第119話 教皇に質問タイム
学院編は全力で回避していくスタイル。
本日は教会本部にある教皇の私室にお邪魔している。聞きたいこともあるし、せっかく転生した先で再会できたのだから遊びにきたよ。
「カグラちゃん、可愛いですね!」
『ピュピュイ!』
……聖女も連れて。
というか、セシリアには「教会本部に行く時は、私にも声をかけてください!」と言われているのだ。大した手間でもないので、送迎転移して差し上げた。
そんな1人と1匹が戯れている姿を横目に、俺は質問の言葉を口にする。
「そういえば先輩、この世界って学院とかあるんすか?」
対面で踏ん反り返りながらソファに座り、組んだ足をテーブルに乗っけてるヨハン教皇。
……信じられるか? この人、宗教組織のトップなんだぜ? 肩書きを知らなければギャングスターにしか見えない。
「規模は違えど主要な都市には大体あるぞ。行くかどうかは本人の自由だがな。家庭教師や、文官、武官用の塾的なもんもそれなりにあるから、ぶっちゃけ金にそこまで余裕がない平民以外、つまり貴族や商人の息子なんかは社交目的以外で行く意味は薄い」
セレナは家庭教師に教わってるって言ってたな。
話を聞いてみると、大きい都市には大体学院があるらしい。なんと国の税金だけでなく、リーン教会もスポンサーになっているので、平民の学費は格安だ(貴族はいろんな名目でむしり取られるが)。
ただ、そういう場所では座学、実技ともに最低限社会で必要になることしか学ばない。なので、社会に出てから成り上がりたければ、自習などでめっちゃ頑張る必要がある。
ちなみに専門的なことが学べる塾的なものは、リーン教会が経営している店舗が全国にチェーン展開されているんだって。もはやこの宗教団体、なんでもアリである。
余談だが、王都にある学院なんかは特に人気があって、身も蓋もない言い方をしちゃうと、ほぼ貴族の婚活会場と化しているみたい。マウント合戦が凄そうだ。
子供にしては能力が高い高位貴族の子息が、入学試験なんかで【ファイアボール】とか撃って「ふっ」「きゃー!」ってなるテンプレなアレをやってるんじゃないかな。知らんけど。
「この国では良くも悪くも、能力が重視されるからな。平民でも能力さえあれば重用される。だから、どこでどう学ぶのが自分にとっての最善か、最適解を探すのが成功のコツだ。まぁお財布と相談が必要だが」
「なるほどな〜」
まぁ最悪誰でも学院には行けるんだから、あとは自分で頑張れよってことね。この世界観でここまで教育が充実してるのは、だいぶ凄いんじゃないかな?
「なんだ、ルインは学院に行きてぇのか?」
「この世界に来たばかりの頃は、それもアリかなと思ってたんですけどね」
色々スキルや魔法を習得できるならアリかな〜、と思っていた時期が俺にもありました。
「今は?」
「今さら初級クラスのスキルや魔法を覚えるために、何年も拘束されたくないのでパス」
「お前なら、そう言うだろうなと思ったぜ」
ごめんよ、リーン様。学院編はテンプレキングだけど、あえてスルーします。あえてね。
【スラッシュ】をはじめとする剣術のアクティブスキルなんかは少し欲しいけど、それも『あれば嬉しいな』くらいの話でしかない。というか、アルあたりにやり方教われば自力で習得できそうな気もする。覚えてたら今度お願いしてみよう。
それ1つで戦局が変わるレベルのスキルなら、無理してでも取りにいくんだけどなぁ。俺は別にコレクターではないからね。食指が動かなければ、ぶっちゃけ要らない。
と、ここまでが表向きの理由だ。
…………本音を言おうか。
学院なんてテンプレ詰め合わせのお中元みたいなものじゃねーか!
『成り上がり』『曇らせ』『悪役令嬢』『ざまぁ』『本当の実力を隠してました』、他にも挙げ始めたらキリがない。
そんな、何が起こってもおかしくない伏魔殿に飛び込むのは、率直に言ってイヤ過ぎる。巻き込まれたくない。俺の知らないところでやってくれ。
デメリットがデカすぎてメリット君が俺の"眼"でも全く見えない程、ちっちゃくなってしまっているじゃないか。
というわけで学院編への突入を全力で回避した俺は、この話題を雑に切り上げた。
※ ※ ※
「うーん。考えれば考えるだけ、聞きたいことは増えていくなぁ」
「別に焦る必要はねぇだろ。いつでも聞きに来りゃいいじゃねぇか」
教皇から優しいお言葉をいただく。お言葉に甘えて、今日は現状気になってることだけ聞こうかな。
「じゃあ法国の事と、何かカグラについて心当たりがあったら教えてもらえません?」
ここまで謎に包まれていた法国について、先輩転生者であるこの人なら何か知ってるんじゃないか。そう思って聞いてみたのだが……。
返ってきた答えは。
「よく分からねぇんだよなぁ」
という拍子抜けするものだった。肩を落とした俺に、教皇は続ける。
「国交が完全に死んでるのは知ってるな? 今となっちゃ、いつからそうなったのかも定かじゃねぇ。少なくとも、『勇者』がこの国を建国した時代には、もう"聖壁"とやらで分断されていたと言われている」
……『勇者』とか、すっごい気になるワードが急にコンニチワしてきたけど、今は一旦置いておこう。
今語られた通り、聖エルディライト法国は誰が言い出したのか不明の"聖壁"と呼ばれるバカでかい壁で外界から隔離されている。なので、正攻法では偵察すらままならないのだ。
しかし。
「10年ほど前、高ランク冒険者に依頼を出して、調査の為に法国に壁を乗り越えて侵入してもらった事があるんだが……」
なんの音沙汰もない隣国が、よほど不気味だったんだろう。探りたい気持ちは分からんでもない。……絶対ロクな事にならなそうだが。
「たしか、リアラさんも以前『この大陸はほとんど全部見て回った』みたいなことを言ってた気がします」
「『剛拳のリアラ』だろ? あいつも依頼を受けてたはずだぜ」
なるほど。だからスタンピード会議の時点で、法国の異常性を誰よりも知ってる風だったのか。
「最初の街しか調査できていないが、表向きは『普通』だったらしい」
「普通とは?」
抽象的すぎてよく分からん。
「ルミウム王国と同じように、普通に人間が生活を営んでるだけだったんだよ」
「まあ、曲がりなりにも国家を名乗ってますから、そうでしょうね」
「ただ調査の最中に、何の前触れもなくいきなりこちらが法国の人間じゃないという事がバレたんだとよ」
それも不思議ではあるが、問題はその後だろう。
「それで、どうなったんですか?」
教皇はため息を吐いて、吐き捨てた。
「"その場にいた全ての法国民"が、目の色を変えて全力で殺しにきたそうだ」
「……は?」
聖エルディライト法国は、思った以上にイカれてるようだ。
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