第114話 婚約者と母さんと騎士と僕
信じられないことに、今回の帰郷を最初に考えたのって30話以上も前なんですよ。
「はい、到着っと」
俺、ソフィ、セレナ、グレースの4人はシーズ村にある"俺の部屋"へとダイレクトアタックした。村人達とわちゃわちゃするのは、また今度ということでね。
「ここがルイン様のお部屋ですか!」
「うちのルイン君の部屋とは全然違うね」
「……というより、何も無いな」
3人からそれぞれ感想をいただく。宿の部屋は割と物が多いからね。それに引き換え……。
「テーブルとベッドしかないからね」
この村にはそもそも"物"自体があまり入ってこない。必要に迫られなければ「自分で何か作ろう!」ともならんしなぁ。その結果がこれである。
その時、部屋の外からダダダッと足音が聞こえてきた。
──ガチャ
「ルイン!」
「ただいま母さん」
我が母セラから"ガバッ"と熱い抱擁を受ける。なんで俺がいることに気が付いたかって? そりゃ母ちゃんだからだよ。
「魔法でいつでも村に来れるようになったからね。早速(大嘘)会いに来たよ」
「あらあら、ルインは便利な魔法を覚えるの上手ね〜」
俺のめっちゃ雑な説明も含めて、この時点でツッコミどころ満載のはずだが、我が母は通常運転である。さすがマイマザー。
「最近あまり顔を見せてくれないから、心配してたのよ……って、あら?」
母さんがセレナたちの存在に気付いたようだ。
「今日は兄さんの誕生日のお祝いと、母さん達に報告もあるんだ」
「そうなの? なら自己紹介の前に、まずは場所を変えましょうか」
ここは狭いからね。5人もいれば、そりゃキャパオーバーだわ。
なお、『怠惰』という名の誘惑に負けて、1週間も宿でダラダラ休んで機を逃していたことには触れてはいけない。いいね?
上機嫌であることが一目で分かる母さんの背中を追いかけ、俺たちはリビングに移動した。
※ ※ ※
父さんと兄さんはこの時間は畑の方に行っているらしいので、先に母さんに3人を紹介することに。
全員が適当に座ったのを確認してから、話を始める。
「じゃあみんなを紹介するね。まず、この子はセレナ。ダグラム伯爵家の御令嬢だよ」
「はじめまして、お義母様。セレナ=ダグラムです。これからよろしくお願い致します」
セレナが綺麗なお辞儀をする。それを受けた母さんはというと。
「これはどうもご丁寧に。ダグラム伯爵家ってことは、領主様の御息女ね? これからもルインと仲良くしてあげてね」
「はいっ! これから一生仲良くさせていただきます」
「あらあらうふふ」
やはり大物である。伯爵家の令嬢相手に、まったく物怖じしない農民って……。昔から度胸あるなぁとは思ってたけど、母さんがビビってるところを見たのって、スノーボアの時くらいかもしれない。
あと、セレナの言葉からはそこはかとなく重力を感じたが、気のせいってことにしておこう。下手にツッコんだら墓穴にナイスインしてしまう。
「ちなみにこちらの騎士は、セレナの護衛のグレース」
俺に紹介されたグレースが自信に満ち溢れた顔で口を開く。
「セレナお嬢様の護衛騎士をしているグレースだ。セラ殿、以後よろしく頼む」
「グレースさんね? よろしくね〜」
……普通じゃん! 無意味に自信満々な顔とかしないでいただきたい。何かあるのかと勘繰っちゃうでしょうが。
最後に。
「こちら、俺がお世話になってる宿屋の娘さんでソフィ」
「ソフィですっ! るっ、ルイン君とは仲良くさせてもらってます! よろしくお願いします!」
あたふたしながら挨拶をするソフィ。これはすでに、ぐるぐるお目々の一歩手前の状態だ。危険が危ない。
「ソフィちゃんね。ルインがいつもお世話になってるわね。大変でしょう? この子の世話は」
「はいっ!」
衝撃の事実が判明した瞬間である。
母ちゃんに手のかかる子だと思われてた模様。加えて、ソフィにも大変だと思われていた模様。薄々分かっていたことではあるが、直で聞くと耳が痛いですね。
「でも、ルイン君のお世話は楽しいですからっ!」
「あら? ……あらあら?」
にっこり笑顔で言うソフィを見て、母さんも何かを察したようだ。
かつて『あらあら、うふふ』の汎用性の高さに気付いてしまった我が母は、あれからキャラがすっかり定まってしまった。
もはや「とりあえず何かあったら言っとけ」みたいなノリである。
さすがにグレース以外婚約者だとは思わないだろうし、母さんがあらぬ方へと想像の翼を羽ばたかせて、ここではないどこかへ飛び立ってしまう前に、キチンと真実を説明してしまおう。
──叙爵や婚約がああなってこうなってどうなってそうなって(事情説明中)。
「話は理解したわ。……まったく。相変わらず落ち着きのない子ねぇ、うふふ」
「まぁ……それは自覚してるよ」
困ったような笑みの中にも慈愛を滲ませる母の言葉に、俺はなんともこそばゆい気持ちになってしまう。
一転、表情を真面目なものに戻した母さんが、セレナとソフィに向かって頭を下げてこう告げた。
「色々と困ったところはありますが、ルインは私の自慢の息子です。お二人とも、どうか今後ともよろしくお願いします。グレースさんも、この子たちを見守ってあげてね」
「「はいっ!」」
「もちろんだ」
「…………」
最近、涙腺が緩くなってる気がするな。ついこの前、先輩に再会した時にギャン泣きしたばっかなのに、また視界が滲んでしまう。
(不意打ちはズルイって……母さん)
慣れ親しんだ木造の『実家』の匂いを全身で感じていると、ノスタルジーが容赦無く俺に襲いかかってくる。
このなんとも暖かな切なさは──嫌いじゃない。
グッと涙が溢れるのを堪えながら、父さんと兄さんが帰ってくるまで、俺たちは他愛のない話を続けるのだった。
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