第122話 叙爵式当日
いよいよ叙爵式当日です。
あれやこれやと日々を過ごしていたら、あっという間に叙爵式の当日になってしまった。
「うん。やはりよく似合っているね、ルイン君」
「とても素敵です!」
今はダグラム伯爵邸で正装に着替え終わったところだ。伯爵とセレナから、早速お褒めの言葉をいただいた。照れるぜ。
カグラは流石に叙爵式に参加させる訳にはいかないので、カトレア達に預けてきた。その際にメチャクチャ泣き喚いて暴れていたので、後でたっぷりと甘やかしてご機嫌を取らなければ、俺の頭に爪が刺さるだろう。
さて、鏡で自分の姿を確認してみる。黒を基調に銀糸で刺繍が施された、シンプルながら中々カッコいいデザインだ、こうして見ると、とても田舎の農村出身には見えない。意味もなくキメ顔をしてみる。……ヨシ!
それにしても。
「試着の時も思いましたけど、動きにくいし落ち着きませんね」
「ふっ、慣れたまえ。これから正装する機会も増えるだろうからね」
「努力します」
婚約者のセレナやソフィに、恥をかかせる訳にはいかないからね。頑張りますとも。
「馬車はもう表に待たせてある。我々も準備ができたら行こうか」
「俺はいつでも大丈夫ですよ」
「私もルイン様の晴れ姿を見たかったです……」
残念ながらセレナはお留守番である。今回は王都在住の上級貴族に、教皇や聖女といったリーン教会の重鎮しか参加しないらしい。
理由はシンプルに「下級貴族の参加を許可したら、式の最中に騒ぎだすから」だそうだ。成人式の若者かな?
……でもまぁ、俺もその決定には賛成だ。こんな子供が叙爵とか、確実に「異議あり!」のテンプレをやらかす奴が出てくるもん。
冷静に考えたらアレ、公の場で正面から王の決定に異を唱えている訳だよね。なんでアレやった奴って大体お咎め無しなんだろうか? ちょっと「メッ!」てされただけで終わってる気がする。
「ルイン君。どうかしたかい?」
「いえ、なんでもないです」
おっと、また思考が脱線してしまった。
ともあれ、そんなこんなで俺と伯爵はそそくさと馬車に乗り込み、王城へ向かったのであった。
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さて、室内にダイレクトでインした前回と違い、今回は正面から堂々と入城を果たす。
門で簡単なチェックを受けた後は、あれよあれよという間に控室へ……向かっている途中で、すんごい身分が高そうな老齢の人物と遭遇した。気品はあるがワイルドな感じ……ライオンのような印象の御仁である。
その人物に向かって、隣の伯爵が挨拶する。俺も頭を下げておく。
「これはランドゥ公爵。貴殿も王都に上っておられたのですね」
「久しいな、ダグラム伯爵。なに、たまたま王都に用があって滞在していたのだ」
その名を聞いてすぐに思い至る。ダグラム領の東、お隣に領地を持つランドゥ公爵。王国でも指折りの軍事力を誇り、聖エルディライト法国を監視する役目を代々与えられている名門だ。
「それで、その子供が今回の主役だな。お主、名は?」
「お初にお目にかかります、ランドゥ公爵閣下。私はルインと申します」
こちらに話を振ってきたので、失礼にならないように答える。すると、ジッと睨むかの如く俺の目を見つめてくる。これが野獣の眼光か。やりますねぇ。
「…………」
「…………」
なんすか、この時間。
「ククッ。良い"眼"だ。とても子供とは思えんな。陛下が気に入るのも頷ける」
「恐れ入ります」
ザ・無難な回答でやり過ごす。陛下が気にかけてくれてるのは、色々と知ってるからだと思うよ。
「名乗るのが遅れたな。儂はランドゥ公爵家現当主、アニムス=ランドゥだ。ダグラム伯爵、ルイン殿、この後の叙爵式でまた会おう」
そう言ってライオンは去っていった。うーん、よくわからん人だったな。悪い人ではなさそうだけど。
「ははは。考え込んでいるようだけど、ランドゥ公爵は根っからの武人肌だからね。信じられないかもしれないけど、彼に限っては裏なんかは全く無いから素直に付き合った方が上手くいくよ」
「え、貴族として大丈夫なんですか?」
腹の探り合いとかなしで、公爵家当主って務まるの?
「もし彼を騙したり嵌めたりしようものなら、物理的に滅ぶからね。そんな馬鹿はいないさ」
「なにそれこわい」
リアルで『右ストレートでぶっとばす。真っすぐいってぶっとばす』を実践してる人間がいた。これぞ力こそパワーの究極系ではなかろうか。
腹芸しなくていいのは楽だけど、限度ってものがあるんだよなぁ。
やっぱ貴族って癖が強い人が多いのかなぁ。なんて思いながら、再び控室に向かって歩き出した。
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控室に到着後、伯爵は叙爵式までにまだ何かやることがあるようで「それじゃ、次に会うのは本番だから頑張ってね」と言ってどこかへ旅立っていった。
1人取り残されてしまったので、とりあえず飲み物でも飲んで落ち着こうと果実水を口に含んだ瞬間、急にユニウスが真横に転移してきた。
「ブーーーッ! ゲホッ! ゴホッ!」
驚きすぎて、液体が気管に直送されてしまった。し、死ぬ。
「ふむ。どうやら緊張はしていないようで安心したぞ」
「お前がすべきは安心じゃなくて心配だろうが! ゴホッ! ゴホッ!」
こんな状態でツッコミまでさせおって。転移って人を殺せる可能性を秘めてたんだね。今度から俺も気をつけよう。
……
…………
………………
「落ち着いたか?」
「なんとかね」
やっと俺の様子が落ち着いてきたので本題に入ろう。
「それで急にどうしたの?」
「友の顔を見に来ただけだ。迷惑だったか?」
「迷惑じゃないけど、困惑はしてる」
だって、こいつの中身はあのマルクスだぞ。何か面白ネタを仕込んできてもおかしくない。
「ふっ。その余裕があれば問題はなさそうだな」
「つい今さっきまで、この余裕は全て吹き飛んでたんですがそれは」
1分ほど前までの惨状をもうお忘れか?
でも、微かにあった緊張が消えているのは確かかな。なんか悔しいので、心の中だけで礼を言っておこう。
※ ※ ※
──コンコンコン
ユニウスが、来た時と同じように転移で去っていってから待つことしばらく。控室にノックの音が響き渡った。
「はい」
「大変お待たせ致しました。式の準備が整いましたので、ルイン様をお迎えにあがりました」
ついにお迎えが来たようだ。
思い返せば、なんだかんだでここまで色々あったし長かったな。それも今日で終わりって考えると、感慨深いものがあるようなそうでもないような……。
とにかく、王都に来た最後の用事を済ませに行くとしようか。
次回、シーズ村のルイン
ルインの家名は何になるのか。
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