではないか!」
直後、玉座の間に拍手の音が響き渡った。これは心を揺さぶられるね。身が引き締まる思いとは、まさにこのことか。
「これにて本日の叙爵式は終了とする! 皆の者、ご苦労であった!」
よく通る国王陛下の声を以って、叙爵式は締められた。
開会の宣言をした文官さんが苦笑いしているところを見ると、本来は彼の役割だったっぽいね。お疲れ様です。
さて、これでやっと王都に来た目的は全て達成したことになる。さしあたって、やらなければならない事はなくなった訳だが、次は何をしようかな。
ヴォルクスに帰ってから、みんなでゆっくり話し合うとしようか。
万雷の拍手に包まれながら、俺は"未来"に想いを馳せる。
────こうしてこの日、後世の王国史に名を残す事になる『ルイン=シーザー』という1人の貴族が誕生したのであった。
もし少しでも『面白い』『続きが読みたい』と思っていただけたら、
ブックマークと評価を入れていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が一番の執筆モチベーションとなりますので、よろしくお願い致します!




