第111話 王都で"彼"を待つものは
引き続き、リーン教会本部です。
「結構待たされるね」
「ちょうど忙しかったのかもしれませんよ」
「むしろ私はアポをとっていなかったことに驚いたわよ。よくあんなに快く迎えてくれたわね」
俺たちが教会を訪れ、この部屋に案内されてから1時間ほどが経過した。いまだに何の音沙汰もないので、ついぼやきが口から出てしまう。
それなら、どうしてアポを取らなかったのかって? ……コレガワカラナイ。
あとセシリアの言う通り、今は忙しいタイミングだったのかもしれないね。
「そういえば……ちゃんと聞いたことなかったけど、教皇ってどんな人なの?」
「なかなかファンキーな人ですよ」
教皇の人柄を表す言葉で"ファンキー"って初めて聞いたかもしれない。でも、この聖女ちゃんも大概だしなぁ。
「セシリアよりも?」
「失礼な。そんなこと言うと、聖女の権力を使って無理やり婚約しちゃいますよ」
「聖女が家庭崩壊を目論んでいる件」
せっかく奇跡的(?)に揉めずに2人との婚約話がまとまったのに、波風立てようとすんなや。
「ほら、見てみ。カトレアも怖い顔してるじゃん」
「え?」
ソフィの幸せを願うカトレアが、完璧な能面になっている。いや、怖い怖い!
「セシリア。余計なことはしないでちょうだいね?」
「ひえっ……は、はい」
圧倒的な『覇気』を浴びせられ、すっかり萎縮してしまった聖女セシリア。それを見て、カトレアは普段の顔に”すんっ”と戻った。その早さはまるで一種の顔芸のようだ。
芸達者だなぁ。水魔法も使えるし、そのうち『花鳥風月』とか言って扇子から水を噴き上げる宴会芸とか、やってくれないかな。髪の色も若干似てるし。……ハッ!
──キッ! 睨まれる。
──サッ! 目を逸らす。
無言の攻防。何とか逃げ切ったぜ。
と、その時。
──コンコンコン
何とも言えない空気になってしまっている室内に、ノックの音が響き渡った。ナイスタイミング!
部屋に入ってきたシスターは、特に部屋の空気を気にした様子もなく告げる。
「失礼します。準備ができましたので、ご案内いたします」
やっとご対面か。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「違うんかい」
案内された先は……なぜか食堂。すいませ〜ん、ルインですけど〜、ま〜だ時間かかりそうですかね〜?
とりあえず席には着いたものの、状況が理解できていない俺は、ここまで案内してくれたシスターに直接聞くことにした。
「いつ教皇に会えるんですかね……てか、なんで食堂?」
「教皇様からは『話は飯を食ってからだ。いいから黙って食っとけ』と言付かっております」
「なるほど。分からん」
教皇の意図がこれっぽっちも読めない。何を考えているのか。そんな俺を見かねて、2人から声がかかる。
「食べれば会えるのよね? なら、大人しく従いましょう。別に焦る必要もないんだし」
「そうですよ! 教皇様の料理は美味しいんですよっ!」
「……確かに。待たされすぎて、ちょっぴりカリカリしちゃってたよ。ごめんね」
反省反省。カトレアの言う通り、この後、何か予定がある訳でもないんだ。焦る必要はない。
元はと言えば俺が横着したからだしね。ゆっくり教皇の料理を…………ん? 教皇の料理?
「待った。え、今から食べる料理って、教皇自ら作ってるの?」
気になったので、案内のシスターに聞いてみると。
「ええ。その通りです。まもなく運ばれてきますよ。あっ、来ましたね」
ならやはり、先に俺達と会ってから食事でもよかったのでは。と思わないでもなかったが、ここまできたのだ。もう大人しく流れに身を任せよう。
運ばれてきた料理が目の前に並べられていく。あれ? 懐かしい匂い。それに……これは、肉野菜炒め?
思考が停止する。
──お疲れっス、先輩! またアレ作ってくださいよ。肉野菜炒め。
──お前なぁ。せっかくの賄いだぞ。そんな雑なもんでいいのか? 俺は楽でいいけどよ。
──そうなんスけどね。働いた後は、ああいう男メシが食いたくなるんスよ。
遥か彼方の記憶がフラッシュバックした。……視界が滲む。
「ルイン?」
「ルインさん?」
俺を呼ぶ2人の声も、どこか遠くに聞こえる。今はただ、目の前の料理しか目に入らない。
「……いただきます」
たったひと口。
俺が状況を理解するには、それだけで充分だった。ずっと食べたかった味。よくこんな異世界で再現したものだ。相当、試行錯誤を繰り返したのだろう。
でも今は、そんなことより。
「ゔまい……っ!」
何度願ったことか。
二度と味わえないと諦めていたモノが、確かにここにある。
「ひっぐ……! ゔまいっず……先輩……っ!! ……グスッ!」
ああ、ダメだ。"あの日"は泣けなかったのに、今は涙が止まらない。
一心不乱に口に運ぶ。流れる涙にも構わず……。
気を遣って、黙ってくれているカトレアとセシリアに、心の中で感謝した。
やがて。
「ごちそうさまでした……っ!」
涙がようやく止まった頃、俺は料理を平らげた。
そして、まるでそのタイミングを見計らっていたかのように、俺に声がかけられる。
「俺からの『サプライズプレゼント』は気に入ってもらえたか? ……塁」
「っ! やっぱ賄いは、これが一番好きっすわ。また作ってくださいね。……先輩」
返事をしながら声が聞こえてきた方を見ると、頭にコック帽をかぶった欧風のイケオジが立っていた。
見た目は全くの別人になってしまったけれど、間違えるはずがない。この溢れ出るヤンキー感は俺に料理のイロハを教えてくれた先輩だ。【視て盗む】の、そもそものルーツもこの人のような気がする。
「たまにはお前が作れや。はははっ! 相変わらずみたいで安心したぜ」
「俺もっす」
どちらともなく近づいて握手を交わす。その手からは生きている人間の"熱"を感じる。それが今は、なによりも嬉しかった。
「久しぶりだな」
「先輩も…………なんか、やたら老けてません?」
「ぶっ飛ばすぞ」
こうして俺は、かつてお世話になった『先輩』と遥か遠い異世界の地で再会を果たしたのだった。
という訳で、『間話 その転生者は再会を待ち望む』は教皇視点でした。
もし少しでも『面白い』『続きが読みたい』と思っていただけたら、
ブックマークと評価を入れていただけますと嬉しいです!
皆様の応援がなによりの力となりますので、よろしくお願いします。




