第121話 ソフィと王都デート
今回はソフィ初恋のキッカケを作った、例のあの人が登場します。
ある日の王都正門前広場にて。
「うわぁ! ここが王都なんだぁ!」
ワクワクを隠しきれない、楽しげに弾む声が上がった。
声の主は、我が婚約者のソフィさんである。
ヴォルクスよりもさらに賑やかな都会の景色に、瞳をキラキラさせて大はしゃぎしている。その綺麗な銀髪には、以前贈った青い花の髪飾りが。
ここまで喜んでもらえると、連れてきた甲斐があったってもんよ。あ、今日は一応正門から入ってきました。
それにしても「今日はソフィを誘って王都で遊んでくる」って言った時のカトレアの笑顔たるや、過去一で良い表情だったまである。
ずっとその顔でいてほしい。俺がおふざけしても笑って許して。
「ルイン君、早く行こっ!」
「あ、ごめんごめん。行こうか」
いかんいかん、余計なことを考えてる場合じゃない。今日はせっかくのデートだ。目一杯楽しもう!
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「すごい人とお店の数ね!」
『……ピュイ〜』
俺たちがまずやってきたのは正門前広場から直結している、お店や露店が立ち並ぶ王都名物『バンブーアンダーストリート』である。……もはや何も言うまい。
楽しそうなソフィとは対照的に、カグラは露骨にテンションがダダ下がりしている。どうやら人混みが苦手らしい。出かける前、カトレアに預けようとしたら頭に爪立てて猛抗議してきたくせに……。
「カグラ、ちょっとだけ我慢してくれ。ここを抜けたら、なるべく人が少ない場所に行くから」
「ごめんね、カグラちゃん」
『ピュイ……』
我慢してくれるようだ。サンキュー・ベイビー。
「ソフィ、ほい」
この人混みだと、はぐれてしまう可能性もあるのでソフィに手を差し出す。俺の意図を正確に汲み取った彼女は。
「うんっ! えへへ」
満面の笑みを浮かべ、"恋人繋ぎ"してきたのであった。
思わぬビッタビタのゴン責めに、少し驚いてしまった。意外とソフィはグイグイくるタイプだったようだ。
※ ※ ※
「おや、そこな少年少女!」
通りを歩いていると、ズラッと並ぶ露天の1つから声をかけられた。
……あれ、なんか今の声、聞き覚えがあるような。声の方に近寄ってみると、そこにいたのは。
「「あっ!」」
「やっぱりね〜。私のこと覚えてるかな〜?」
「ソフィの髪飾りを買った、露店のお姉さんじゃん」
懐かしい顔がそこにあった。あれ以来、ヴォルクスで全く見かけなかったけど、王都で活動してたのか。
「いや〜、頭に何か乗ってるから、お嬢ちゃんがいなかったら分からなかったよ〜」
『ピュイ?』
「うんうん。かわいいね〜。こんなにかわいいんだ。ご主人様に何か買ってもらわなきゃいけないね〜」
「セールストーク下手くそかな?」
話の運び方が雑すぎる。だが、これもせっかくの縁だ。そう高い物でもないし、何か買うのはやぶさかではない……はっ! まさかここまで見越して?
お姉さんを見るとニヤニヤしていた。前言撤回、この人やり手ですわ。
「負けたよ。ソフィ、何か気に入ったのあったらプレゼントするよ」
「……本当にいいの?」
「よき」
「ありがとうっ!」
ソフィが商品を見ている傍ら、カグラがペシペシと抗議してきた。「私の分は!?」ということらしい。プランB? ねぇよそんなもん。
……ていうのは、もちろん冗談だ。
「カグラには後で美味そうな食べ物があったら買ってあげるから、それで許しておくれ」
『ピュフーッ』
許された。何かしら探してあげないとね。
──なお、ソフィが選んだのは髪飾りとお揃いの青いブローチだった。
……
…………
………………
早速ブローチを装着したソフィに、お姉さんが話しかける。
「いや〜良かったねぇお嬢ちゃん。ちゃんと少年をゲットできたようで何より」
──ボフン!
「な! ななななな……」
「あれだけ指を絡ませながら仲良さそうに歩いてたら、エイプでも分かるって〜」
この世界の「猿でも分かる」的な言い回しかな? おっと、ソフィの目がグルグルしちゃう前にお助けしよう。
「最近、婚約したんだよ」
「へぇ! めでたいね〜! 先に言ってくれれば割引してあげたのに〜」
「ええー? ほんとにござるかぁ?」
この人、マルクスと同じくらい胡散臭いんだよなぁ。実は王女でした、とか言わんだろうな?
「はわ、はわわ」
「ほら、ソフィ。もう用は済んだから行くよ」
はわはわ言っているソフィの手を引いて露店を離れようとした俺の背中に、最後にお姉さんの声が届く。
「またのお越しをお待ちしてま〜す! ──使徒様」
…………お前も教会の人間だったんかい。
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忘れずにカグラにも食べ物を与えてから、なるべく人混みを避けてブラブラしていた時のことだった。
先程の喧騒からは少し離れて、隠れ家的なお店がポツポツと存在する穴場的な場所で唐突に、本当に唐突に俺たちは"怪異"に行き遭った……。
「あらん? ルインちゃんじゃな〜い! 可愛いペットを連れちゃってぇ。そちらのお嬢さんは噂の婚約者ちゃんかしらん?」
「ナンテコッタイ」
雲ひとつ無い晴天の下を、パツンパツンのゴスロリ服で堂々と大胸筋を張って闊歩するこの"怪異"は、サニーデビルことキャサリンである。
「ルイン君、お知り合い?」
「違うよ」
「そうよ」
「「…………」」
どうやら見解の相違があるようだ。
「え、えっと?」
ソフィが混乱してしまったので、簡単に説明する。キャシーがちょいちょい邪魔してきたが、なんとか正しい情報を伝えることができた。
「じゃあルイン君の服を作ってくれてる方なんですね?」
「そうよん」
「ありがとうね。じゃあ俺達、デート中だからこれでね。またね。【転移】」
……
…………
………………
俺はなりふり構わずに少し離れた路地裏に転移した。奴から逃げる為なら手段は選ばないぜ。
「ふぅ……。危険は去った」
「いいのかなぁ……」
『ピュイ……』
苦笑するソフィに呆れた様子のカグラである。君たちは奴の恐ろしさを知らないからそんな態度が取れるんだ。
「今見たことは、ぜ〜んぶ忘れて次へ」
行こうか、という言葉を続けることは出来なかった。……なぜなら。
──ヒュ〜〜……ズドンッ!!!
空からサニーデビルが降ってきたからだ。天より舞い降りるゴスロリの筋肉オネエとか……恐怖でしかない。ノストラダムスは、かつてこのことを予言してたのかもしれない。
「えぇ……」
「ひっ」
『ピッ!』
3点着地とか、初めてリアルで見たよ。思ってたよりシュールだったわ。
うん。「なんで居場所分かったんだよ」とか「身体能力おかしくね?」とかツッコミどころが満載だが、きっと答えは『筋肉オネエキャラだから』なのだろう。
「んもう。話は最後まで聞かなきゃダメじゃない。せっかちさんねぇ」
「ご、ごめんね。ちょっとソフィと2人だけの国で、る〜らら宇宙の風に乗りたくなっちゃってさ」
適当な言い訳で煙に巻こうと足掻いてみる。
「よく分からないけど、まあいいわん。あなたの正装が今日か明日には完成するから、伯爵邸に届けておくわよん。呼び出しがあるかもしれないから、予定は空けておきなさい。話はそれだけよ」
ふ、普通だ。え、本当にそれだけ?
「心配しなくてもデートの邪魔はしないわよん。全くルインちゃんはせっかちさんよね。食べちゃうわよ?」
「か、堪忍したってや」
「また服が欲しくなったら声をかけてねん。じゃあね」
バッチーン! と、人を殺せそうなウインクを残してキャシーは去っていった。
「ルイン君。な、なんかすごい人だったね」
「この短い時間で精神的に死ぬほど疲れたよ」
もう王都をぶらつけるメンタルじゃなかったので、ソフィと宿屋に戻ってゆっくり過ごすことにした。
デートは中途半端になっちゃったけど、なんだかんだでソフィは楽しそうだったので良しとしよう。
念の為言っておくと、ソフィの初恋のきっかけを作ったのはキャサリンの方ではありません。
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