第118話 唐突に始まる圧迫面接
面接官「特技はイ◯ナズンとありますが?」
ルイン「はい。イオ◯ズンです」
「へぇ、珍しいね〜。ブレスドラゴンなんて、滅多にお目にかかれるものじゃないぜぇ。まぁ、ドラゴンって時点で激レアさんなんだけど」
『ピュイ』
ズボラな青年マルクスは、俺達を見るなりそう言った。特に驚いたりしないあたりは流石である。
宿の従業員から俺を呼んでる人がいると聞いて、ロビーに降りてきてみればこの男が待ち構えていた。マルクス、お前だったのか……。
あ、宿屋はカグラのことを快く迎え入れてくれたよ。どうやらペットOKの宿らしい。だから建物の造りが大きめなのかもしれない。
「それで俊足のマルちゃん、今日はどうしたの?」
「ん〜? なんだいそりゃ? ルイっち、せっかくの再会だってのに、変なあだ名つけないでくんない? やめてよ、そういうの」
「お前が自分で言い出したんだろ!」
忘れてんじゃないよ。薄々思ってたけど、やっぱアレはその場の思いつきで言っただけかよ。
「今日来たのはね〜、叙爵前に色々と決めておきたいことがあったのさぁ」
「たとえば?」
「家紋とか、姓とかだよん。貴族になるからね、そういうのも必要になってくるのよ」
あ〜、言われてみればその通りですわ。
完全にすべてお任せしてたけど、家紋はともかく姓くらいは自分で決めたい。わがままなお年頃でごめんよ。
「紋章官も待っているから、今すぐ飛ぶぜ〜」
「飛ぶって……まさか王城っすか!? え、俺この格好で大丈夫?」
今の俺は上下黒のラフなスタイルだ、以前街で見かけて「お、黒の◯士の普段着っぽいじゃん」と思って衝動買いしたものだ。男は幾つになっても厨二心を失わないのである。ラグーラビットのシチューが食べたい。
「問題ないよん。今日は公式の場じゃないんだ。パジャマでも問題ないって」
「マルクス、そんなこと言うと本当にパジャマで行くぞ」
「悪いルイっち。俺が親父に殺されちゃうから…………その格好で頼む」
最後、一瞬だけユニウスモードに入ったあたり、国王陛下への恐怖心がうかがえる。
「カグラ……この子はどうすればいい? 置いてく?」
『ピッ!? ピュ、ピュイー!』
──ペシペシペシ!
置いていかれるかもしれないと聞いたカグラが、超高速で頭を叩いて猛抗議してくる。モグラ叩きが上手そうだね、君。
「いんや、その子も向こうで待ってるメンツには見せておきたいね〜。連れて行っちゃおう。せっかくなら『女神の使徒は竜の祝福も受けている』っていう路線にするのさぁ」
「イメージ戦略も大事ってことね」
「そそそ。んじゃ、もういいかな?」
おっと、いけない。マルクスが相手だとついつい話し込んじゃうぜ。
「うん。お願いね。カグラは大人しくしてるようにね」
『ピュイッ!』
いい返事だぜ。いい返事すぎると、逆に不安になっちゃうぜ。
「ちなみに、ルイっちは王城に無断で飛んじゃダメだよん? お兄さんとの約束だ。…………いや、マジでね」
「それくらい、言われんでも分かっとるわい」
流石にそこまで命知らずではない。そんなことしたら一瞬で社会的な死がプロミスされてしまう。物理的にも死ぬかもしれない。
俺の様子を見て、「ウンウン」と満足気に頷いたマルクスは今度こそ転移を発動した。
「跳べよぉぉぉぉっ! ……【転移】」
「過去には跳ぶなよ!?」
なんてツッコミながら、転移特有の浮遊感と共に俺の視界が切り替わった。
……
…………
………………
「到着だよん」
どうやらここは王城内のどこかの部屋らしい。
『いかにも』な石造りの綺麗な室内に、嫌味にならない程度に華美な装飾や調度品が飾られている。
うん、これは相当格式がお高い部屋なんでしょう? …………だって。
「ふむ。思ったより遅かったな、ユニウス」
「申し訳ございません、父上」
「よい。責めている訳ではない」
アーサー=フォン=ルミウム陛下。
我が国の王様がこの場にいるのだから。
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「腰を据えて話すのはこれが初めてだな、女神の使徒ルインよ」
「はっ! ご尊顔を拝謁する機会を賜われましたこと、幸甚の極みにございますれば!」
あっという間に、王様と対面で座らされる俺。この部屋には現在俺と王様、マルクス、帝城でも見たバチくそ強そうな騎士(近衛騎士団長らしい)、そして紋章官の5人がいる。
……圧迫面接ってレベルじゃねーぞ!
「くくくっ! そう固くなるな。言葉遣いも気にする必要はない」
「はっ! 浅学の身なれば、手前には国王陛下の崇高なるお言葉の真意を推し量ること叶わず」
「余が話しづらいのだ。ダグラム伯爵家のガーランドと話すくらいの感覚でよい」
本当にござるかぁ? こっちがちょっとフランクになった瞬間「かかったなアホが!」とか言ってハメてこない?
「はっはっは! ここまで"あいつ"の言う通りになるとはな! 安心しろ。『余はヨハン教皇と親友だ』これを伝えれば、お主も普段通りになると言っておったぞ」
「あ、それを聞いて安心しました」
それを先に言ってよ。なら何の心配もいらないね。もし俺が何か無礼を働いても教皇がなんとかしてくれるだろう。頼むぜパイセン!
「さて、今日は少しルインと話をしてみたくてな。少々無理を言って、時間を作ってもらったのだ」
「俺とですか?」
さて、これはどういう意図だ? 表情からは何も読めないな。さすが大国のトップ、今まで見た中で1番"上手い"ね。
「深い意味は無い。ただ、ルインという人間の『人柄』を見せてもらいたかっただけだ」
「お言葉ですが、おそらく俺については色々と調べられたのでは?」
「無論だ。ユニウスからも当然話は聞いている。だが、やはり直接見なければ分からぬことも多いのだよ」
スキルじゃないな。単に"経験"だろう。人を見る目に自信ニキって訳だ。
俺の目をしばらくじっと見て、やがて陛下は満足そうに頷いた。
「このわずかな対話だけでも、お主がどう言う人間かはおおよそ分かった。やはりヨハンの奴が言うとおり、面白い人間だな」
「教皇が?」
「うむ。昨日城に来て、『2人』で色々話をさせてもらったぞ」
ってことは転生前の知り合いってことも軽くは話したんだろうなぁ。
先輩、この王様をかなり信頼しているみたいだね。俺が転生するよりもっと前に、何かそういう出来事でもあったのかな。
「そちらのドラゴンの赤子のことも気になるが、それはまたの機会にしよう」
『……ピュイ?』
良かった。全くカグラについて触れないから、どうやって紹介しようかと思ってたよ。
「余は執務に戻る。この後は紋章官と打ち合わせをしていってくれ。ユニウス、お前は最後までこの場を頼む」
「ハッ!」
こうして、王様は近衛騎士団長と共に部屋を後にした。
しばしの間。
俺の責めるような声が、室内に訪れた静寂を破る。
「マルクス。"報連相"って知ってる?」
「通報、連行、相談」
「相談しか合ってねーよ! 陛下がいるなら先に言えって言ってんだよ!」
何だその犯罪者用の"報連相"は。捕まった後に相談とか、悪あがきしてんじゃないよ。相談するなら事を起こす前にしろや。
「ゴホンッ」
「「あ……」」
そうだ、ここには紋章官さんもいたんだった。
「打ち合わせ、始めてもよろしいですかな?」
「「すみませんでした」」
その後、小一時間ほどかけて粛々と打ち合わせを行う俺達であった。
※ ※ ※
「では最後に、ルイン殿の姓はいかがなさいますか?」
実は叙爵するって聞いた時から、もう俺の中で決まっていたりする。
それは……。
「────」
「なるほどね〜。ルイっちらしくていいんでない?」
「了解しました。それでは、私もこれで失礼致します」
「よろしくお願いします」
紋章官さんを見送ってから、マルクスに宿へ送ってもらうことになった。俺が自分で転移するのは、やめた方がいいとの事だ。
……
…………
………………
瞬時に視界が切り替わり、宿の近くの路地裏へ。
そのまま再度王城へ帰ろうとしたマルクスだが、ふと思い出したかのように告げてくる。
「叙爵まではもう少し時間があるからねぇ。少年よ、王都観光を存分に楽しむといい。帝国でいつか行きたいって言ってたもんね〜」
「それは覚えてんのかい……。ありがとう。時間があったら色々見てみるよ」
「ピュイッ!」
カグラもうずうずしてるしね。
「そいじゃ、またねんルイっち」
「うん。またね」
別れの挨拶を交わし、王城へ転移していくマルクスを見送った俺達は。
「さて、明日は何して遊ぼうか!」
「ピュイ? ピュイ!」
少し寂しくなったような気がしないでもない空気の中で、カグラとじゃれあいながら明日のことを考えるのであった。
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